「小さな声」を切り捨てる社会が行き着く先にあるもの

「小さな声」を切り捨てる社会が行き着く先にあるもの

写真/ちだい

◆小さな声を、無視するな

 やはりまだ、心愛(みあ)さん虐待死事件のことを考え続けている。先週も書いたように、被害者が自分の子供と同世代ということもある。そして加害者である父親のことを決して他人事として捉えられないでいるということもある。ただ、決してそれだけではない。

「お父さんにぼう力を受けています。夜中に起こされたり、起きているときにけられたりたたかれたりされています。先生、どうにかできませんか」

 心愛さんが学校のアンケート用紙に書き残したこの言葉は、ことごとく無視された。それどころではない。彼女が信頼していたであろう担任の先生も学校も、アンケートを父親に見せ、父親の反論を許し、加害者である父親の言葉だけを信じた。小さな叫びは無視され、大きな声だけが信じられ採用されたのだ。

 心愛さんの事件が大きく報じられるようになった2月初旬、初めて石垣島を訪れた。ニュース番組を流していた羽田のロビーの大画面テレビが、先にあげた心愛さんのアンケート用紙を大写しにしていたのを今もはっきり覚えている。

 国はいま、石垣島に陸上自衛隊の基地を造ろうとしている。そしてこの計画に反対する人々がいる。

 反対派の中でもっとも大勢を占める意見は、「自衛隊が石垣島に来ることに反対してるんじゃない。なぜこの地区に造るのか、その説明がないのはおかしいじゃないか」というものだ。

 調べてみると確かにそうだった。国も石垣市も、地域住民に説明を一切していない。基地予定地の町内会でさえなにも聞かされていないというのだ。その点では、一応は地元町内会の了解をとってはいる辺野古新基地の建設より悪質と言っていいだろう。基地予定地とは小さな川一本挟んで反対側に住む農家でさえ「隣に基地ができるのなんて、先月聞いたばかりだ」という。

 地域住民への説明もないまま、そして、用地買収さえ進んでいないなか(なぜか、とある石垣市議の所有する土地だけは真っ先に買収されているが)防衛省は3月から工事を強行する姿勢を崩さない。

「こんな酷い話、ないと思うんですけどね。でも、誰も僕らの話、聞いてくれないですからね。聞いてくれさえすれば……ね」

 取材に応じてくれた、とある反対派住民が肩を落としながらこう語った光景が目に焼き付いている。

 小さな声を無視し大きな声だけを信用することで、私たちの社会は一人の少女を殺した。父親が心愛さんを殺したのではない。みんなでよってたかって殺したのだ。

 取り返しのつかない代償を払って我々の社会は、小さな声を無視する危険性を学んだはずだ。だが、その教訓は、どうもこの南の島では生かされていないようにしか、思えない。

<取材・文/菅野完>

すがのたもつ●本サイトの連載、「草の根保守の蠢動」をまとめた新書『日本会議の研究』(扶桑社新書)は第一回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞読者賞に選ばれるなど世間を揺るがせた。現在、週刊SPA!にて巻頭コラム「なんでこんなにアホなのか?」好評連載中。また、メルマガ「菅野完リポート」や月刊誌「ゲゼルシャフト」(https://sugano.shop)も注目されている

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