静止画ダウンロード違法化。ソフトウェア開発者が抱いた「キャッシュ」についての疑問

静止画ダウンロード違法化。ソフトウェア開発者が抱いた「キャッシュ」についての疑問

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◆静止画ダウンロードの違法化が問題になっている

 静止画ダウンロードの違法化が話題になっている。インターネット上に、違法に配信されたと知りながら、有償の漫画や雑誌、小説、写真などをダウンロードする行為に、2年以下の懲役か200万円以下の罰金、またはその両方を科すというものだ。

 誰のための、何のための法案なのかという疑問がある。出版社の要請と言われているが、守られるべき立場のマンガ家や出版社からは非難が続出している。内容もさることながら、文化庁の進め方についても問題視されている。

 そうした声を受けてか、「自民総務会が了承先送り」というニュースも出てきた。しかし「直接かかわっている人の懸念を払拭していく必要がある」「(関係者への)説明不足だ」などとも意見が出ており、先送りしただけのようにも見える。

* 違法ダウンロード、罰則拡大へ

* DL違法化「表現の自由、配慮を」出版業界が声明(朝日新聞)

* 日本漫画家協会「ダウンロード違法化」見直し求める声明発表(IT Mediaニュース)

* DL違法化「文化庁は与党に正確な情報を提供していない」知財法専門家が批判レポート(弁護士ドットコム)

* ダウンロード違法化拡大、自民総務会が了承先送り(朝日新聞)

◆キャッシュの問題はどうなる?

 こうしたダウンロード違法化について、よく問題として取り上げられるのは、キャッシュについてだ。Webページの閲覧は、サーバー上のコンテンツをダウンロードして、ローカルのWebブラウザで表示するものだ。ネットからダウンロードしたコンテンツは、ローカルのハードディスクドライブなどの領域に、キャッシュとして一時的に保存される。

 この場合の「キャッシュ」は、「現金」(cash)という意味ではなく、「貯蔵庫」(cache)という意味だ。Webブラウザは、一度ダウンロードしたコンテンツをローカルに保存しておくことで、再度のアクセス時に再ダウンロードせず、高速に表示する仕組みを持っている。

 つまり、特殊な設定をしていない限り、Webブラウザを使いコンテンツを閲覧すると、ローカルにファイルがダウンロードされて保存されるわけだ。

 リンク先に何があるのか事前に分からないことは多い。リンク先に違法なファイルがあった場合、意図せぬダウンロードと保存が発生することになる。

◆先行事例、映画や音楽の場合

 映画、音楽に関しては、2010年1月1日にダウンロードが違法化された。違法化の年度の「平成21年通常国会 著作権法改正等について」を見てみると、「改正法Q&A」にキャッシュの扱いについての説明がある。以下、引用する。

“問10 「YouTube」などの動画投稿サイトの閲覧についても,その際にキャッシュが作成されるため,違法になるのですか。(法第30条1項3号)

(答)

 動画投稿サイト等から動画を視聴する際に,視聴するデータがコンピュータ内部に一時的に保存されることがありますが,このような情報の蓄積(キャッシュ)に関しては,今回の改正に盛り込まれている電子計算機における著作物利用に伴う複製に関する著作権の例外規定(第47条の8)が適用され,権利侵害にならないと考えられます。違法投稿された動画を視聴する際にコンピュータ内部に作成されるキャッシュについても同様です。

 ただし,こういったキャッシュをキャッシュフォルダ(記憶装置上でキャッシュが作成・格納される領域)から取り出して別のソフトウェアにより視聴したり,別の記録媒体に保存したりするような場合については,この例外規定は適用されず,著作権が及ぶものと考えられます。(第49条)”

 著作権の例外規定「第47条の8」とは以下のようなものだ(著作権法の一部を改正する法律)。

“第四十七条の八 電子計算機において、著作物を当該著作物の複製物を用いて利用する場合又は無線通信若しくは有線電気通信の送信がされる著作物を当該送信を受信して利用する場合(これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る。)には、当該著作物は、これらの利用のための当該電子計算機による情報処理の過程において、当該情報処理を円滑かつ効率的に行うために必要と認められる限度で、当該電子計算機の記録媒体に記録することができる。”

「改正法Q&A」では、別のソフトウェアで閲覧する場合は例外規定は適用されない、つまり違法という判断が示されている。

 しかし、キャッシュを閲覧する行為はそれほど特殊なことなのだろうか。自分のパソコンに保存された情報を確認するのは、犯罪的な行為なのだろうか。キャッシュは再度の表示を高速化するためにある。適法な再閲覧と、違法な再閲覧の境界は何なのか。

 以下、考察を深めるために、実際にWebブラウザのキャッシュを見るというのが、どういう行為なのか確認する。まず次項では、パソコンで最大のシェアを誇る『Google Chrome』で、キャッシュがどのように保存されているのかを見ていく。

◆Google Chrome のキャッシュの仕組み

 『Google Chrome』は、オープンソースのWebブラウザ『Chromium』ベースのWebブラウザだ。オープンソースであるために、プログラムの内容が公開されている。また、キャッシュの仕組みについてもドキュメントがWebで閲覧できる(Disk Cache、Disk Cache 3.0)。

 詳細は省くが、普通にWindowsにインストールした場合は、「C:\Users\ユーザー名\AppData\Local\Google\Chrome\User Data\Default\Cache」というパスにキャッシュは格納される。このフォルダの中には、1つのインデックスファイル「index」と、「data_0」「data_1」…といったデータファイル、そして「f_〜」という名前の無数のファイルが作成される。

 ダウンロードしたコンテンツは、「data_〜」というデータファイルに格納され、その規定の容量をオーバーした分は、「f_〜」という名前の別のファイルに保存される。つまり、ダウンロードしたファイルは、複数のファイルに分散されて記録される。これらは暗号化されておらず、適切な手順を踏むと元のファイルに復元できる。

◆Google Chrome のキャッシュを取り出すソフト

『Google Chrome』のキャッシュの仕様やプログラムは、オープンソースなので公開されている。そのため、キャッシュから元のファイルを復元するソフトも存在する。そうしたソフトはいくつかあるが、一例として「Nir Sofer」の「ChromeCacheView」を挙げておこう。

 このソフトを実行すれば、キャッシュに格納されているファイルの一覧が表示される。ファイルを選択して、メニューの「File」>「Copy Selected Cache Files To … (F4)」を選択すると、キャッシュとは別の場所にファイルを複製できる。

 暗号化はされていないので、外部のソフトから取り出せるのは驚くことではない。何のプロテクトも掛かっていない自分のパソコン内にあるデータを閲覧しただけである。

 もし、ソフトを試すなら、念のためにキャッシュを空にして、問題のない自作のコンテンツを閲覧してそのキャッシュを確認した方がよい。そして、ソフト自体を削除しておくことをおすすめする。法律に従うなら、自分のパソコン内のデータを見るこうした行為は、違法になる可能性があるからだ。

◆Internet Explorer や Firefox の場合

『Google Chrome』だけでなく、『Internet Explorer』や『Firefox』についても見ていこう。

『Internet Explorer』の場合は、「歯車アイコン」>「インターネット オプション」>「全般」タブ>「設定」ボタン>「インターネット一時ファイル」タブ>「ファイルの表示」ボタンを押すと、キャッシュされたファイルの一覧が表示される。

 ダブルクリックすればファイルを開ける。『Google Chrome』の時のような特別なソフトは必要ない。「別のソフトウェア」の使用をためらうなら、『Internet Explorer』のウィンドウにドロップするとよい。Webブラウザ上でキャッシュを確認できる。

 次に『Firefox』の場合は、「C:\Users\ユーザー名\AppData\Local\Mozilla\Firefox\Profiles\〜\cache2\entries」内にキャッシュが入っている。拡張子が付いていないために分かり難いが、バイナリエディタで閲覧すると、ファイルがそのまま保存されているのが分かる。ある程度慣れたプログラマなら、ファイルの先頭数バイトを見れば何のファイルか分かる。そのため拡張子を付ければ、中身を画像表示ソフトで確認できる。

 拡張子を付けなくても、『Firefox』のウィンドウにドロップすると自動でファイルの種類を判別して表示してくれる。『Internet Explorer』と同じように、「別のソフトウェア」を使用せずにキャッシュを確認できる。

 Webブラウザのキャッシュは、隠されたファイルでも特別なファイルでもない。いつでも誰でも閲覧できる状態で、パソコン内に保存されている。

◆グレーな法律の問題

 文化庁は、キャッシュを取り出して別のソフトウェアで閲覧したり、別の記録媒体に保存する場合は違法と考えている。しかし、ソフトウェア開発者としては疑問が残る。

 先述のように、Webブラウザのキャッシュは、誰でも簡単に閲覧ができる。同じソフトウェアで開くか、別のソフトウェアで開くかは手順の問題でしかない。それにWebブラウザには、オフライン ブラウジングの機能もある。ネット非接続時に、キャッシュをもとにWebページを表示する機能だ。

 また、Webブラウザのキャッシュの記録場所は、設定で自由に変えられる。その保存先をUSBメモリにした場合はどうなるのか。そのUSBメモリをパソコンから抜いて、別の場所で続きのブラウジングをすると犯罪になるのか。

 Webブラウザ自体をUSBメモリに入れて完結させることもできる。キャッシュの保存先も全てまとめてポータブル(持ち運び可能)にできるのだ。それは犯罪的な行為なのだろうか。

 Webブラウザだけの問題ではない。情報の収集をおこなうために、ネット上の情報をダウンロードして集めるWebクローラーの作成も困難になる。

 Googleのような検索エンジンは、ネット上のファイルを大量に集めて、検索という新しい価値を提供している。違法か適法か判断しながらファイルをダウンロードすることは事実上困難だ。こうしたサービスは、今後日本から生まれなくなるだろう。そうなると、今後出てくる情報技術のイノベーションを阻害することは容易に想像できる。

 私は法律の専門家ではない。そのため「キャッシュ」というソフトウェアの仕様の面から、静止画ダウンロード違法化について考えてみた。

<文/柳井政和 Image by MIH83 on Pixabay>

やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。

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