民泊で人生の再生をはかったシングルマザーの話〜金欠フリーライター、民泊をはじめる(10)

民泊で人生の再生をはかったシングルマザーの話〜金欠フリーライター、民泊をはじめる(10)

Image by Harry Strauss via Pixabay

「私が離婚した時、残されたのは家一軒だけでした。元夫が働いていなかったこともあり、慰謝料・養育費は一切とれませんでした」

 都内で民泊ホストを続けるイラストレーターのシングルマザー・サユコ(仮名・敬称略)の述懐である。現在小学生と二歳の子供がいる。小学生の子供は前夫の子供で、二歳の子供は現在のパートナーとの子供である。

 拙著「貧困脱出マニュアル」で分析したが、日本の貧困はほとんどパターンが同じである。離婚したシングルマザーが元夫から何らかの事情で慰謝料・養育費が取れず、再就職できない。そして貧困の負のループにはまって抜けられない。筆者の実家もそうだったし、筆者がそこから抜け出せたのは稀有な事例である。

 唯一サユコに残されていたのは都内の一軒家だった。「地上二階・地下一階、地下は大きな一部屋で、一階が二部屋とトイレ、二階がリビングとお風呂という間取りですね」

 家があるだけ恵まれていた、といえばその通りだがサユコに残された道はこの家を活かすことしかなかった。

◆「元気な人があちらから来る」民泊の利点

「元々イラストレーター仲間が震災後東京から地元に戻り、たまに東京に長期滞在するときにうちに泊まっていたことなどもあり、何となく他人とでも家の中で一緒に暮らせるんだなというのは感じていました。離婚した時に、結局主婦のスキルなんて家事くらいしかないじゃないですか。でも民泊ならそれを活かして清潔で快適な環境さえ提供すればいいのだから、ということですよね」

 民泊を始めたのは、「はっきり覚えていないけど、四・五年くらい前だと思います」ということだが、先述の通り元夫は就業していなかったため、慰謝料もなく、元手そのものがなかった。

「落ち込んでいましたし、先々の不安でいっぱいでした。やっぱり、シングルマザーって社会との接点がないじゃないですか。“シングルマザーの会”みたいなのもネットを探せばあるにはありますけど、そこに行くのにも心理的ハードルが大きいですし、仮に行ったとしてもお互い暗い者同士が“寂しい”と言い合ってもあんまり助けにならないというか。その点、民泊なら元々元気な人があちらから来てくれますからね。民泊はシングルマザーに限らず、家に要介護の人がいるとか、孤独な老人とか、そういう人に一番おすすめですね」

 サユコは民泊を始めて間もなくやってきたオランダ人の兄妹に強い衝撃を受けたという。

◆泊まりに来たオランダ人の兄妹に受けた衝撃

「彼らには中国系の血のつながらない兄弟がいました。もうご両親は亡くなったそうなのですが、血とは関係なくこの兄弟が団結して力強く生きてきたんだ…という話を聞かされて、強い衝撃を受けました。

だって、そんな話日本で聞いたことないじゃないですか。ダイバーシティの極致というか。オランダとか、ヨーロッパではそういうことが割と普通にあるんですよね。

それで私が“離婚したばかりで寂しい。これからどうやって生きていけばいのか”みたいなことを話したら、“大丈夫だよ。まだまだ君は若いし、美人だし、チャンスはいくらでもあるよ”って励ましてくれたんです。全然美人じゃないんですけど」

◆よく言われる「迷惑な外国人」の言動とは何か?

 すぐに民泊が軌道に乗ったサユコは、2部屋を貸しに出していたわけだが、一年のピークになる桜の時期には一部屋で大卒初任給分くらいの売り上げがあがったという。

 もう一つの特徴としては、サユコの家に滞在するのは2か月・3か月といった長期の人が多いということである。場所柄もあるだろうが、企業へのインターンシップや、日本語学校への留学などで来ることが多いという。

 ここで筆者は「民泊をやってて悪かったことは?」と聞いた。それも聞かなければジャーナリズムとして成立しないではないか。するとサユコが「悪いこと」としてあげたのは民泊そのものではなく、「取材」に関することだった。

「私は今までにもこうやって取材を受けることが結構多かったのですが、編集の意図なのか“これくらい儲かるぞ”みたいな感じにされてしまって、それでネットで叩かれたりとか。でもゲストに関しては95%はいい人ばかりでしたよ」

 つまりは、5%は悪いゲストもいたということか。

「同居型でやっているのにずっと部屋に引きこもっている人がいるんですよ。それで滞在中ずっと気まずくなったりとか。でも最近はほとんど長期で、いい人しか来ませんね」

◆筆者が遭遇した「悪いゲスト」の事例

 筆者宅で言うと、悪いゲストが二組だけ来たことがある。

 一組は英国人の自称カメラマンとフィリピン人の自称ライターの男二人組だった。夜九時過ぎにジムで運動とシャワーを終えて帰宅すると、この二人が「こんな家には泊まれない」と喚いている。「何が問題なのか」と聞くと、「部屋が汚い」という。さすが自称写真家だけあって部屋の写真を撮って「この部屋がきれいと言えるのか?」と問い詰めようとする。皮肉なのは、その写真の部屋は筆者の寝室だということだ。多少散らかっていても当然である。

 当然彼らの部屋は清掃しているわけでそこで責められるいわれはない。すると今度は「高価な機材を持ち歩いていて、個室にカギがない部屋には泊まれない」とか言い始めた。

「機材は高価かも知らんが、中身の写真は全然大したことないくせに」という言葉が喉まで出かかったが、さすがにそれはこらえた。

「オレが何年民泊をやっていると思っているんだ? 台所のテーブルにヴィトンの財布を置いておいても誰も盗んだことないぞ。そんなにほかのゲストやオレが信用できないかね?」と聞くと「信用できない」という。

 そんなに信用できないなら、カギがあるホテルに泊まればよい。元々古民家で、しかも一泊25ドルとかで二人個室に泊まれるのに、何の文句を言っているのか。

 当然、先方はAirbnb社を通じて筆者に返金を求めてきた。筆者もそうなることがわかっていたのですぐに同社コールセンターへ連絡し、今までのやり取り等全てを提示したうえで返金はしない旨を伝えた。結果は、筆者の全面勝訴だった。

 もう一組はオーストラリアの父子だったが、まさに「ホストとコミュニケーションしない」タイプだった。ヤフコメなどが言う「迷惑な外国人」はこの二組だけである。

 次回はサユコが英語の問題をどう克服しているのか、そして民泊がサユコの人生の方向性をどう変えたのかを検証していきたい。

【タカ大丸】

 ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』は15万部を突破し、現在新装版が発売。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。10月に初の単著『貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)を上梓。 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。

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