就活で連戦連敗の泥沼。負の連鎖を断ち切った面接官の一言 <「サラリーマン文化時評」#8>

就活で連戦連敗の泥沼。負の連鎖を断ち切った面接官の一言 <「サラリーマン文化時評」#8>

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 就職活動シーズンなので、まずは自分の(ずいぶん昔の)思い出話を。私は大学時代、英語会という巨大サークルに所属して、ディベートという活動に勤しんでいた。与えられた議題に対してランダムに賛成側と反対側にわかれ、決められた時間で立論と反駁を交互に行い、勝ち負けを競う、大学対抗の討論ゲームだ。

◆就活の負の連鎖を断ち切った面接官の一言

 もともとディベートに興味があったわけではなく、美人の先輩に気に入られたくて、誘われるままに始めただけだった。でもいつの間にかハマり、ラッキーなことに大学3年生時には全国大会のひとつで優勝した。

 名門校の数々を打ち破って日本一になったことは、多少なりとも自信になり、就活でこれをアピールすれば内定がもらえる、そう楽観していた。でも就活は連戦連敗。

「大学時代は英語ディベートに本気で取り組み、全国大会で日本一になりました、そこで得た<論理的思考能力>を御社で生かしたいと思います」

 こうアピールすれば他の学生から頭ひとつ抜けてみえるはずだと思っていたのに、面接は落ち続け、内定をひとつも貰えなかった。

 あるとき、今日もまた落ちたなと思った面接の最後に「自分の面接で悪かったところを教えてください」と聞いてみた。するとその面接官は熟考してくれたうえでこう言った。

「君は良くも悪くも、間違ったことを言わなそうにみえる」

 その一言で気がついた。<論理的思考能力>を強調する自分は、正論やきれいごとしか言わない、理屈っぽくて頭でっかちの奴だと思われていたのだな、と。サラリーマンは、清濁併せ呑まなければやっていけない泥臭い世界だから、理屈だけの部下とは働けない、面接官たちはたぶんそう判断していたのだった。

◆自分に足りなかった要素を知り自己アピールを修正

 自分が面接で足りなかったのは「人間味」「かわいげ」「泥臭さ」だ。内定をひとつも貰えないまま、就活シーズンはすでに終盤。必死になって自分を掘り下げ、自己アピールをこう修正した。

「大学時代は英語ディベートに本気で取り組み、全国大会で日本一になりました、そこで2つの能力を得ました。<論理的思考能力>と、<根回し能力>です。ディベートは論理を競うゲームだけれど、勝敗を決めるのは機械ではなく、ジャッジ(他大学の4年生ディべ―タ―)、つまり人間です。論理だけでは勝てません。だから練習試合の数を増やしてジャッジたちを呼んで普段から仲良くしたり、大会中も試合後に話しかけて日本語で補足説明したりして、泥臭く勝ってきました。この2つの能力を御社で生かしたいと思います」

 これが面白いようにウケた。面接が盛り上がったし、内定も次々と貰えた。あの日、自分の弱点を指摘してくれた名前も知らない面接官のおじさんには、今も感謝している。

 欧米的な<ロジック>と日本的な<腹芸>。どちらか一方ではなく、このどちらもできるということが、面接官からしたら意外性のある希少価値だったというわけだ。このとき以来、仕事でも「ふたつの相反しそうな価値を両輪にして併せ持つ」ことの強みを、たびたび意識するようにしている。

◆超豪華フェスが大失敗した原因

 話は変わって、先日Netflixで観た『FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティー』というドキュメンタリー映画がとてもスリリングで、示唆に富んでいた。

 アメリカの若い起業家が、アーティストやインフルエンサーのイベント出演依頼をアプリで直接出来る画期的なサービス『FYRE』を開発し、そのPRのために無人島での超豪華フェスの開催を思いつく。カリブ海で撮影した甘美なプロモーション映像と、Instagramでの大規模なインフルエンサー・マーケティングにより、高額なフェスのチケットは瞬時に完売。メディアの注目を集めることに成功する。

 しかし、FYREのローンチからフェス開催までの準備期間は、わずか2か月しか想定されていなかった。イベント業者は右往左往し、予算は早々にパンク。アーティストには出演を断られ、開催地の変更も余儀なくされて、完全に迷走。「今世紀最大のゴージャスな音楽イベント」を期待して訪れた1万人の参加者は、まるで「無人島0円生活」のようなサバイバル状態に直面することに……。

◆価値観の世代間対立を煽るより「両輪」として活かせ

 この起業家の最大の敗因は、デジタル・マーケティングの感覚でリアル・イベントができると見誤っていたことだろう。デジタルのサービスはローンチ後も改善を繰り返せるけれど、大規模イベントは事故が起こってからではもう遅い。無人島フェスのような人命にもかかわるようなイベントは、あらゆる事故を想定して、十分な検証期間を設けるべきだったのだ。

 ユーザー体験をスマホのなかで作るか、リアルな世界で作るかで、ルールが異なる部分もあるけれど、その双方を武器として使えていれば、FYREフェスティバルは本当に史上最高のフェスとして成功した可能性もあったと思う。

 デジタルとアナログ、新世代と旧世代、個人と企業、外資系と日系、論理と腹芸。サラリーマンの働き方が大きく変わる節目の時代なので、価値観の対立や世代間闘争を煽る文言が多く飛び交うけれど、対立しているように見えるものが意外と両立しうる両輪と捉えたほうが、なんだかんだでうまくいくのでは、という話でした。

<文/真実一郎>

【真実一郎(しんじつ・いちろう)】

サラリーマン、ブロガー。雑誌『週刊SPA!』、ウェブメディア「ハーバービジネスオンライン」などにて漫画、世相、アイドルを分析するコラムを連載。著書に『サラリーマン漫画の戦後史』(新書y)がある

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