「日本が壊れる」、「伝統を守る」? 夫婦別姓反対派のおかしな主張を検証

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 夫婦別姓への道が開かれるまでには、まだ時間が掛かりそうだ。東京地裁は3月25日、青野慶久サイボウズ社長(47)の主張を退け、夫婦別姓を認めない現行制度を合憲と判断した。

 法務省が2017年に実施した調査によると、夫婦別姓を容認する人、すなわち「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には、夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」と回答した人が42.5%に上った。すでに半数近い人が夫婦別姓に賛成しているのが現状だ。

◆世論調査では夫婦別姓容認が反対を上回っている

 一方、調査では「夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり、現在の法律を改める必要はない」と答えた人も29.3%いた。

 反対派の多くは、“家族の絆が壊れる”、“子どもがかわいそう”、“日本の伝統が壊れる”といった理由で反対しているようだ。保守派の漫画家として知られるはすみとしこ氏は3月24日、夫婦別姓に賛成する串田誠一衆議院議員(日本維新の会)に対し、ツイッターで次のようなリプライを送っていた。

「日本には日本の家制度があり、それを基軸に我が国は2679年続いてきました。今更朝鮮式を入れる理などありません。夫婦別姓を導入するとどう日本が壊れるか、もうちょっと考えてください」(はすみとしこ氏のTwitter)

 反対派は以前から同様の主張を繰り返している。夫婦別姓に強く反対している日本会議は、2010年3月に「夫婦別姓に反対し家族の絆を守る国民大会」を開催。登壇した亀井静香氏は、「夫婦が納得づくで姓が違うのはまだいいかもしれないが、子供はどうするんですか。僕はお母さんの姓のほうがいいよ、いやお父さんのほうがいいよ。一家の中でそんなバラバラのことをなぜ、せないかんのか」と訴えていた。

 下村博文氏も同大会で「夫婦の絆、それ以上に親子の絆がずたずたになってしまう」と発言。姓が別々になるだけで、夫婦や親子の絆が壊れると懸念しているようだ。当時、民主党の衆議院議員だった吉田公一氏も「わが国の家族倫理、日本の伝統を守ります」といって夫婦別姓に反対している。

 しかし、反対派の主張はいずれも根拠のないものばかりと言っても過言ではない。

◆「夫婦の一体感はパートナーとの向き合い方によって培われる」

 姓が違うと夫婦や親子の絆は弱くなるのだろうか。「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」の井田奈穂事務局長は、こう指摘する。

「家族の絆が弱くなると主張する人に対しては『根拠はありますか?データはありますか?』と聞くようにしています。しかしきちんと根拠やデータを示せる人は皆無です。法律で夫婦同姓を定めているのは日本のみです。逆にベルギーやカナダのケベック州では別姓が基本。そうした国や地域で家族が壊れているといえますか? 姓が由来の社会問題が起きていると言えますか?

 日本では同姓で結婚したはずの夫婦の約1/3組が離婚しています。同姓だからというだけで絆が保てるなら、決して起こらない現象です。夫婦や家族の一体感は、パートナーや子どもとの向き合い方によって培われるものです。姓で醸成できるほど単純ではありません」

 すでに日本には事実婚や国際結婚で別姓の夫婦がいる。姓が異なることで絆が弱くなるどころか、姓の問題に2人で向き合ってきたことで絆が強くなった夫婦も多いという。

「国民生活白書によれば、事実婚の理由1位は『夫婦別姓を通すため』です。事実婚の夫婦は、慣習や性別役割の固定概念に囚われずに、互いがどう生きたいか話し合い、尊重し合ってきた夫婦が多い。当然、結婚する前に姓に対する考え方もきちんとすり合わせているため、法律婚の夫婦よりも絆が強いこともあります。

 法律で別姓が選択肢になれば、より多くの夫婦が姓の問題について公平な立場で話し合えるようになると思います。それは結婚後の2人の関係について話し合うことにもなります。むしろ離婚率は減るでしょう」

◆「別姓の子どもは異常」という差別意識

 両親の姓が違うと子どもがかわいそうだという意見も根強くある。しかし井田さんによると、生まれつき両親が別姓の子どもはそのことを疑問に思うこともなければ、そのことで困ることもないという。

「日本・海外ともに多くの子どもの体験を聞きますが、両親が元々別姓である場合、子どもはそれを『普通』と思って育つので、気に病むことはほとんどありません。大人が『多数派でないことは異常』と偏見をもって教えない限り、ネガティブに捉えることもありません。生活していて困ることもないんです。かわいそうだという人は、実在しない子どもを隠れ蓑に、『私は別姓の子どもは異常だという差別意識を持っています』『私は子どもにも同調圧力をかける人間です』と表明しているにすぎません。

 そもそも現代では、両親の姓が異なるということを子どもの同級生や他の保護者が知る機会はあまりありません。仮に『親が別姓』を理由にいじめられるケースが実在するなら、なぜいじめるほうを正さないのでしょう」

◆明治時代にドイツから輸入された制度が「伝統」?

 夫婦同姓が日本の「伝統」でないこともよく知られている。夫婦同姓が始まったのは、1898年(明治31年)に旧民法が施行されてからのことだ。

「明治時代に脱亜入欧を目指して、ドイツの制度を輸入したものが夫婦同姓です。日本の伝統とは言えません。はすみ氏のいう家制度も、1898年に始まって1947年には廃止されており、『2679年』どころか50年未満の歴史です。

 ただ、明治以降の慣習でも『伝統』と呼ぶのであれば、それはそれで構いません。しかし今の社会に生きる人々が困っているのですから、『伝統』に固執するのではなく、時代の要請に合わせて選択肢を設ける必要があるのではないでしょうか」(井田さん)

 そもそも選択的夫婦別姓を容認しても、全ての夫婦が別姓にしなければならないわけではない。これまで通り同姓にしたい夫婦は同姓を選ぶことができるのだ。井田さんは「なぜ他の夫婦が別姓を選択することすら認められないのでしょう」と首をかしげていた。

 井田さんが事務局長を務める「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」は、夫婦別姓を求める人たちのネットワーク。メンバーは各々が在住もしくは在勤の地方議会に対し、陳情を行っているという。井田さんは「夫婦別姓を求める当事者たちの声を届けていく。世論も過半数は別姓に賛成・容認を示しており、認められるのは時間の問題だと思う」と話していた。

<取材・文/中垣内麻衣子>

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