トラックドライバーにとって恐怖の存在。それは「自転車」である

トラックドライバーにとって恐怖の存在。それは「自転車」である

死角に入り、車間を縫って走行する自転車はドライバーにとって恐怖でしかない

◆トラック運転手にとって恐怖の存在とは……

「トラックドライバーが一般ドライバーに知っておいてほしい“トラックの裏事情”」をテーマに紹介している本シリーズ。

 前回は「トラックが煙たがられる理由」を紹介したが、一方でトラック側にも走行中、正直「邪魔だな」と思う存在がいくつかある。

 中でも「邪魔」を通り越し、もはや「恐怖」すら感じる存在なのが、「自転車」だ。

 道路には、大きく分けて「自転車」「原付」「バイク」という3種の二輪車が走っている。

 自転車は運転免許を要しないものの、他2種と同様「車両」であり、原則的には「車道」を走らねばならないのだが、子どもや高齢者、道路状況によりやむを得ない場合などは、歩道を走ることが許されている。

 こうした曖昧な線引きによって自転車は、歩道を歩く歩行者からは「車両なんだから車道を走れ」、車道を走るクルマからは「車両の仲間ならばルールを守れ」と、両道で押し付け合いがなされる存在となっているのが現状だ。

 特に車道においては、文字通り「2つの輪っか」に生身のカラダを乗せて走行する彼らは、無防備かつ不安定であるがゆえに、ほぼ全ての自動車に邪魔扱いされてしまいがちなのだが、中でもとりわけトラックにとっての自転車は、時に体中の毛穴が一気に引き締まるほど恐ろしい存在になることがあるのだ。

 慣れない自転車通学・通勤を始める人が増える季節。今回はトラックドライバーがサイクリスト(自転車に乗る人)に知っておいてほしいことを紹介していきたい。

◆トラックと自転車の相性が悪い3つの理由

 トラックがとにかく自転車と相性が悪いのには、大きく分けて以下の3つの理由がある。

1.見えない

 トラックの死角については「トラック左後方の死角の危険性」をはじめ、過去に何度も紹介してきた。再度強調するが、トラックは、車体の左側に多くの死角を作る。

 そのデッドゾーンに背丈の低い自転車が入り込めば、どれだけ反射板を引っ付けようがライトを光らせようが、その存在には全く気付くことができない。

 それに、彼らが身の危険を感じて鳴らすのは「クラクション」ではなく「鈴」。振動音が常にするトラックの車内に、その「チリンチリン」が届くことはほとんどないのだ。

2.動きの予測ができない

 自転車はその死角に自ら入り込んでくるうえに、ふらついたりよろけたりするなど、不安定極まりない。

 赤信号で止まったトラックの脇をすり抜けようとした自転車が、トラックのエアブレーキからエアが抜ける「プシュー」という音に驚き、転倒・怪我をするというのはよく聞く話だ。

 そんな自転車の行動の中でも最も怖いのが、突然車道に出る行為。

 朝や夕方、歩道がにぎわう通学路や駅近くで起きやすいのだが、歩道を走っているサイクリストが後ろを振り返ることもなく、突然車道に降り、歩道の歩行者などを追い越そうとすることがある。

 車幅の広いトラックの直前でこれをされると、急ブレーキや急ハンドルでも避けられないか、幸いに避けられたとしても積んでいる積み荷が荷崩れを起こし、横転や荷物の破損などの二次的被害を引き起こす可能性があるのだ。

◆ドライバー目線で振り返ると、自転車時代の自分にゾッとする

3.交通ルールを分かっていない

 自転車は道路交通法上「軽車両」と位置付けられており、先述通り他車両と同様に原則車道を走り、道路標識に従わねばならない。つまり、「止まれ」も「一方通行」も「自転車を除く」といった補助標識がない限り、彼らはそれらを守らねばならないのだが、現状は「守る」以前に「守らねばならないことを知らない」サイクリストが非常に多い。

 また、併せて禁止されている「路側帯の逆走」や「酒酔い運転」、傘を差したりイヤフォンで耳を塞いで音楽を聞いたりするなどの「ながら走行」においては、自転車に対する警察の取り締まりが甘いせいで「知っていても知ったこっちゃない」としているサイクリストもかなりの割合で存在する。

 サイクリストの中には、これら3つの要素を完全完璧に備えている人らがいる。

「自動車を運転したことのない大人のサイクリスト」と「図体が小さく行動の読めない子どものサイクリスト」だ。

 当然彼らは、ドライバーの目線から自身がどう見えているかを知らない。

 余談だが、筆者はトラックに乗っていた頃、夕方に通塾する元気な小学生自転車集団が現れると、すぐさまその人数をカウント。信号などでしばらく停止した後は、その数を数え直してからでないと怖くて発車できなかった。それほど彼らはよく動き、よく隠れるのだ。

 筆者自身もトラックドライバーをする以前、小中学生・大学生時代に長らくサイクリストをしていたが、自動車免許を持っていなかった当時の自分がどれほど危険な運転をしていたかを今ドライバー目線で振り返ると、心底ゾッとする。

 一方の自動車は、高速道路に侵入した自転車がトラックにはねられた際、トラックドライバーが自動車運転処罰法違反(過失運転傷害)の現行犯で逮捕されるといった事例があるように、どれだけ自転車に過失があっても、「お前が悪い」とされることがある。

◆自転車に乗る際は交通ルールとマナーは持ち合わせてほしい

 これらのことを考えると、やはり車道で自転車に乗るならば、年齢に関係なく最低限の交通ルールやマナーは持ち合わせておいてほしいというのがドライバーの本音で、実際、「完全免許制」ないし「教習制」にすべきだとする声も一部からは強く出ている。

 こうした声を反映してか、最近ではサイクリスト向けに交通ルールに関する講習会を開催し、受講者に「自転車免許証」なるものを独自に発行・交付する教育機関や自治体が増加。

 同免許証を提示すると、自転車パンク修理費が1割引になったり、安全点検が無料になったり、さらにはその免許証自体に被害者へ最大1億円を補償する保険を付帯させたりするなど、各自治体ともサイクリストに講習受講と交通ルールの遵守を促している。

 当然それらの免許証に法的効力はなく、取得せずとも自転車には乗れるが、自転車と相性の悪いトラック側、はたまた自転車の過失による事故でも逮捕される場合のあるドライバー側の立場としては、1つでも多くの自治体や学校に定期的な講習会を開催していただき、1件でも無駄な事故が防げたらと思うのだ。

◆ドライバー側にも問題はある

 一方、サイクリストの不安定な走行は、「自転車の構造」や「ルールに対する知識不足」以外にも、「クルマからの風圧」や「悪質な幅寄せ」などといった外的な要因によって生じることも多い。

 中でもドライバーに気付かれにくいのが、彼らの「足元の悪さ」だ。サイクリストが走らされる車道左側には、側溝やゴミ、クルマが作った轍(わだち)などの障害物が数多くある。左側通行である日本の道路は「左低右高」でできており、どうしても道路左側に負担・障害物が集中しやすいのだ。

 高齢者の免許返納や若者のクルマ離れ、エコ意識の高まりから、自転車の存在感が高まる昨今。サイクリストの交通マナーの向上だけでなく、こうした路面の整備や自転車専用レーンの確保など、自転車に寄り沿った取り組みも今後必要になってくるだろう。

 いずれにしても、この春からサイクリストデビューする方々には、くれぐれも安全運転で走行してほしい。

【橋本愛喜】

フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。日本語教育やセミナーを通じて得た60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。

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