ガソリン車以上に希少金属を必要とする電気自動車(EV)は、 本当に「エコカー」なのか?

電気自動車(EV)が世界的に急速に普及する勢い 「エコカー」との扱いに疑問の声も

記事まとめ

  • 次世代の「エコカー」として、電気自動車(EV)が世界的に急速に普及する勢いだという
  • EVは運転する環境では「エコ」だが、その生産過程においては決して「エコ」でないとも
  • EV生産には原材料として金属資源の需要が膨大な量になり、枯渇が懸念されている金属も

ガソリン車以上に希少金属を必要とする電気自動車(EV)は、 本当に「エコカー」なのか?

ガソリン車以上に希少金属を必要とする電気自動車(EV)は、 本当に「エコカー」なのか?

ニューカレドニア、ゴロー鉱山のニッケル・コバルト採掘現場

◆技術が進歩するほど、それを支える金属の需要が増える

 次世代の「エコカー」として、電気自動車(EV)が世界的に急速に普及する勢いだ。これに対して筆者が疑問に思うことがある。EVは、運転する環境では「エコ」といえるが、その生産過程においては決して「エコ」とはいえないのではないか? ということだ。

 EVの生産には、その原材料として金属資源の需要が膨大な量になる。このことによって鉱山の規模が拡大するとともに、サプライチェーン最上流の採掘・選鉱工程における環境・社会に対する影響は極めて大きくなっている。

 EV以外の分野でも、世界の金属需要は膨大な量になっている。今後、さらに先進ロボット、電気自動車、再生可能エネルギー、IT機器、IoT、AI、5Gなど、技術が進歩するほど金属需要は増える一方だ。しかし、地球上(特に陸地)の資源には限りがあり、需給ギャップが予測されている金属、つまり「枯渇」が懸念されている金属も多い。

◆EVの銅使用量は、ガソリン車の3〜4倍

 まずは「ベース・メタル」(社会の中で大量に使用され、生産量が多く、さまざまな材料に使用されてきた金属)と呼ばれてきた銅。

 需要サイドから見ると、2018年の2400万トンをベースとして年率3.5%伸びるとした予測によると、2030年には総需要3650万トンに対して供給能力は2900万トンで頭打ちになり、750万トンの供給不足となる(*1)。

 このような需給ギャップの主な原因としては;需要を大幅に増加させるエンジンの電気自動車(EV)と太陽光、風力発電等再生可能エネルギーだ。当然ながら、EVの銅使用量はガソリン車の3〜4倍にもなることを認識すべきだ(*2)。

 太陽光発電に必要な銅はメガワット当たり2.45〜7トン、陸上風力発電で2.54〜6.77トン、洋上風力発電で9.5トンになる(*3)。

 さらに中国の銅消費量は世界の40%を占め、なお高い伸びを示している。それにもかかわらず国民1人当たりの銅消費量はまだ6kgで、日本やドイツなど先進諸国の1/2〜1/3。今後さらに消費拡大すると予測され、大きな懸念材料となっている(*4)。

◆銅は今や“レアメタル中のレアメタル”

 供給サイドの問題としては、以下のようなものがある。

・鉱石品位の低下が近年著しく、大規模露天掘り銅鉱山の鉱石品位は0.2%にまで低下している

・鉱山が発展途上国の熱帯雨林など、生物多様であるばかりか先住民族が住むような地域にシフトしてきている

・採掘規模の拡大によって深刻な環境破壊が起きている。人権・労働条件そして腐敗などの問題から地域住民や国際NGOなどの反対があり、開発期間が長期になってきている。開発費の高騰なども

 ちなみに、銅の地殻中に存在する量は55ppm。これに対して年間2000万トンの生産量というのは、あまりに多すぎる。「ベース・メタル」と呼ばれてきたものの、実は“レアメタル中のレアメタル”と言ってよい状況になっている。

◆EVのリチウムイオン電池に使われる「コバルト」の安定供給は難しい!?

 そのほか、EVの普及に大きな影響を受ける銅以外のレアメタルといえば、リチウムイン電池の正極材に使われる、コバルト、ニッケル、マンガンだろう。

 コバルトについては、遍在性と希少性が高い。特にコンゴ民主共和国への遍在性が65%と異常に高く、近年「ラテライト型」と呼ばれる、採掘に伴う環境負荷が大きいニッケル鉱床の開発が増えている。そのことにより、その副産物として採掘されるコバルトが多くなっていることが問題だ。

 コバルトの地殻内の存在量は25ppmと、希少性が非常に高い。年間生産量は十数万トンで、銅に比べると2桁少ない。それにもかかわらず、2030年の世界の需要量はEVのリチウムイオン電池用だけでも約30万トンと予測され、安定供給は厳しいと考えられる(*5)。

 リチウムイオン電池用コバルトの割合は、総需要量に対して2006年に20%、2016年で51%だったが、2020年には62%と予測されている(*6)

 EV用リチウムイオン電池の急速な需要増によって、スマートフォン用電池に必要なコバルトがひっ迫することを恐れたアップル社が、2018年2月にコンゴ民主共和国で直接資源確保に動いたことで世界に衝撃を与え、価格が急騰したことは記憶に新しい。

 機器別のコバルト使用量をみると、スマートフォン5〜10g、タブレット30g、ラップトップ100gに対して、EVは10kg。桁違いに多い。

◆「2100年まで安泰」と言える地下資源はリチウムくらい!?

 ニッケルについては、地殻存在量が75ppmに対して、生産量が約300万トン。銅に比べると1桁少ない。しかし「ラテライト型」とよばれる鉱床の採掘では、前述のように副産物のコバルトとともに大きな環境破壊が伴う。

 ニッケルの主要な用途としてはステンレスがある。2005年ごろ、中国のすさまじい資源囲い込みの動きから資源メジャーなどによるニッケル資源の激しい争奪戦が起きて、価格が高騰した。

 そのほかにも、レアメタル、レアアースでは枯渇性、遍在性、そして地政学的問題などで供給不安があるものが多い。しかしリチウムだけは、南米への遍在性はあるが2100年になっても供給不安はないだろう。

 鉄鉱石の生産量については、2014年に20憶トンになり、その後年率3.3%伸びている。2020年には25億トンに達する見込みだ。特に中国は、鉄鉱石生産量世界一だったが品位の低下から輸入を増やし、自給率は16%程度まで低下している。ちなみに、世界の鉄鉱石品位平均(除く中国)は45%に対し、中国は27.5%とかなり低い(*7)。

◆金属の徹底したリサイクル、モビリティの変革など、「エコ」の手段は数多い

 これからは、原材料となる金属の徹底したリサイクルによる資源生産性向上こそ最重要課題ではないか。リサイクル技術はすでにかなり進んでいる。再生金属の製錬操業が安定してできるように官民が協力して、リサイクル原料の流通システムを確立することが必要だ。都市部で眠っている金属の再利用、いわゆる“都市鉱山開発”を、重要な産業として確立することが急がれる。

 リサイクルと同時に、希少資源の代替材料を開発することも重要だ。日本としては資源生産性の飛躍的な向上によって、世界のトップランナーとなる戦略が望まれる。そのためには「バージン金属資源消費税」(リサイクル率が高い企業ほど有利になり、企業価値が上がる)の導入といった税制改革を期待したい。労働の対価としての所得については大幅減税し、企業の社会保障費負担を軽減させて税制中立にすれば、国際競争力を弱めることにはならないはずだ。

 そのほか、都市化が進んだ街では自動車に頼らない交通手段を整備する(モビリティの変革)ことも必要だろう。

 現在のEVは、その利用する周辺環境だけが「エコ」なだけであって、その生産過程では決して「エコ」ではないといえる。その状況下で、相変わらず販売台数を世界で競うという各国・各企業の戦略はいかがなものだろうか。ホリスティック(全体的)な視点のない、安易なものつくりはもはや許されない時代になっている。

<文/谷口正次>

資源・環境ジャーナリスト。NPO法人「ものづくり生命文明機構」副理事長、サステナビリティ日本フォーラム理事。著書に『経済学が世界を殺す〜「成長の限界」を忘れた倫理なき資本主義』(扶桑社新書)など

【データ出典】

*1:Copper Long-Term Supply & Demand

*2:自動車部材としての「銅」使用量比較(三菱マテリアル総合報告書2018)

*3:US Global Investors(2015)

*4:中国の銅使用量(対GDP)(Raw Materials Group)

*5:世界の電気自動車のリチウムイオン電池に必要な金属と電力量(Bloomberg New Energy Finance)

*6:Cobalt’ End Market Batteries by Dominance(Benchmark 2016)

*7:Raw Materials Group

関連記事(外部サイト)