家を奪おうとする我々に、住人の少年は微笑みかけた<不動産執行人は見た30>

家を奪おうとする我々に、住人の少年は微笑みかけた<不動産執行人は見た30>

「これって、どんなお仕事なんですか?」少年は無邪気に問いかけた

◆「人に見られたくない現場」で出会う人々

 死臭漂う物件、ペット虐待物件、ゴミ屋敷、廃墟に豪邸。

 様々な物件とそれぞれの事情を抱える債務者、そしてその家族。

 時には債務者を利用しようとする、陥れようとする個人や団体。あるいはこれらに巻き込まれる人々。

 恐らく多くの人が思う、“人に見られたくない場面”。そんな最悪の場面に我々不動産執行人はやってくる。

 日々“人に見られたくない場面”を見守り続ける不動産執行人は、そこで発生する大抵のイベント、トラブル、ヒューマドラマ、人間模様に最早驚きすら持てず、感情が揺らぐことも無いのだが…、出会うたびに考えさせられる存在もある――。

 子ども。

 夏休みや冬休みといった長期休暇時の執行では、子どもと出会うこともしばしばある。

 他人事のようにボーッと眺めている子、こんな事態に陥ったことで親をなじる子、暴れる子、為す術もなく笑ってしまう子、親を気遣う子、DVの矛先にされる子やネグレストとなっている子に引きこもり、中にはそんな子どもの前で泣き崩れ執行人にすがる親もいる。

 このように子どもにとっても “人に見られたくない場面”。

 そこに、何故か当たり前のような顔で佇む部外者「不動産執行人」という存在は、どうも彼らにとって印象深いようで、自分の家が差し押さえられた際に「不動産執行」というものを知り、この世界に足を踏み入れたという人物も少なくない。

 同時に子どもたちの振る舞いも、我々の脳裏に残る――。

◆新興住宅地のはずれにあるゴミ屋敷

 古い新興住宅地のはずれに位置する築20年ほどの建売住宅が今回の当該物件。当時流行していたカラー瓦が今は古めかしさを演出している。

 湿気には悩まされているようで、外装には苔が目立つ。

 駐車スペースに止められている商業車のナンバープレートは既に外されており、車検ステッカーから4年以上放置状態であることが伺える。

 伸びきった雑草に散乱するゴミや放置物、これらの状況から室内のゴミ屋敷化という懸念がある中、唯一青年向けと思われる自転車にだけは頻繁に使われている形跡があった。

 呼び鈴を鳴らすと50代半ばの男性債務者が無言で扉を押し開く。想定通り室内はゴミ屋敷化しており、玄関先からうず高くゴミが積まれている。

 居間であったのであろう空間で話を聞くと、事業が頓挫してから妻が出ていき、代わりにやってきた債務者の母親が貰う年金、そしてこれまで蓄えてきた僅かな貯金を切り崩しながら細々と暮らしてきたようなのだが、そんな金も底をつき現状に至るとのこと。

 毎回ゴミ屋敷に足を踏み入れるたび不思議に思うのだが、キッチンは遥か昔に荒廃しており、風呂釜にも年季の入ったゴミが山積。掃除が放棄されたトイレも汚れとゴミが酷く通常利用が困難という状況の中、一体彼らはどのように生活しているのだろうか。

◆「こんにちは」と不意に挨拶をされ……

 1階では債務者と債務者の母親が暮らしているようだったが、2階へと続く階段には人が一人通れるほどの獣道が1本伸びている。この獣道をたどると、そこには子ども部屋があった。

 この部屋も周囲と同じくゴミ屋敷化に取り込まれてしまってはいるのだが、生活圏とゴミが完全に分離してあり、日々の暮らしが伺えた。それでも小さな机と椅子、ベッドの上程度にしか空間のない部屋にいたのは、高校生くらいの少年だ。

「こんにちは」

 ありふれた挨拶のフレーズだが、突然ぶつけられた我々は少々面食らう。

 というのも自分の家を取り上げに来た不動産執行人に対し、自ら挨拶ができる子というのは一年に一人でもいれば、その年は当たり年と言えるほどに少ないからだ。

「これは何ていうお仕事なんですか? 資格がいるんですか?」

 人懐っこい少年は、「不動産執行」という仕事に少し興味を持っているようだった。

◆「貧乏でも、頑張ればなんとかなりますか?」と青年は聞いた

 大抵の場合、ゴミ屋敷化の元凶は一人。そしてこのような環境が教育にふさわしくないのは想像に難くない。そのため子どもがいて大人が数人いるという状況であれば酷いゴミ屋敷化は防がれる、またはゴミ屋敷化した家から子どもを遠ざけるというのがこれまでの流れだった。

 今回のケースでは既にゴミ屋敷化した状態の物件に債務者の母親が後から合流している点が災いしたのかもしれない。

 不動産執行は、関わる人々との接触に広めの間合いを必要とする仕事でもあるため、少年の疑問に満足な回答もできぬまま執行は進む――。

 もちろん前記の少年から与えられた質問には明確な答えがあるからこそ、モヤモヤとするものがあるわけなのだが、最後にぶつけられた質問には今も答えが見つからない。

「貧乏でも、頑張ればなんとかなりますか?」

 どんな言葉や表現を用いた“答え”を用意すれば、彼の救いにつながったのだろうか――。

<文/ニポポ(from トンガリキッズ)>

2005年、トンガリキッズのメンバーとしてスーパーマリオブラザーズ楽曲をフィーチャーした「B-dash!」のスマッシュヒットで40万枚以上のセールスとプラチナディスクを受賞。また、北朝鮮やカルト教団施設などの潜入ルポ、昭和グッズ、珍品コレクションを披露するイベント、週刊誌やWeb媒体での執筆活動、動画配信でも精力的に活動中。

Twitter:@tongarikids

オフィシャルブログ:団塊ジュニアランド!

動画サイト:超ニポポの怪しい動画ワールド!

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