不動産執行で遭遇する「献花」や「お地蔵さん」のある物件と「忘却権」<不動産執行人は見た31>

不動産執行で遭遇する「献花」や「お地蔵さん」のある物件と「忘却権」<不動産執行人は見た31>

事故現場に建てられる、供養のためのお地蔵さんには実は複雑な問題が絡む

◆不動産執行で遭遇する「事情のある」案件

 大規模な災害、世間を震撼させた事件、多くの人が胸を痛めた事故。

 社会を揺さぶる騒動の発生した日時には、毎年このような言葉が揺るぎない正当性を持って叫ばれる。

「風化させてはいけない」

 この“正論”は果たして、多くの人が“小さな事件”と認識する事案にも当てはまるものなのだろうか。“忘れられる権利”“忘却権”といった概念とは切り離して考えなければならないものなのだろうか――。

 道端に祀られる小さなお地蔵さん、祠、石碑といったものについて考えたことがあるだろうか。

 その設置には様々な理由と背景があり、よく出会う事例として交通事故で我が子をなくした両親が、あるいは悲惨な事件で親族を亡くした遺族や遺族会が、供養のために祀っているというものがある。

 権利関係としては、土地の権利者に分筆といって少しだけのスペースを切り売りしてもらい、そこにお地蔵さんなどを設置したうえで自治体に譲渡というものが多く、その他には個人所有のままというもの、土地と設置物の権利が別々というややこしいもの、設置が古く権利関係が全くわからないというものもある。

◆想像以上に複雑なお地蔵さんの撤去事情

 そんな詳細不明の設置物では、撤去のために調査を入れてみると重要な史跡であることが判明し撤去が覆されるというケースすらある。

 このように実は想像以上に様々な思いと権利が渦巻くお地蔵さん。

 とはいえ分かりやすい設置物がある場合は近隣住民も納得しやすいのかもしれないが、道端で見かける花の手向けられた電柱やガードレールには何を思えば良いだろうか――。

 交通量が多いながらも道路幅は狭く、さらにバスの往来も頻繁というなかなか危険な都道府県道。そんな道路に面し、細く佇む3階建てが今回の当該物件。

 20坪少々と狭い敷地ではあるが小洒落た子ども用遊具に手入れの行き届いた鉢植え、差し押さえ・不動産執行の現場では“珍しい”と思われがちな、幸せそうなお宅だ。

 実際にはこのようなお宅も多く、それなりの傾向もある。

 収入面の問題または不貞などで追い出された旦那が養育費や慰謝料代わりに住宅ローンの支払いを約束。しかし、押し付けられた100対0という理不尽な過失割合と、決別させられた我が子、細る自身の収入からは無理難題とも思われる支払いにいつしかやる気を喪失。このような流れで旦那が止めてしまった住宅ローン支払いの滞りから、我々がやってくる。

 これが最多のケースで、今回も例に漏れることはなかった。とは言え、恒例とは少々異なる部分もあった。

◆家族とは無関係の少女への仏花を巡って起きた論争

 いつもの流れであれば旦那あるいは元旦那がいかにクズであるか、そしていかに自身が正当性を有しているかという弁論大会が開催されるのだが、そんな弁論大会も今回は早々に切り上げられ、近隣住民との軋轢が語られ始めたのだ。

 どうやら債務者家族が引っ越してくる以前に自宅前で小さな女の子が交通事故で亡くなってしまったらしい。

 この事故を後から知り、心を痛めた近隣のおばあさんが絶やすこと無く花を手向けに来るようになったというのだ。

 確認のために玄関を一歩出ると、債務者家族の主張を裏付けるように歩道を挟んだガードレールには真新しい仏花が飾られている。

 自宅玄関前に明らかにそこで誰かが亡くなったのであろう仏花が飾られているというのは、不動産価値を念頭に置く場合、確かに心象宜しくない。それが今回の競売のようになるべく高値で入札してもらおうというコンセプトのもとであればなおのことだ。

 そのためこの献花を止めさせられないものかと警察や法律家にも相談したそうなのだが、芳しい回答は得られず、直接おばあさんと対峙した際にも「こんな悲惨な事故、絶対に風化させちゃいけないんだ」「私がやらなくなったら誰もやらなくなる。それは可愛そうじゃないか」「私の命ある限り続ける」と全く聞く耳を持たなかったという。

◆「忘却権」は適用されるのか否か

 この事案は不動産執行人の間でもどう解釈すべきなのか議論となったが、敷地外の事案であるため、結局“競売3点セット”と呼ばれる、物件明細書、現況調査報告書、評価書いずれの書類にも記載されることはなかった――。

「風化させてはいけない」

 今回の事例では花を手向けるおばあさんは遺族ではなく、遺族とも無関係。困っている債務者家族も亡くなった少女とは無関係。

 このおばあさんを“ちょっと様子のおかしい人”と端的に片付けてしまうことは適切なのだろうか。

 無関係にもかかわらず事件の一報に心を痛め行動に反映してしまう。

 これはテレビやインターネットで報じられるニュースを見聞きし、ついつい一元的に声を荒げてしまう我々の姿とどこか重なる部分があるのではないだろうか。

 大いなる“正論”「風化させてはいけない」。

 この優しさや正義感に由来するのであろう圧倒的な言葉の正当性に押し黙ることしかできない人々。

 彼らが抱く“忘れたい”“思い出したくもない”“忘れてもらいたい”との思いは、いつまでも“小さな事件”のまま、「忘却権」適用外のままという扱いで良いのだろうか――。

<文/ニポポ(from トンガリキッズ)>

2005年、トンガリキッズのメンバーとしてスーパーマリオブラザーズ楽曲をフィーチャーした「B-dash!」のスマッシュヒットで40万枚以上のセールスとプラチナディスクを受賞。また、北朝鮮やカルト教団施設などの潜入ルポ、昭和グッズ、珍品コレクションを披露するイベント、週刊誌やWeb媒体での執筆活動、動画配信でも精力的に活動中。

Twitter:@tongarikids

オフィシャルブログ:団塊ジュニアランド!

動画サイト:超ニポポの怪しい動画ワールド!

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