都内のメンズ百貨店2店が「正反対」のリニューアル――それぞれの「特徴」は?

都内のメンズ百貨店2店が「正反対」のリニューアル――それぞれの「特徴」は?

この春相次いでリニューアルしたメンズ百貨店の1つ・阪急メンズ東京

◆東京を代表するメンズ百貨店がリニューアル

 この春、東京を代表する2つの「メンズ百貨店」が相次いでリニューアルオープンを迎えた。

 その2店舗とは「新宿伊勢丹メンズ館」(新宿区、3月16日リニューアルオープン)と「阪急メンズ東京」(千代田区、3月15日リニューアルオープン)だ。

 東京のメンズファッションを牽引してきた両店舗。今回は、その2店の歩んできた歴史を振り返りつつ、今回の改装の特徴を押さえていこう。

◆「らしさ」をテーマに百貨店の王道を極める「新宿伊勢丹メンズ館」

 新宿伊勢丹メンズ館(ISETAN MEN'S)の前身となる「伊勢丹男の新館」は1968年9月に伊勢丹新宿本店本館の北側に位置する新宿靖国通り沿いに日本初の「男性専門百貨店」として開業。都心で勤務するビジネスマンを主なターゲットとし、全国唯一の業態として東京ばかりか新宿へと出張した際に買い物をするビジネスマンの姿も見られるほどであった。

 その後、2003年9月に耐震工事に合わせて約35年ぶりの全面リニューアルを実施。「伊勢丹メンズ館」としてグランドオープンした。開業当時の伊勢丹メンズ館は同社が得意とし、伊勢丹新宿本店でも人気を集めるブランドの垣根を排除した独自企画の売場「自主編集売場」を導入。ラグジュアリー性の高い空間を構築することで「ファッションの伊勢丹」を印象づける店舗づくりを行っていることが特徴であった。

 今回の大規模リニューアルは2003年9月のメンズ館誕生以来約15年ぶりとなるもので、新ステートメントに「男として、そして、人として」(As a man, and As a human)を掲げ、館内にメンズ館らしさを表現した「SI」と称するアート作品を展示するなど、“○○らしさ”を叶えるメンズファッションストアを目指す。売場面積は9,900u、2020年の目標年商は500億円。2018年3月期の同店の売り上げは約450億円で、約1割増をめざすことになる。

 今回改装が行われたのは主に1階、2階、4階、6階。館内に入ると「自分らしさ」についての43人の文体練習が記された巨大な書物が目に入る。これが先述した「SI」の1つで、同店がテーマの1つとする「○○らしさ」にちなみリニューアル企画としてブックディレクターの山口博之氏がディレクションをおこなったものだという。また、2階は売場の真ん中にDJブースが鎮座するという個性的な内装が目を惹く。

 売場は以前からの高級感に加えてより一層「伊勢丹らしい高感度な空気」が感じられるようになり、その雰囲気に圧倒させられる。地方百貨店で購入したジャケットを着た筆者は何となく「普段着では肩身が狭い」気分となったが、個性的なアート作品(SI)たちがそうしたピリっとした空気を少し和らげてくれるようにも思えた。

 売場において気付かされるのが、以前よりもオーダー商品とメンズ化粧品が充実していることだ。とくに市場の拡大が続くメンズ化粧品については、体験ブースの新設に加えてソニーの肌解析システム「BeautyExplorer」を使用した肌測定体験サービスも導入されている。

 このほか、伊勢丹本館でもお馴染みというべきプロモーションスペースやコミュニケーションスペースが増設されたほか、国内最大級というオーダーシャツコーナーやコンシェルジュサービスなども新設されており、以前にも増してファッションビルとは一味違う「百貨店らしさ」、そして「伊勢丹らしさ」が感じられる店づくりとなった。

◆「冒険」をテーマに百貨店の常識を覆す「阪急メンズ東京」

 もう一方の阪急メンズ東京(HANKYU MEN'S TOKYO)の前身となる「有楽町阪急」は1984年9月に朝日新聞東京本社、日本劇場(日劇)、丸の内ピカデリー跡地を再開発し誕生した複合商業施設「有楽町マリオン」(有楽町センタービス)の核テナントとして開業。

 開業当初はマリオンに同時開店した「有楽町西武」(現:有楽町ルミネ)、徒歩圏のプランタン銀座とともに若年層から絶大な支持を獲得し、「マリオン現象」と呼ばれる一大ムーブメントを起こした。2000年には食品売場を廃止してレディスファッション関連の売場を増床。2007年3月期には過去最高となる約145億円の売り上げを記録するなど都心に勤務する若いビジネスウーマンを中心に人気を集めたが、2007年に徒歩圏に「有楽町マルイ」が開業すると売り上げは減少に転じ、その後の百貨店不況のなかで売上は急降下。

 さらに、2010年末には阪急とともに有楽町マリオン内に出店していた有楽町西武が閉店。商環境の変化、消費者嗜好の変化もあり、2011年7月をもって一時閉店することとなった。2011年3月期の売り上げは全盛期の約6割にも満たない約84億円にとどまった。

 その後、有楽町阪急は大阪・梅田で成功を収めていた阪急百貨店うめだ本店のメンズ館「阪急メンズ大阪」(2008年2月開業)にならうかたちで、2011年10月に阪急のメンズ百貨店2号店「阪急メンズ東京」へと業態転換した。

 開業時のコンセプトは、大阪・東京ともに「世界が舞台の、男たちへ」であり、伊勢丹メンズ館と同様に高感度なメンズファッションを提供する売場となった。なお、同じ2011年10月には西武百貨店跡にJR東日本が運営する「ルミネ」が開業。駅ビルとして人気のルミネが出店したことから、再びマリオンには若者の姿が多くみられるようになった。

◆業態転換以降初のリニューアル

 今回の阪急メンズ東京リニューアルは2011年の業態転換以来初となるもので、2019年1月から3月にかけて地下1階〜地上3階の一部フロア及び4〜7階の全フロアを閉鎖し、全面改装を実施した。

 リニューアルのコンセプトは「クリエイティブコンシャスな男たちの冒険基地」。キービジュアルに往年の大スター・石原裕次郎氏を起用し、靴が誕生したといわれる紀元前3,500年を表現したシューズ専門フロア「3500 BCE」(5階)、映画「2001年宇宙の旅」「西部開拓史」をインスパイアした「HOW THE MAN WAS WON」(地下1階)など、各階毎にテーマ性を持たせた売場づくりを目指したという。営業面積は約11,000uで、目標年商は阪急百貨店有楽町店時代を上回る170億円。2018年3月期の同店の売り上げは約143億円であったため、これまでの約1.2倍、阪急百貨店時代の過去最高売り上げをも上回るかなり強気の数字だ。

 館内に入ると、伊勢丹メンズ館とは異なる雰囲気に驚かされる。百貨店の顔である1階には主に「コム・デ・ギャルソン」や「オフホワイト」など高級カジュアルウェアが並ぶ。ちなみに、伊勢丹メンズ館の1階はオーダーシャツやメンズジュエリー、化粧品などが中心であった。

 1階以外も同様に、全館を通してビジネスウェアの売場は以前より大きく圧縮。そのぶんストリートウェアや尖ったヴィンテージ商品など、カジュアルかつマニアックなアイテムが目立つ。

 特に目を惹いたのは、百貨店初となった「TENGA STORE」で、TENGAを含めた高層フロアには若者の姿も目立つ。このほかにも、同じく百貨店初となったリスニングルームを導入したレコード・オーディオ専門店「ギンザレコード」、東京のフードカルチャーを代表するトップシェフが喫茶店メニューを現代解釈し再構築したラインナップを展開する「ネオ喫茶 KING」などが出店。アパレルの隣にホビー、その隣にカフェ…など、様々な商品が同じフロアに展開されている様は阪急メンズ東京ならではで、まさに百貨店の常識を覆す、「冒険基地」ともいうべき売場構成といえる。

◆「有楽町での冒険」は成功するか?

 さて、今回の両店のメンズ館リニューアルは、伊勢丹が「伊勢丹らしさ」を前面に押し出して「高感度なラグジュアリー」を極めた百貨店の王道ともいえる内容だったのに対し、阪急は高層階を中心に百貨店の常識を覆す「個性が強い」「マニアック」な店舗を新規導入しており、その姿勢は正反対のものであるといえる。

 とくに阪急については開業時の路線から大きく方針転換したように思えるが、これには隣接するルミネの存在が大きいであろう。

 阪急メンズ東京と同じ建物内に同居する「ルミネ有楽町」は「20代後半から30代の大人の男女」をターゲット(ルミネ発表による)に「ファッションビルの王道」とも言うべき売場づくりを行うことで絶大な人気を得ており、2018年3月期の売り上げは前期比2.7パーセント増の約215億円にも達する。「駅ビル以外への出店」としてその成否が注目されたルミネ有楽町であるが、売り上げは増加を続け、今や同店はルミネにおける旗艦店の1つへと成長を遂げた。ちなみに、旧・有楽町西武の2010年2月期の売り上げは約138億円であった。

 阪急はメンズ館に転換して以降は比較的堅調な売り上げを記録していたものの、これ以上の「成長」を望むためには、ルミネと差別化しつつも、大きな集客力がある同店との相乗効果を上げることが必要であった。そこで若者を取り込むため新たなテーマに据えたのが「冒険」であろう。

 ただ、忘れてはならないのが、ここは「有楽町」であるということだ。渋谷や原宿ならまだしも「有楽町」「銀座」という立地に「冒険」というテーマで挑むこと自体、まさに「冒険」であるとも思えるのだが……。

さて「正反対」ともいえるリニューアルとなった「伊勢丹メンズ館」と「阪急メンズ東京」であるが、その一方で詳しく見ていくと両店のリニューアルにはいくつかの大きな「共通点」も見えてきた。果たしてそれは…また次回の記事で述べたい。

<取材・文・撮影/淡川雄太 若杉優貴(都市商業研究所)>

【都市商業研究所】

若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken」

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