過失がなくても、まず逮捕。加害者になりやすいトラックの悩み

過失がなくても、まず逮捕。加害者になりやすいトラックの悩み

走る凶器にもなるがゆえ、加害者として扱われてしまうトラックの悲哀

「トラックドライバーが一般ドライバーに知っておいてほしい“トラックの裏事情”」をテーマに紹介している本シリーズ。

 前回は「初心者ドライバー」について、前々回では「自転車について」と、「道路上の気を付けるべき存在」をトラックや一般乗用車目線で紹介したが、とりわけトラックが乗用車以上に安全を気にしなければならないのには、「過失の有無に関わらず“傷つける側”になりやすい」という事情がある。

 人の命を容易に奪ってしまうトラック。今回はそんなトラックを運転するトラックドライバーの心理や、相手に過失があっても逮捕されてしまう「トラックの不条理」について紹介したい。

◆相手に過失があっても「加害者」になってしまう不条理

 警視庁がこのほど発表した「平成30年における交通死亡事故の特徴などについて」によると、同年に発生した交通死亡事故の被害者は約半数が歩行中、または自転車乗用中だったという。

 特筆すべきは、そのうちの約3分の2の被害者に法令違反があったという点だ。

 トラックは事故を起こすとその車体の大きさや高さゆえに、たとえ相手に過失があっても「怪我をさせる」側になることがほとんどだ。片やトラックドライバー自身は、人はもちろん、自転車や乗用車などと正面衝突しても、大きな怪我に及ばないことが多い。

◆「交通強者」であるがゆえに不利なトラック

 特に歩行者や自転車相手など「交通弱者」にとって、トラックはもはや「クルマ」ではなく「走る壁」。ゆえに「交通強者」であるトラックドライバーには、相手の過失による事故でも、頻繁に現行犯逮捕されるという現実がある(以下、事例)。

●2018年6月

愛知県清須市の名古屋第二環状自動車道にロードバイクが侵入し、2車線のうち左車線で大型トラックと衝突。ロードバイクに乗っていた男性は腰の骨を折るなどの重傷、トラックを運転していた男性は自動車運転処罰法違反(過失傷害)で現行犯逮捕。(参照:J-castニュース)

●2014年11月

名神高速道路を軽乗用車で走行中に単独事故を起こし、その後、中央分離帯を乗り越え反対車線を歩いていた男性が、トラックや後続の乗用車など計5台にはねられ死亡。大阪府警高速隊は、トラックドライバーを自動車運転処罰法違反の疑いで現行犯逮捕。(参照:弁護士ドットコムNEWS)

●2013年3月

岐阜県多治見市の中央自動車道で、走行車線に停車していた軽乗用車にトラックが追突。軽自動車を運転していたとみられる中学3年生の男子生徒(15)と、後部座席にいた男性が死亡。トラックを運転していた男性は自動車運転過失致死容疑で現行犯逮捕。(参照:日経新聞)

 現場近くのガードレールに車が接触したような跡があり、事故直前に軽乗用車がガードレールに接触し、弾みで走行車線に停止したとみられる。

 こうした「加害者という名の被害者」には、トラックドライバーだけでなく一般ドライバーでもなり得るのだが、前述通りトラックは乗用車よりも「殺傷能力」が高く、また、制動距離(ブレーキを踏んでクルマが停止するまでの距離)の長さから衝突を避けられないことも多いため、こうした理不尽なケースが発生する確率が高くなる。

◆トラックドライバーを救うのは「信頼の原則」

 無論、「逮捕=有罪」というわけではない。

 過失がないと認められれば「信頼の原則」のもと、不起訴になる場合がほとんどだ(「信頼の原則」についてはまた改めて紹介するが、簡単に説明すると、「相手が交通秩序に則った行動をとると信頼できる状況にもかかわらず、その相手の不適切な行動によって事故が生じた場合、自身は責任を負わない」、とする考え方である)。

 しかし、やはり「逮捕された」という事実は本人にとってインパクトが強く、また、たとえ「避けられない事故」、「自身に過失のない事故」だったとしても、自分が運転していたクルマが人を傷つけたり命を奪ったりすれば、精神的ダメージを受けるのは必至。

 いや、むしろ自分に明確な過失があった時よりも、過失がなかった時のほうが己の行動を反省できない分、その心の傷は深くなるかもしれない。

 苦しい思いをしているのだろう、実際、筆者のもとにはこうした「加害者という名の被害者トラックドライバー」から懺悔のようなメールがやってくる。

 また、ニュースになった場合、メディアによっては過失のある歩行者や自転車は匿名で報道される一方、トラックドライバーは実名報道されることもある。いずれにしてもその事故でドライバーの人生が大きく変化することは間違いない。

◆「僕は死にません」はトラックドライバーからすると大迷惑

 余談になるが、昔人気を博した某恋愛ドラマ内で、主人公の男性が走行中のトラックへ飛び込み、「僕は死なない」と愛の告白をするシーンがあったが、真面目な話、あれが現実にあった場合、トラックドライバーからすれば、心の底から「よそでやれ」である。

 あれで彼が轢かれなかったのは、決して彼の「愛の強さ」でも「運の良さ」によるものでもなく、「ドライバーの腕の良さ」以外の何ものでもない。もしあのトラックが満載だったら、主人公は確実に命を落としている。

 筆者含め多くのトラックドライバーたちは、あのシーンがテレビで流れるたび、毎度そんなことを思ってしまうのだ。

「免許携え走っているトラックや乗用車が、交通弱者である我々歩行者や自転車を轢くはずがない」と思ったら大間違いだ。

 歩行者やサイクリスト(自転車に乗る人)は、道路の安全は、決して自動車だけが作り上げるものではないこと、交通ルールを犯せば、自分だけでなく他人の人生をも大きく変える可能性があることを是非肝に銘じてほしい。

 一方のトラックドライバーや一般ドライバーも、周囲の道路使用者がルールを守るとは思い込まず、ハンドルを握る間は常に緊張感を持って運転してほしい。

【橋本愛喜】

フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。日本語教育やセミナーを通じて得た60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。

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