親に虐待されても、子どもは被害を自覚できるわけではない

親に虐待されても、子どもは被害を自覚できるわけではない

タカス / PIXTA(ピクスタ)

◆子どもは「自分が親にされていることは虐待だ」と認知できるのか

 今年3月、静岡地裁は12歳の娘を強姦したとして起訴されていた父親に無罪判決を出した。4月には、中学2年の頃から娘に性的虐待をしてきた父親に名古屋地裁が無罪判決を出した。

 子ども(未成年)の視点で見れば、自分がどんな法律によって守られているのか、性の相手が法律や条例でどんな罰を受ける恐れがあるかを知っていたかどうか自体、極めてあいまいだ。そもそも、子どもはリアルタイムで「自分が親にされていることは虐待や犯罪かもしれない」と認知できるだろうか?

◆自分を虐待してきた親への手紙 応募者の平均年齢は30歳

 1997年夏、筆者は親に虐待されてきた人を対象に、新聞や雑誌を通じて「親への手紙」を書いて応募してほしいと呼びかけた(※虐待の種類は不問)。

 2か月ほどで9歳から81歳の男女が書いた300通以上が集まり、秋には100通分を収録した本『日本一醜い親への手紙』(メディアワークス ※当時。現・アスキー・メディアワークス)を刊行した。

 翌98年には続編『もう家には帰らない さよなら日本一醜い親への手紙』も同様の公募で刊行し、2017年にも新たに公募して『日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO)を刊行した。

 執筆者たちは過去の虐待についてのみ書いたのではなく、過去から現在まで続く虐待の被害と、それに対する自分の認識の変遷について書いていた。

 採用の際、応募原稿の年齢を見て、その割合に応じて100通を選んで収録した。10代が全体の1割なら10代から10点を採用したわけだ。だが、採用された人の平均年齢は1997年版で29歳、1998年版で29歳、2017年版で34歳だった。

(※平均年齢は、採用者数から「年齢不明」を除いた人数の年齢の合計を有効人数で割って算出。小数点以下は切り捨て。年齢不明は、応募者の希望による)

 3冊の有効人数の合計は、308名。

 3冊の平均年齢の合計92歳から平均を求めると、30歳。

 子どもの頃の虐待によって刻印された傷は、中年や高齢者になった後でも被害当事者を苦しめ続けているため、成人しても親の支配下から逃れるのも難しければ、親元から離れて暮らしたいと思っても自信をもてない人が少なくない。

 その結果、「これは虐待だ」「逃げていいことだ」とはっきりと自覚するには、それなりに年月がかかってしまい、自覚しても、他人に相談したり、本に投稿することで「親バレ」するのを恐れてしまう。

◆40〜50代で虐待されていたと気が付く人も

 前述の手紙本3点に収録された執筆者の言葉を拾ってみよう(※年齢はいずれも刊行当時のもの)。

「家の中が地獄でも幸せな子を演じていた」という44歳の女性は、子どもの頃に父の残飯だけを食べさせられていたことや、兄による性的虐待を両親に黙認されていたことなどを、父親が死ぬ間際に「35年かかってはっきり思い出した」と書いている(1998年版)。

 51歳の女性は、40代に入ってから夫の勧めで心理療法を受けてから親への疑念が噴出。「子どもの頃は恐怖と不安で自分の心の声に気づけなかった」と告白している(2017年版)。

 49歳の女性は、小3の頃に家に来た養父から性的虐待を受けた。だが、「あれから30年以上が経って、あれが性虐待だったと自覚」した。

「初めて人に話すことにしました。そのシーンは何度も思い出されたのに、けっして話してはいけないと思って生きて生きたのです」(2017年版)。

◆27歳で不眠症に、父への不満に初めて気が付く

 子どもの頃に父から「体が吹っ飛び、目の前が真っ白になる」ほど平手打ちされていたという36歳の女性は、「何も問題のない良い子」と呼ばれながら高校を卒業したが、27歳の時に職場の人間関係のトラブルがきっかけで重い不眠症になった。

「うつ状態の苦しみから自殺まで考えるようになった。その時になって初めて自分の中にある父への不満の大きさに気づいた」(1997年版)

 つらすぎる記憶を頻繁に思い出していては、日常生活が立ち行かなくなる。虐待されると、その痛みに向き合うだけではつらすぎるのだ。

 だから、心を守るために特定の記憶を思い出せなくなったり(=健忘)、自分の感情が感じられなかったり(=離人感)、夢の中にいるように感じるなどの「解離」を起こす。このことは精神医学では良く知られているが、虐待の自己認知を難しくさせる一因といえるだろう。

「子ども虐待なんて自分には関係ない」と思っている人でも、残酷な記憶から逃げ続けていることもあるのだ。

<文/今一生>

フリーライター&書籍編集者。

1997年、『日本一醜い親への手紙』3部作をCreate Media名義で企画・編集し、「アダルトチルドレン」ブームを牽引。1999年、被虐待児童とDV妻が経済的かつ合法的に自立できる本『完全家出マニュアル』を発表。そこで造語した「プチ家出」は流行語に。

その後、社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャルビジネスの取材を続け、2007年に東京大学で自主ゼミの講師に招かれる。2011年3月11日以後は、日本財団など全国各地でソーシャルデザインに関する講演を精力的に行う。

著書に、『よのなかを変える技術14歳からのソーシャルデザイン入門』(河出書房新社)など多数。最新刊は、『日本一醜い親への手紙そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO)。

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