児童相談所の一時保護は本当に「救済」なのか? 定員オーバーや職員による虐待も

児童相談所の一時保護は本当に「救済」なのか? 定員オーバーや職員による虐待も

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 子ども虐待の防止策が話題になる際、お決まりのように「児童相談所による一時保護を速やかにしてほしい」という声が上がる。しかし、それは本当に虐待された子どもにとって救済なのだろうか?

 実際に一時保護所に入所していた子どもからは「ドラマで見た刑務所のような場所」といった声も出ている。施設内では職員による虐待も発生している。一時保護されれば安心、というわけではないのだ。

◆虐待相談件数は12万件超、そのうち保護されるのはおよそ2万件

 一時保護所とは、児童福祉法第12条の4に基づいて、児童相談所に付設、もしくは児童相談所と密接な連携が保てる範囲内に設置され、虐待・置去り・非行などの理由で子どもを一時的に保護するための施設だ。厚労省によると、2017年4月1日時点で全国に136か所に設置されている。

 2016年度に全国の児童相談所へ寄せられた虐待相談件数は、12万2575件(実数)だったが、そのうち一時保護された件数は2万175件にとどまっている(※児童虐待を要因として一時保護したが、年度中に一時保護を解除した延べ件数)。

 虐待通告があっても、虐待の程度や事情などはさまざまであり、虐待されている子どもが全員保護されるわけではない。2016年度なら保護されないケースが8割強だった。

◆定員オーバーの施設が1割弱、定員に達しそうな施設が2割超

 児相が被虐待児を保護したくても、一時保護施設には定員がある。

 割り当てられた部屋で暮らす子どもは、1居室あたり4人以下(乳幼児のみ6人以下)と定められているのだ。そこで、親に虐待された子どもの身になって、現実を見てみよう。

 全国の児相に寄せられた虐待の相談件数は、調査初年の1990年以来、増え続けるだけで一度も減っていない(※厚生労働省子ども家庭局の発表による)。

 この国の政府は、虐待の発生そのものを減らす政策に約30年間も失敗しているため、保護の対象となる子どもの数も増加傾向にあるのだ。(※出典:厚生労働省大臣官房統計情報部)

 保護の対象となる子どもが増えれば、保護施設を増やす必要が出てくる。しかし、莫大な金がかかるハコモノの建設に議会が予算をつけるのは容易ではないし、地域住民から建設反対の声が上がれば、新設を進めるのは難しくなる。

 その結果、すでに定員をオーバーしても受け入れている一時保護施設が、2017年の1年間で10か所(7.4%)に達している。(※厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課調べ)

 それどころか、もうすぐ定員オーバーしそうな施設を示唆する「80%以上100%未満」が30か所(22.1%)に及んでおり、全国の約3割の一時保護施設で「定員オーバー」による弊害が懸念されている。

◆施設は「ドラマで見た刑務所のような場所」

 一時保護の施設で暮らしているのは、虐待を受けた子どもだけではない。

 棄児や迷子、家出した子どもなど適当な保護者・宿所がないために緊急に保護された子、虐待・放任などで家庭から一時的に引き離す必要があった子、自己または他人の生命・身体・財産に危害を及ぼした子(もしくはそのおそれがある子)、援助指針を定めるために行動観察や生活指導などを行う必要がある子などだ。

 2015年度の保護件数2万3276件のうち、養護1万7554件(うち虐待1万1607件)、障害90件、非行3536件だった。施設内では、親に虐待された子、非行少年、障害を持つ子らが混在している。

 筆者は、親に虐待されて施設に入ったことのある若者たちから「非行少年に万引きを強要された」とか、「ドラマで見た刑務所のような場所」という声を頻繁に聞いてきた。

 もちろん、すべての施設がそのような非人道的な場所ではない。だが、定員オーバーが続けば、子ども1人あたりのスペースは狭くなり、ストレスや緊張感でいじめや暴行に及ぶことが想定される。そのため、職員がより強い管理を求めるようになる傾向は依然としてある。

 首都大学東京教授(憲法学)の木村草太さんは、ビジネス・インサイダー・ジャパンで「施設の環境の悪さも児相が保護を躊躇する原因」と指摘し、児童虐待や少年事件を数多く担当してきた山下敏雅弁護士も「自分の持ち物を使うのにも許可が必要だったり厳しく管理されているところも多く、2度と行きたくないという子もいます」と証言。

 2007年にNPO法人Living in Peaceを創設した起業家の慎泰俊さんは、施設に住み込んでルポを書き、一時保護所について「傷ついた心をケアするような場所でない」と朝日新聞にコメントしている。

「一部の一時保護所における刑務所のような雰囲気です。外壁は高く、窓は閉じたままで外へ出ようとすればセンサーが鳴る。食堂には1列に並んで入り、食事中は私語禁止。学校にも通えず友達へ連絡を取ることもできません」(朝日新聞2018年4月24日の記事より)

◆親に虐待を受けて保護されたのに……施設内では職員による虐待も

 こうした管理を少人数で行う職員の側にも、当然ストレスはたまる。

 保護された子どもに対する職員による「施設内虐待」が、既に問題視されているのだ。社会的擁護の現場で、子どもに対する体罰や身体的暴力はもとより、言葉による暴力や人格的辱め、無視・脅迫の心理的虐待、セクシャルハラスメントなど、保護された子どもに対する不適切なかかわりが一部にあることは、厚労省も認めている。

 10年前の2009年4月に施行された児童福祉法改正によって、施設職員等による被措置児童等虐待(いわゆる施設内虐待)について、都道府県市等が児童本人からの届出や周囲の人からの通告を受けて、調査等の対応を行う制度が法定化された。

 これは、児童相談所の所長、一時保護所の職員、児童養護施設の職員、児童自立支援施設の職員、児童心理治療施設の職員、障害児入所施設の職員、乳児院の職員、里親などが、保護された子どもに対して加害者になっている現実をふまえての改正だったのだ。

 もっとも、保護された子どもは、学校や家庭で虐待とは何かを学ぶ機会がない。「自分が職員にされていることは虐待だ」と認知できるだろうか?認知できた時、自分を虐待した職員以外の誰に容易に相談できるだろうか?被害を子どもが言い出すのは、大人が考えるよりはるかに難しいことではないか?

 2018年1月、愛知県西三河地方の児童相談所の一時保護所で、同県豊橋市の少年(当時16歳)が自殺した。少年は家出中に自転車を盗んだとして補導され、職員に「少年院に行く場合もある」と言われ、自室のシーツで首を吊った。有識者や医師、弁護士による検証委員会が県に提出した報告書によると、「不適切な対応を行ったことは否めない」という。

◆児童相談所を増やしても、虐待が減るわけではない

 今年2月19日、安倍総理は総理大臣官邸で政府与党連絡会議に出席し、こう発言した。

「8日に関係閣僚会議を開催し、全ての虐待ケースの1か月以内の緊急安全確認や、現在3000名の児童福祉司を来年度一気に1000名増員し、2022年度には5000名体制とするなど、児童相談所の体制の抜本的強化に直ちに取り組むよう指示しました」

 職員を増やせば、相談窓口も増えることになる。

 窓口が増えれば、これまでと同様、相談件数も増えるだろう。

 前述のように、施設のようなハコモノはすぐには新設できないため、定員オーバーの課題はますます深刻化し、子どもは従来と変わらず、さんざん虐待された後でないと保護されない。

 保護されても、施設内でまた虐待されかねない。

 これが「抜本的」な虐待防止対策といえるだろうか?

 政府はこれまでも職員や施設を増やし、虐待通告ダイヤル189の広報にも努めてきたが、その分だけ相談件数は増えるばかりだった。これは、実際の発生件数が相談件数よりはるかに多いことを示唆している。つまり、現行制度のままでは、相談ばかりが増えて、虐待の発生自体は減らせないのだ。

 児童相談所ができる業務は、あくまでも「さんざん虐待された後のケア」にすぎない。ケアに金をかけるのも大事だが、そもそも子どもが親に虐待されない仕組みを作るのが、最優先課題ではないか?

<文/今一生>

フリーライター&書籍編集者。

1997年、『日本一醜い親への手紙』3部作をCreate Media名義で企画・編集し、「アダルトチルドレン」ブームを牽引。1999年、被虐待児童とDV妻が経済的かつ合法的に自立できる本『完全家出マニュアル』を発表。そこで造語した「プチ家出」は流行語に。

その後、社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャルビジネスの取材を続け、2007年に東京大学で自主ゼミの講師に招かれる。2011年3月11日以後は、日本財団など全国各地でソーシャルデザインに関する講演を精力的に行う。

著書に、『よのなかを変える技術14歳からのソーシャルデザイン入門』(河出書房新社)など多数。最新刊は、『日本一醜い親への手紙そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO)。blog:今一生のブログ

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