再犯を防ぐカギになる!? 日本初の「受刑者向けの求人誌」創刊

再犯を防ぐカギになる!? 日本初の「受刑者向けの求人誌」創刊

三宅晶子さん

 日本では年間約2万4000人の受刑者が刑務所から出所している。しかしせっかく出所しても、その再犯率は約5割にも上る。

 いろいろな要因はあるが、特に大きな原因として、出所したはいいが仕事がないということが挙げられる。求人に応募しても出所者であることで採用を断られ、頼るべき人がいなければアパートを借りることもできない。出所時の所持金である数万円を使い果たせば、途方に暮れて微罪(万引きや食い逃げなど)を犯して刑務所に戻る人が絶えないのだ。

 この状況に対して「だったら受刑者向けの求人誌をつくればいい」と思い立ったのが、株式会社ヒューマン・コメディの三宅晶子代表取締役だ。

 三宅さんは昨年3月に『Chance !!』という刑事施設に配布する求人情報誌を創刊した。出所者などを積極的に採用したい企業の求人誌は日本初となる。

 創刊号の掲載企業は12社。最初の数ページを見ただけでも、市販の求人誌とは全く異なる内容だ。

◆募集する企業代表者からのメッセージが熱い

 市販の求人誌やハローワークでの求人票は、ほとんどが「募集職種」「応募資格」「勤務時間」「給与・待遇」などがデジタル的に羅列しているものだが、「Chance !!」は違う。熱いのだ。

 全ページカラー刷り。インターネットが使えない受刑者に企業の雰囲気が伝わるよう、社長や社員や作業風景の写真を盛りこんでいる。そして、まともな教育を受けられなかった人もいるであろう受刑者のためにすべての漢字にルビを打っている。

 何よりも、冒頭に書かれた企業代表者からのメッセージが熱い。たとえば――。

「自分は少年院送致をきっかけに親や友だちのことを考えるようになり、人様に迷惑をかけずに生きようと思いました。鳶の会社で6年間で1000万円貯めて、25歳で今の会社をつくりました。

 ウチの番頭職も昔は悪かったやつばかりですが、『自分には夢も未来もない』と心を閉ざしている人の面倒を見る立場になっています。車を買う、彼女をつくる、結婚して誰かを守る。ゆくゆくは親方になることを目標に、ひとつひとつ夢を実現していく。

 最初はみんな自分の人生を親や誰かのせいにしてるけど、いい大人との出逢いで人は変わる。死ぬこと以外はかすり傷。人生はリセットできる。その感謝を、今度は自分が伝えていきます」(土木業)

「自分も保護司です。非行歴や犯罪歴のある人は、お金を出してもできない修行をしてきたのだと思っています。普通の人より人生経験が多い。だから、逆にそれを生かしたほうがいい。過去はぬぐえないが、未来は自分で変えられる。私たちがそのお手伝いをします」(製造業)

「Chance!!」は季刊発行で現在までに5号が発行され、ざっと50社以上の企業情報を載せた。

 日本には、出所者の雇用をためらわない企業がそこそこにある。だが問題は、刑務所は出たけれど、これからどう生きようかと考える出所者のすべてがそれら企業にたどり着けるわけではないことだ。三宅さんの功績は、出所前に受刑者とそれら企業とを直接つないだことに尽きる。

◆三宅さんは、元不良少女だった

 三宅さんは1971年生まれ。中学時代からはいわゆる非行少女だった。万引き、喫煙、飲酒、無免許でのバイク運転、幾度もの家出とケンカ。なぜそうなったかの理由は本人も分からない。当時は大人という大人に反発したという。

 滑り込みで高校に入学しても、学校には行かなかった。彼氏との同棲先からバイト先に通う毎日に、わずか5か月で退学処分を受ける。

 転機は、バイト先に現れた父と食事をした時だった。「読んでごらん」と渡されたのがデカルトの『方法序説』。これが何度目を通してもまったく理解できない。普通ならそこで諦める。だが、なぜか三宅さんはそこで逆転の発想をした。

「じゃ、大学で勉強すれば読めるようになるのでは」

 受験勉強を始め、23歳で早稲田大学第二文学部に入学。卒業後は貿易事務や大手情報通信系企業で働くという、まっとうな道を歩くことになる。わけあって2014年に退職するが、そのときに今後の人生のビジョンを描いた。

「人が好きなので、人材育成の仕事をする」

 三宅さんはこう振り返る。

「そこで、どういう人たちを育成するかを考えたとき、『生きづらさを抱える人たち』を対象にしようと思いました。そのためには、事業開始前に実際にそういう人たちに会っておこうと、あちこちを訪ね歩いたんです」

◆奄美大島の養護施設で出会った少女と養子縁組

 三宅さんは、自立援助ホーム(15歳から20歳までの家庭のない児童が入所して、自立を目指す施設)や受刑者支援の組織でボランティアを経験する。

「そこで初めて、非行歴や犯罪歴のある人の社会復帰がなんと難しいのかを知りました。出所しても家もない。だから仕事もできない。少ない所持金を使い果たすと、あえて微罪を犯して刑務所に戻る。その事実にショックを受けました」

 とはいえ、このときは「国が何とかすればいい」と思う程度で、自ら具体的行動はとるなど想像もしなかった。

 運命を決定づけたのは2015年4月。奄美大島の養護施設で出会っていた17歳の少女から手紙が来た。少女には両親がいるのに人生のほとんどを施設で過ごしていた。三宅と親しくなった少女は施設を出たあと、非行に走り少年院に入った。手紙は少年院での日常を綴ったものだった。

 三宅さんは直感した。「この子は出院してもまた悪いことを繰り返す」。

 手紙には「私に行き場がなくなったら、親が迎えに来てくれるかな」といった必死に居場所を探す願いが見えた。三宅さんは夫の同意を得て、少女の養子縁組を決める。

「そして考えたのは、どんな環境が彼女にいいかということでした。もし私が出所者などを支援する事業を興して彼女を雇用すれば、彼女は同じような境遇の人に親身になるに違いない。彼女は過去を隠さなくていいどころか、過去は過去として輝くと思ったんです」

 2015年7月19日。三宅さんは彼女の誕生日にヒューマン・コメディを登記した。毎年、その日になると「生まれてきてくれてありがとう」と伝えるために。

 だが少女は、いざ東京の三宅家で暮らし始めるとすぐにSNSで知り合った少年と知り合って同棲を始め、自ら家庭裁判所に「養子縁組はしない」と伝え、親子関係は短期間で終わった。三宅さんは「彼女に求めすぎた」と反省するが、今も付き合いは続いている。

◆出所後のことを悩んでいる人たちのための情報がなかった

 ヒューマン・コメディは、出所者などを派遣する有料人材紹介業として始動。同時に、ヒューマン・コメディでも1人でも出所者を受け入れて働いてもらわないと信用されないからと、1人の男性出所者を採用した。

 だが誰も長続きしなかった。ある出所者は5日でいなくなり、覚せい剤使用歴のある出所者は、三宅さんの知人が経営する会社に出向させたら突然無断欠勤する。そんなことの繰り返しに、仕事がまったく機能せず収入はゼロ。

「刑事施設のなかで出所後のことを悩んでいる人は山ほどいるのに、当社の存在を知らせる術もありませんでした」

 そこで思いついたのが求人誌の発行だった。求人誌を刑事施設に置いてもらえれば、受刑者が直接情報を目にすることで、自分の望む会社を選ぶことができるはずだ。

◆「人はやり直せる」と言い切る覚悟ある会社だけを掲載

 思いついたらすぐ動く。2017年6月から、三宅さんは求人広告を出せる協力企業を集めるため、縁もゆかりもない建設業界の催しに顔を出したり、今は会社経営者だが元ワルの知人に声をかけたりしては人脈をつくることに腐心した。

 同時に、出所者雇用に熱心な知人の協力を得て、法務省矯正局成人矯正課を訪れ、求人誌発行の許可も得た。

 そして、ハローワークで見るような無機質な募集要項ではなく、前述のように、インターネットが使えない受刑者が企業の雰囲気をイメージしやすいよう、社長や社員や作業風景の写真を盛り込んだカラーページに社長の肉声も盛り込むレイアウトでの製作に努めた。

 一方で三宅さんは「Chance!!」の掲載希望企業に対しては、まず初めに「掲載はやめたほうがいいですよ」と忠告する。「出所者は社会生活に慣れていません。会社に不利益あっても当社は責任をもてません」とも言う。

 それでも「採用します。人はやり直せますから」と言い切る覚悟ある経営者はいる。そういう会社だけを載せるのだ。

◆どんな過去も、笑ってネタにできるように

「Chance!!」は2018年4月に創刊され、現在、刑務所や少年院など239施設に配布されている。受刑者が「いい」と思う企業があれば、受刑者は「Chance!!」に添付された専用履歴書に必要事項を書き込みヒューマン・コメディに送る。履歴書は企業に転送され、事業主の判断次第で面接が実現する。

 関心を引いたのは、その専用履歴書が受刑者の人となりを映し出すことだ。記入項目は多岐にわたる。罪名や刑期といった基本情報に加え、「施設内での自分の行い」、「この期間は自分にとってどういうものと感じているか」、「再犯の可能性についてどう考えているか」、「再犯しないための決意や具体策等」、「被害者への対応」、「出所後の被害者への支払い意志の有無」等々、本人が厳しく自分を見つめ直す機会となるような内容だ。

 今年4月8日時点で、ヒューマン・コメディには、309人から資料請求や相談などを含めた手紙が届き、120人からは履歴書が送られ、37名が出所前に就職が内定し、うち実際に就労しているのは7人となっている。

 ヒューマン・コメディは株式会社である以上、数人の役員がいるが、実は社員は社長である三宅さんしかいない。今後も「Chance!!」の発刊は続くが、驚いたのは三宅さんがその利益から手にする役員報酬は月5000円に過ぎないことだ。三宅さんはこう言い切った。

「これで儲けようと思ったら私はぶれます。儲けを優先すると、たぶん、いい加減な会社も誌面に載せてしまうと思うんです」

 三宅さんはもう一つの仕事で収入を確保しているが、そこには暗さのみじんもない。三宅さんはこう言い切るのだ。

「人生を喜劇にしよう。どんな過去もネタにして笑って生きられるようにしよう。人様の役に立ち、最後に笑って死ねたら最高の喜劇じゃないですか」

 この思想がヒューマン・コメディという社名に表れている。

<文/樫田秀樹>

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