「育児は母親がすれば良い」という風潮が母親たちを苦しめる

「育児は母親がすれば良い」という風潮が母親たちを苦しめる

「育児は母親がすれば良い」という風潮が母親たちを苦しめるの画像

 筆者には、1歳11か月の息子がいる。保育園送迎はもちろん、食事やお風呂、病気になったときの通院など子育てに深く関わっている。そのため、これまで、育児を理由に仕事や用事を何度もお断りしたことがある。その際、相手が発した「子どものことなら奥さんがいるよね?」という言葉にモヤモヤしてきた。その言葉の背景には、「子育て=母親がすること」という決めつけがあると感じるからだ。

 産後まもなく妻が心身のバランスを崩したことで、筆者は子育てをメインで担ってきた。日々子どもに向き合う生活の中で、育児は想像以上にハードであること、女性が育児という重大ミッションを担って当然、とされる風潮に疑問を抱き始めた。

◆妊娠・出産の疲労、育児のプレッシャーで妻が倒れる

 息子が生まれたのは、2017年6月のこと。待望の長男が家族に加わり、幸せの絶頂にいた。このまま楽しい日々が続くものと、筆者は思い込んでいた。

 妻が退院して一週間ほど経ったとき、状況は激変した。雨が降っている中、妻が突然、行き先も告げずに家を出たのだ。30分後に戻ってきた時には、全身ずぶ濡れ。目には力がなく、話しかけても反応は弱かったため、妻の精神状態が普通じゃないことはすぐにわかった。日が経つにつれて、妻は「子どもが可愛くない」「死にたい」などと口にするようになり、家庭は真っ暗になった。

 原因に心当たりはあった。妊娠と出産で疲れ果ててていたところに、目の前にいるか弱い命を育てることのプレッシャーが妻にのしかかったことだ。さらに夜中の授乳による深刻な睡眠不足も妻の体力と気力を奪った。さらに、当時筆者は仕事でほぼ半日家を空けており、妻がワンオペ育児状態だったことも追い討ちをかけた。

◆寝不足でマルチタスク、孤独感

 その後筆者は在宅で仕事ができるよう少しずつ働き方を変えていき、妻に療養してもらいながら、家事と育児をしながら仕事をした。独身時代はひとり暮らしをしており、ひと通りの家事はできると自信があった。もともと子ども好きだったので、育児もできるとたかをくくっていたが、育児は想像以上にハードだった。

 特にきつかったのが、寝不足だ。新生児はほぼ3時間おきにミルクを求めて泣く。筆者はそのたびに起き、眠気まなこをこすりながらキッチンでミルクを用意して、息子に与えた。この生活が毎日続いたのだ。細切れ睡眠では疲れは抜けず、頭はぼーっとして体はいつも重かった。また、命を守るプレッシャーもあった。うつ伏せで眠っていないか、ちゃんと呼吸をしているかを頻繁に確かめた。この状況に仕事が加わったので、筆者はかつてないほどの疲労感を覚えた。

 育児ですることは、オムツ交換、ミルク作り、授乳、お風呂など、ひとつひとつはシンプルな作業ばかりだ。しかし、それらの作業を精神的にも肉体的にも疲れた状態で、なおかつ最優先で高い頻度で行わなければならない。

 親が眠かろうが、体調がイマイチだろうが、子どもは一切の忖度なしにお世話を要求してくる。仕事との並行は至難の技だったし、筆者はかつてないマルチタスク力を求められた。

 個人的には「孤独感」も辛かった。育児は、家庭という閉じられた空間で行われる。ネット経由でさまざまな人と連絡は取れたが、以前のように自由に会いに行けるわけではない。だんだんと、自分が周りから切り離されたような感覚を抱いた。1か月ほどこの生活を送ってみて、妻がどれほどの負担を強いられていたかを痛感した。

→次ページ「パパがひとりで赤ちゃんのお世話をして偉いね」?

◆父親だって子育ての当事者なんだ

 「子育て=ママの役割」の決めつけは、街中で強く感じた。ある時、ベビーカーを押してスーパーへ買い物に出かけた時、周りのお客さんから「ママはいないの?」「パパがひとりで赤ちゃんのお世話をして偉いね」などと、しばしば声をかけられた。

 また、小児科で予防接種の案内を受けたとき、スタッフから「家に帰ったら、予防接種案内のチラシをママに見せて注射を打ちに来てください」と言われたこともあった。それらの発言をした人たちに悪意がないのはわかっている。だが、釈然としない気持ちだった。

 筆者は息子の父親であり、妻と同じように子育ての当事者だ。しかし、筆者が息子と一緒に過ごしていると、なんだか物珍しい光景を見ているかのような視線を向けられることも少なくない。そんな社会に疑問を感じた。たとえば、妻がスーパーや小児科に息子を連れて行った場合、「ママひとりで偉いね」「チラシをパパに見せて、パパと注射に来て」などと言われるだろうか。

 保育園の送り迎えを積極的にしたり、病院に連れて行ったりするパパはたくさんいる。しかし、まだまだ「男性=子育て」の認知は弱い。「男性は仕事をするもの、女性は子育てをするもの」との根強い決めつけが、「子育ては奥さんがすればいい」発言につながるのだろう。

◆子育ては夫婦で協力してするのが自然

 ひとつの命を育てるわけだから、子育てには相当なプレッシャーがかかる。自分の判断ミスや行動の遅れが命に関わる可能性もあり、神経は常に張り詰める。それでも社会的には、「お母さんだから頑張らないといけない」と思われ、母親は追い詰められた末に自殺をしたり、虐待に及んだりしてしまうことがある。それらは許されない行為だが、子育ての負担を一身に背負うと精神的に参ってしまうことは責められない。

 母親の負担を軽くするには、夫である男性の力が必要だ。子育てを夫婦の一大プロジェクトととらえ、ともに臨むのがあるべき姿だと、筆者は自分の体験から感じている。

 とはいえ、核家族では人手が足りないし、家庭の事情によっては夫が子育てに多く関われないこともある。

 その場合は、行政が提供し比較的安価で利用できる見守りサービスのほか、民間のベビーシッター、家事代行サービスのような第三者を頼るのは有効だ。家計の負担にならない範囲で利用し、筆者もかなり助けられた。親が意図的に子どもから離れる時間を設けることで、心身の休息と安定を図れるメリットは大きい。

 もちろん、家庭の事情や夫婦の考え方はさまざまなので、これをしないと絶対ダメ!という決まりはない。「夫には仕事をメインでして家計を支えてもらい、家事と育児は妻が担う」と夫婦が納得しているならば、それでよいのだ。

 筆者が疑問だと思うのは、「子育ての負担を母親が背負って当然」という決めつけだ。「育児?奥さんがやればいいよね」なんて簡単に言わないでほしい。父親も子育ての当事者なのだから。

<文/薗部雄一>

1歳の男の子を持つパパライター。妻の産後うつをきっかけに働き方を見直し、子育てや働き方をテーマにした記事を多数書いている。

関連記事(外部サイト)