東京都消費生活センターが「マクロビ推奨」の食育講座炎上で中止。しかし、都に反省の色なし

マクロビオテックを推奨する講座が炎上 批判が殺到し東京都消費生活センターが中止

記事まとめ

  • 東京都多摩消費生活センターが「食育講座」として、マクロビオテックの講座を企画した
  • マクロビは科学的根拠がないと指摘されており、批判を浴びてTwitter等で炎上した
  • 東京都多摩消費生活センターは中止を発表したが、中止発表後もなお批判が続いている

東京都消費生活センターが「マクロビ推奨」の食育講座炎上で中止。しかし、都に反省の色なし

東京都消費生活センターが「マクロビ推奨」の食育講座炎上で中止。しかし、都に反省の色なし

中止された都の食育講座 「 『ゆるマクロビ』でココロとカラダの調子を整えよう!」のチラシ

◆東京都多摩消費生活センターが「炎上」。その理由は?

 東京都多摩消費生活センターが「食育講座」として、科学的根拠がないと指摘されている健康法「マクロビオテック」の講座を企画。批判を浴びてTwitter等で炎上し、4月26日に中止を発表した。都はTwitterやウェブサイトで、「地産地消の推進、食品ロスの削減を目的とした講座」という趣旨を挙げ、「その趣旨が十分に伝わらないご案内となっておりました」とした。しかし講座の告知にはそもそもそのような趣旨はなく、〈テーマは「ゆるマクロビ」です〉などと書かれていた。このことから、中止発表後もなお批判が続いている。

◆消費者保護機関が「マクロビ」推奨する問題点

 都の公式アカウント「東京都消費生活行政」(@tocho_shouhi)がマクロビオテックの講座開催を告知したのは3月下旬。多摩消費生活センターでの「5月の食育講座」として、5月29・30日の2日間〈「ゆるマクロビ」でココロとカラダの調子を整えよう〉(無料)を開催するとした。マクロビオテックについて学び、それに基づいた菓子を作るという内容で、講師は『お弁当からはじめるマクロビオティック』『マクロビオティックの蒸しパウンドケーキ&焼きパウンドケーキ』などの著書がある菓子・料理研究家の今井洋子氏だ。

 マクロビオテックとは、桜沢如一(故人)が提唱した「玄米菜食」の思想や健康法を指す。食材を「陰」と「陽」に区別して捉え、「中庸」であることを理想とする。例えば肉類は強い「陽」であるとして、動物性の食材を推奨しない。「陰」である砂糖は体を冷やすなどと捉え、これも控えることが望ましいとされる。

 表向き、マクロビオテック信奉者たちは「バランスを保つことが重要なのであり、動物性食品を禁止しているわけではない」かのように語るケースが多い。しかし「肉・乳製品・卵・砂糖はよくない」かのような教えである以上、当然、熱心な信奉者たちの食事は偏りがちになる。科学的根拠がないというだけではなく、本来必要な栄養バランスを崩す実害も指摘されている。

 筆者自身、かなり以前になるが「親がマクロビ信奉者だった」という「マクロビ2世」と会ったことがある。幼少から動物性の食品なしで育てられ、病気になると敢えて玄米ばかり食べさせられた。その人は「ペットのネコが病気になった際も、親から玄米ばかり食べさせられたまま死んだ」と語っていた。

 こうした側面への批判は以前からある。そのためか、昨今では今回の講師の今井洋子氏のように「ゆるマクロビ」などというキャッチフレーズで雰囲気的に敷居を下げて信奉者を増やそうとする傾向が強まっている。

 しかし、ゆるかろうが何だろうが科学的根拠が疑問視されるものを東京都の、しかもよりによって消費生活センターが「食育」などと称して推奨するのは、さすがに批判を浴びて当然だろう。

 4月下旬にTwitter上でこの告知が批判を浴びた。Twitterを見たところ、どうやら都に直接電話を入れて指摘した人もいたようだ。都は4月25日に講座の中止を発表した。

 ところが、だ。都がウェブサイトで発表した中止の告知は、こんな文面だった。

〈5月29日(水)、30日(木)に開催を予定しておりました多摩消費生活センターの食育講座は、地産地消の推進、食品ロスの削減を目的とした講座でしたが、その趣旨が十分に伝わらないご案内となっておりました。誠に勝手ながら、中止とさせていただきます。既に申し込まれた方、また、ご検討中の皆様方には、深くお詫び申し上げます。〉

 本記事冒頭に載せたTwitterでの「食育講座」告知にも、下の画像にある都のサイト上での告知にも、最初から「地産地消の推進、食品ロスの削減を目的とした講座」などという趣旨は一言も書かれていない。ただ「マクロビ推し」をしているだけ。

 実際、都が批判された理由もそこにある。「地産地消の推進、食品ロスの削減を目的とした講座」であればマクロビオテックを推奨していいということになるわけでもない。

 講座案内のチラシ画像には、卵や乳製品に大きくバツ印をつけたイラストまで掲載していた。卵や乳製品を否定することが「地産地消の推進、食品ロスの削減」であるはずがない。卵にしろ牛乳にしろ、国産品・地元産品はいくらでもある。それを否定することのどこが「地産地消の推進」なのか。

 マクロビオテックを推奨したことについて何ら反省せず、自分たちが当初行った告知の内容や外部からの批判の趣旨など全てを誤魔化して、「中止」することで済ませようとしているように見える。だとしたら市民への背信行為以外の何物でもない。

◆繰り返されてきた消費者行政のミス

 都の中止告知に対しても、Twitter上では批判の声が挙がっている。当然だ。

 消費者の利益を守るはずの行政がそれに逆行する情報を流すという事例は、過去にもあった。今回の食育講座が中止になれば済む問題ではなく、特に消費者問題や健康に関わる行政自身のリテラシーが見直される必要がある。都の欺瞞的姿勢は、この点にも逆行している。

 Twitter上で、消費生活相談員のyuri氏(@syoyuri)はこう指摘している。

〈「消費者庁のキッチン」で「酵素ジュース」の紹介をしてしまい炎上したことから多摩消費生活センターが学んでいないことは残念です・・・これでは「白砂糖や卵、乳製品」が問題のある食品だと偽り商売する、マルチ商法などの悪質業者の片棒を担ぐことになりかねないですよ。〉(yuri氏のツイートより)

 マクロビオテックとは関係がないが、2015年に消費者庁がレシピサイト「クックパッド」内の「消費者庁のキッチン」に、果物を手作業で発酵させる「発酵ジュース」を掲載した問題を指している。食中毒の危険性が指摘されすぐに削除。消費者庁は「食品衛生上の問題が生じる恐れがあるものがあった」と声明を発表した。(参照:「ITmedia news」)

 yuri氏は、こうも指摘している。

〈多摩消費生活センターの「ゆるマクロビ」 #食育講座 が炎上していますが、徳島県消費生活センターなんか、比嘉氏のEM講演会を開催(150人以上が熱心に受講)なんてやってたんですよ・・・〉(yuri氏のツイートより)

 これは2014年に徳島県のつるぎ町消費者協会が「EM菌」提唱者である比嘉照夫氏の講演会を開催した件。その様子をNPO法人徳島県消費者協会が機関誌で報告した。同NPO法人は県の徳島県消費者情報センターの委託業務受託事業者である。

「EM菌」は比嘉氏が開発したとされる酵母や乳酸菌等の菌の混合体で、河川などの水質浄化、放射性物質の除去、人間関係向上、交通事故対策など、何にでも効くとされる万能菌。もちろん、そんなものに科学的根拠が認められるはずもない。

 しかし全国では、河川やプール等の水質浄化のための「EM団子投入」が行政ぐるみで行われているケースもある。EM団子は、泥団子にEM菌を染み込ませて発酵させたもの。菌糸にまみれて真っ白になった泥団子だ。

 徳島県内でも公立の小学校が生徒たちを動員して、このEM団子投入活動を実践している。一方で、自治体によっては効果を否定あるいは疑問視する調査結果を公表しているケースもあれば、EM関連事業から撤退した自治体もある。

◆講座中止だけでは解決しない

 今回のマクロビオテック講座について、前述の通り都は事実上「批判を浴びたので問題を有耶無耶にして中止ということで」という姿勢。マクロビオテックを推奨する姿勢を撤回していない。

 消費者行政の仕事は、単に問題のある商品や業者についてのネガティブな情報を発信することばかりではない。「暮らしに役立つ」ポジティブな情報も、啓発事業の一環なのだろう。そしてニセ科学は、そういったポジティブな情報の中にこそ紛れ込んでくる。「ゆるマクロビ」で「お菓子作り」という、ふんわりとした前向きなキャッチフレーズは、まさにその象徴だ。

 これに行政自身が翻弄されてしまっては、消費者の利益に寄与することなどできない。都には、講座を中止にしてお茶を濁すのではなく、担当者のリテラシーについて再確認や再教育を行い再発防止に努めてもらいたい。それがなければ、同じことがまた繰り返される。

<取材・文・写真/藤倉善郎(やや日刊カルト新聞総裁)・Twitter ID:@daily_cult3>

ふじくらよしろう●1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)

関連記事(外部サイト)