支配的で理不尽なモラ夫の振る舞いに、「私が悪い」と自責する妻たち<モラ夫バスターな日々10>

支配的で理不尽なモラ夫の振る舞いに、「私が悪い」と自責する妻たち<モラ夫バスターな日々10>

「私が悪いから怒られるんだ」――。モラ夫を持つ妻たちが陥りがちな「正常性バイアス」の罠

◆弁護士・大貫憲介の「モラ夫バスターな日々」<10>

 日本男性には、つくづくモラ夫が多い。しかし、モラ被害に遭っていても、逃げない妻は多い。

 ある妻(30代後半)は、夫から、いつも怒鳴られることに悩み、相談に来た。「夫婦喧嘩」を隠し録音しているとのことで、相談前日のものを聞かせて貰った。法律相談に来るため、友達と約束したと嘘をついて、就学前の子の面倒をお願いしたところ、夫が突然切れて、怒鳴り始めた。

「なんで、あんたは、いつも、そうなの?」

「突然、それ言うの?」

「で、俺に子守りしろって、言うの?」

「そんな勝手なこと!」

と男性が金切り声で一方的に怒鳴りまくっていた。

 私は、彼はモラ夫だね、と言った。

 相談者は、「いえ、私も悪い。突然、子守を頼んだので」と言う。切れまくってるし相当なモラ夫ですよ、と言うと、「いえ、私も言い返してますし」と言う。しかし、録音では殆ど言い返していない。

 相談者は、精神が疲弊し、壊れ始めているように見えた。私は、逃げたほうがいいとアドバイスした。

 役所の女性センターでも、そう言われたが、逃げられないという。そして、「私にも悪いところがあるし、子どもも小さいので、もう少し頑張ってみます」と言い残して、帰っていった。

◆被害妻たちに働く「正常化バイアス」

 人は、危険や害悪を知らせる情報を過小評価したり、無視したりする。正常化バイアスと呼ばれる。

 先ほどの相談者は、精神的に壊れ始めていた。怒鳴りまくられて、憔悴しきっており、毎日が辛いと嘆いていた。それでも、まだ頑張るという。

 離婚の法律相談に来ても、結局、決断が付かず、逃げない妻たちは決して少なくない。どこにも相談に行かない方たちも含めると、逃げない妻たちは、相当な数に上るだろう。

 逃げない理由は、いろいろとある。

@モラ被害に気付いていない、或いは過小評価している。

A夫が怖くて行動できない。

B経済的自立が困難。

Cどんな父でも子に必要と考えている。

D自らの結婚を「失敗」にしたくない。良くなる期待を捨てられない。

E周囲の理解が得られない。「愛は困難を超える」と信じている。

F囲い込まれていて動けない。

G既に心身症/ウツで考えがまとまらない

◆モラ夫は支配者でいたいがため、妻に落ち度がなくてもキレる

 そして、逃げない妻たちは、現状の選択を合理化する。

 前出の外に、例えば、@夫を怒らせるドジで気の利かない自分も悪い、A夫はモラだが、良性のモラ(または単純な亭主関白)と自分に言い聞かせる、などの合理化がある。

 しかし、夫が怒るのは、妻を支配するためであり、妻が「ドジで気が利かない」からは本当の理由ではない。

 万一、ドジでなければ、例えば、「偉そうにしている」などと絡むだけで、怒る理由は、何でもいいのだ。

 そもそも、一方的に怒ることに、どれだけの正当性があるのか。愛していれば、加害などしないはずである。

 また、仮に、「良性モラ」、「単純な亭主関白」という概念が存在し、それに該当するとしても、モラが猛毒であることに変わりはない。我慢できたとしても、無理による毒は、いずれ心身にまわる。

◆「妻のワガママ」「妻の心が弱い」モラ夫の責任転嫁であり自己正当化

 ところで、多くのモラ被害者は、モラ夫には、モラの自覚がないと言う。

 妻の気持ちがわからない、空気が読めないなどの声も聞く。しかし、これは、モラ夫のマジックである。モラ夫たちは、あたかも自分が全くモラをしていないのかのようにとぼける。

 これには妻たち、時折、専門家たちまで、騙される。

 しかし、法廷などで、モラ夫に質問すると、モラ夫は、自らのモラをかなり正確に再現することができる。

 そして、自らのモラを正当化し、「妻に対する指導は当然のこと」と言い張る。また、妻の気持ちについて、「確かに気落ちしていましたね」と認めたとしても、「単なるワガママ」「精神が弱い」と妻に責任転嫁する。

 つまり、自らのモラ加害や妻の気持ちを認識してはいるが、軽視ないし無視しているのだ。妻が傷つくことよりも、自分の思い/支配的立場が優先するのだ。

 この傲慢さは、自らを家長/支配者と位置付けることからくる。したがって、人格の基礎となっている社会的文化的規範が修正されない限り、モラ夫が改心することはない。

 夫に改善を期待できないとしても、それでも、子のためと頑張る妻たちは多い。

 しかし、本当に「子のため」と言い切れるのか、考えてみる必要がある。

 幼子のいる前での、面前モラ、面前DVは、その脳を損傷することが報告されている。また、モラ夫中心の家庭生活を営むことにより、子どもたちに、モラ文化(モラ夫を育て、許容する社会的文化的規範群)を背中で伝えてしまうかも知れない。

 大事なことなので繰り返す。10連休も終盤となるが、夫が在宅し、それを憂うつに感じているとしたら、あなたにも、既に毒が回り始めているのかも知れない。

【大貫憲介】

弁護士、東京第二弁護士会所属。92年、さつき法律事務所を設立。離婚、相続、ハーグ条約、入管/ビザ、外国人案件等などを主に扱う。著書に『入管実務マニュアル』(現代人文社)、『国際結婚マニュアルQ&A』(海風書房)、『アフガニスタンから来たモハメッド君のおはなし〜モハメッド君を助けよう〜』(つげ書房)。ツイッター(@SatsukiLaw)にてモラ夫の実態を公開中

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