内定辞退をするときは直接訪問? 学生の声は「必要がない」「ハラスメントされた学生も」

内定辞退をするときは直接訪問? 学生の声は「必要がない」「ハラスメントされた学生も」

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 日本経済新聞は5月15日、「内定辞退の正しい伝え方、『直接会って、まず感謝』を」という記事を公開した。内定を辞退するときは、担当者に直接会って、感謝を伝えるべきだという趣旨の記事だ。

 公開直後から大きな話題となり、インターネット上では反発の声が相次いだ。昨年、就職活動を終えた新社会人たちからも「そんなことをする必要があるのか」という疑問の声が上がっている。

◆内定を辞退するときは企業に足を運び、感謝を伝える?

 記事では、学習院大学が4月に学生向けに開いた「内定獲得後のマナーセミナー」の内容を紹介している。同大キャリアセンターの担当事務長によると、内定を辞退する場合は、「メールの送りっぱなしや電話で完結してはダメ。必ずその企業に足を運ぶことが重要」だという。人事の担当者に連絡を取って、直接会うべきだというのだ。

 そして担当者と実際に会ったときは「内定をくれたことへの感謝を、いの一番に伝えること」としている。キャリアセンター担当事務長の発言を紹介した後、企業報道部の鈴木洋介記者は、記事をこう締めくくっている。

「就活はよく結婚に例えられる。内定がプロポーズなら、内定の承諾は婚約を交わすようなものだ。いわば婚約者に対し、間違っても『黙ってフェードアウト』『卒業ギリギリに断る』といった不誠実な対応はすべきでない」

◆「インターンで半年くらいお世話になっていたならともかく……」

 昨年まで就職活動をしていた新社会人たちは、この“珍マナー”をどう見ているのか。マスコミで働く男性は、この記事を読んで「馬鹿だなと思いました」と話す。

「僕も就職活動中に内定を辞退したことがありますが、電話で済ませました。きちんと丁寧に対応すれば電話でも構わないのではないでしょうか。例えばインターンで半年もお世話になっていたならともかく、面接で3回会っただけの担当者にわざわざ会いにいくでしょうか。企業も不採用の場合にはメールで済ませていますし、学生だけなぜわざわざ会いに行かなければならないのでしょう」

 企業は、就活中の学生が不採用になった場合、メールだけで連絡することが多い。いわゆる「お祈りメール」だ。中には、通過者だけに連絡し、不採用の学生には連絡をしない企業すらある。お祈りメールすら来ないため「サイレントお祈り」と呼ばれている。それにもかかわらず、なぜ学生だけはわざわざ足を運ばなければならないのかと疑問に思うのも無理はない。

◆「直接企業を訪問した学生の話は聞いたことがない」

 同じくマスコミで働く新社会人の女性も「内定を辞退するために、企業を直接訪れた人の話は聞いたことがない」と話す。

「私は今勤めている会社とは別の会社から内定を貰っていましたが、メールで辞退の連絡をしました。友人もメールや電話で辞退しており、直接企業に訪問したという話は聞いたことがありません。今は売り手市場で、複数の内定を持っている学生も多くいます。全ての企業を訪問するのは面倒くさいですよね。

 それにインターンをしていた企業や小規模の企業で担当者と距離が近いならまだしも、大企業の人事担当者にわざわざ連絡を入れて訪問するでしょうか。担当の方にとってもかえって迷惑なのではないでしょうか」

 インターンやアルバイトでお世話になっていたならともかく……と感じる学生は多い。社員との関係が深くなく、書類選考と面接だけで内定を貰ったという場合、わざわざ担当者に会いに行く必要はないだろう。

◆訪問して内定辞退し、ハラスメントを受けた学生も

 メーカーで働く女性も、このマナーには反対だという。

「直接訪問すべきだという意見には反対です。学生の立場からすると、行きづらいというのが正直なところです。企業の中には、選考を通過できなかった場合、何の連絡もしてくれない『サイレントお祈り』の企業もあります。そうした企業に対して、どうして律儀に接しないといけないのでしょうか。

 友だちの中には、大手の保険会社からの内定を辞退するとき、直接来るように言われて出向いたという人がいました。すると個室で学生1人に対して、社員3人で『うちにした方がいい』と圧迫されたといいます」

 人材系の企業で働く女性も「直接訪問する必要はないと思う。交通費も掛かるし、合理的ではない」と話していた。

 経営者や人事担当者の立場からも、疑問の声が出ている。残業の削減に成功したことで知られるシステム開発会社・アクシアの米村歩代表取締役も、「直接会うのが礼儀ではないですよね。むしろ余計な時間とられて困ります。辞退するなら早めに伝えてもらうのが企業としても助かるはずなので、できるだけ早くメールや電話で伝えるのが良いと思います」とツイートしていた。

 学生にとっても、人事担当者にとっても迷惑な“謎マナー”。記者がなぜこのような記事を書こうと思ったのか、人材系の女性は「意図がよく分からない」と首を傾げていた。

<取材・文/HBO取材班>

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