私達を縛る「呪いの言葉」に抗い、声を上げ、前に進んだ先にあるもの<上西充子氏>

私達を縛る「呪いの言葉」に抗い、声を上げ、前に進んだ先にあるもの<上西充子氏>

上西充子教授

◆「呪いの言葉」に囚われた日本人

「今の社会、日本人って、“声を上げる”ってことが教えられていないんじゃないかなと思います。子供のいじめや虐待の問題もそうだし、あと男女の関係でもデートDVとかね、束縛されていてもそれに従わないと怖いみたいな状況になってたり、バイト先だってそうだし、パワハラがあるし就活セクハラがあるし、入社してからもまたハラスメントがあるしみたいなね。ものが言えない状況の中で、それを我慢しなきゃいけないんだ、なんか言ったら余計叩かれるんだ、そんな認識がずっと続いていて、それを変えていく言葉が足りないんじゃないかって思うんです」

 そう語るのは、新著『呪いの言葉の解きかた』(晶文社)が発売されたばかりの法政大学キャリアデザイン学部教授の上西充子先生だ。

 本サイトでもおなじみの上西氏は、政府の不誠実な答弁などを詳らかにする「国会パブリックビューイング」などの活動や、流行語大賞トップ10にもなった「ご飯論法」という言葉をブロガー・漫画評論家の紙屋高雪氏とともに生み出すなど、一貫して「言葉」と向かい合ってきた。

 そんな彼女が、「呪いの言葉」の解き方についてSNSを通じて考え、そして集め始めたのは、さまざまな活動を通じて、私たちが知らずに固定化された「思考の枠組み」に拘束されていることに気づいたのがきっかけだったという。

◆ジェンダーの話は男性にも関わる話

「例えばジェンダーに関する話となると、“女性の話題”というふうに捉えられがちです。でも、この本で取り上げた杉山春氏によるノンフィクション『児童虐待から考える 社会は家族に何を強いてきたか』(朝日新書)に書かれていたネグレクトに関する事例があります。それは、2014年に神奈川県厚木市内のアパートで白骨化した子供の遺体が見つかり、トラック運転手だった父親が逮捕された事件です。杉山氏が取材した、あの事件で逮捕された父親のことを読むと、ジェンダーの呪いに囚われているのは女性だけでないということがよくわかります。

 この父親は妻が出ていき、実家の親にも頼れない中、会社では上位20%に入る優良社員で、残業も月50〜60時間にも及ぶほどでした。

 しかし彼は、社会において『育児を担う責任がある』存在として男性が想定されていないジェンダーの呪いに囚われ、その労働環境から脱落しないために必死に働き、結果として育児を両立できずに悲しい事件につながってしまった。

 だから、ジェンダーの問題も労働問題も、決して『それはそれ』と分断されたり対立するような話ではなく、『無理をしないといけない』という点で、重なっているんです」

 しかし、現代の日本社会は、そうした「呪い」に対して、人々は声を上げるどころか、呪いにかかっている人がまた、別の人を呪いにかけようとする状況にある。

「若いコに顕著なんですが、権利を主張することを『わがまま』とか、『権利ばっかり主張して』と、ネガティブな文脈で刷り込まれている人が少なくない。でもそうじゃないんです。例えばいま女性が総合職で働いたり、お茶くみやコピー取りだけではない形で働けるようになったのも、過去に“女性が総合職なんてもってのほか、お茶くみやコピー取りしとけ”みたいな社会にあらがってきた人が連綿といたから勝ち得たことなんですね。

 でも、今は声をあげた人がバッシングされたりするのを見ていると、やはり声をあげることに対しての緊張や葛藤が先んじて、それが呪いとなって思考を束縛してしまう。でも、その葛藤や緊張を乗り越えて、声を上げれば状況がよくなることもあるんだよって。

 ものを言ったらもう何かハブられるみたいな、そういう未来像しか見えなかったのを、そうじゃない未来像があるんだっていう、そういう部分を見せたいなと思ったんです」

◆「団結」や「連帯」が否定されてきた

 声を上げると叩かれる、周囲から浮いてしまい孤独になってしまう。「個人」という価値観が尊重されてきた一方で、「団結」や「連帯」ということにネガティブなイメージが植え付けられてきた背景もある。

「集団圧力に従わなくちゃいけないということに対して、『私は私』、『個人として』、『生きる個人』として発言するっていうのは私にとっても馴染みがあることです。リベラルってやっぱり『個人』の尊重っていう考えがあるんで。だから、私も含めて『団結する』っていうとあまりイメージがわかないんですよね。だから、例えば『日本社会で生きづらい』とか、『会社がブラック企業で』とかいうときに、『アメリカ行けばいい』とか『起業すればいい』『辞めればいい』とか、そういう『個人の対処法』だけが表にでてきがちですよね。

 その背景には、個人が数の力をつけて権力の側に対して正当性を主張するというやり方が政策的に抑え込まれてきたというのがあるんです。

 働き方改革関連法案によって高度プロフェッショナル制度を導入しようというときも、『選択肢』とか『希望する人が』とか『自律的に』みたいな美辞麗句で粉飾されて、その一方でそれに抗う声については『あいつらは団結して既得権益守っている』みたいな印象操作がなされてきた。でも、そうやって『あいつらは〜』って批判するのって結局経営者の視点なんですよね。そういう視点で『公務員ズルしているよね』とか批判するのは、結局、経営者ではない自分たちの条件を崩していくことになるんですね」

◆声をあげた人を支える人もいる

「強い個人が声をあげるだけではなく、それだけでなくやっぱり声を上げる人を支える人もいるんだっていうのがすごく重要なんです。私も人脈がなかったら、関係性がなかったら一人で声とか上げられないですよ。

 だからやっぱり『支え合う』ってことは大切なんだと思います。そして支え合うとか連帯するとか言っても、必ずしも一緒に先頭に立って戦う必要はないわけで。例えばおにぎりや柿の種をくれる人がいたり、SNSのハッシュタグでつながるくらいでもいいわけで。

 その意味では、私はこの本はTwitterから生まれた本だと思ってて。Twitterでなにか書くと反応があるとかいうことって、やっぱり力になるんですよね。そういう肯定的なフィードバックがあって、それが力になってまたもう一歩進めるみたいな。

 自分がそれを貰った側からすると、そういうのを積極的に人にフィードバックしていくということが、その人の力になるってわかったら行動できるようになるじゃないですか。

 それがわかんないと、頑張ってる人を見ても『すごいな、私はそんなふうになれない』って遠ざけてみるようになっちゃう。さらに、声を上げた人がバッシングに遭ってるのとかをみると、”バッシングの酷さと、それと戦う人”みたいなところに焦点があてられちゃう。でも、声を上げる人の横に、それを支える人がいるってことをちゃんと見えるようにすることも大事だと思うんですよね」

◆声を出した先にあるもの

 もちろん、声を出したところで、「何も変わらない」とさらに呪いをかけるひともいるかもしれない。そしてときにそれは残酷なまでにその通りなのかもしれない。

しかし、上西氏は「それでも得られるものがある」という。

「声をあげることは怖い。でも怖いと思うからこそ、声の上げ方を考えて、その上で声をあげればいいと思うんです。

 自分が不当な圧力を受けているとしたら、それを押し込めないで、そういう状況にあることを見せたほうがむしろ安全なこともある。例えば、私が『Yahoo!ニュース個人』に投稿した記事について橋本岳議員がFacebookで『噴飯もの』と嘲笑したり、威圧的な恫喝を行ったことに抗議して記者会見を開いたことがありました。あの会見をやるときも会見をやって叩かれるかと思ったらそうならなかった。

 もしあれを放っておいたら、橋本岳議員の投稿が『指令』となって、いろいろな人から叩かれたかもしれない。でも早い段階で、『黙れ』と主張したことが逆に良かったんじゃないかと思っています」

◆交渉できる主体であること

「声を上げるのは自分の目先の損得で考えると損なんですよ。でもその反面でとても大切な意味がある。それは、自分を抑えて言いたいことも言わないでいると決して見えてこない。

 言いたいことが言えること。そのことが自分にとっていかに価値があることなのかが、見えてないだけだと思うんです。

『自分は悪くなかったんだ、向こうが悪いんだ』というふうにその場の中で、『私は悪くない』と言えること。あるいは、なにか不満に思ったことに対して、交渉を提案して、『自分が交渉できる主体なんだ』と思えるようになること。生きていく中で、すごく大切なことだと思うんです」

 上西氏は、『呪いの言葉の解きかた』で、「呪いの言葉」の正体を解説し、それらを投げかけられたときの効果的な返答をリストアップした。それと同時に、人々に力を与える、エンパワーメントの効果を持つ言葉を「灯火の言葉」、さらに自分の中から湧き上がって自分を支えるような言葉を「湧き水の言葉」として紹介している。

「言葉は呪いにもなるし、分断を生み出すこともある。でも相手を認め、その人の『今』を評価する言葉を、届けることによって人を動かすこともできる。そんな言葉が『灯火の言葉』だと思っています」

 国会PVや参考人招致で多忙な中、上西氏の活動が1年の時を経て一冊の本となった『呪いの言葉の解きかた』。周りで飛び交う「呪いの言葉」に抗うための第一歩を示唆してくれるこの本は、多くの人々にとって「灯火」となるに違いない。

<文/上西充子 Twitter ID:@mu0283>

うえにしみつこ●法政大学キャリアデザイン学部教授。共著に『就職活動から一人前の組織人まで』(同友館)、『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社)など。働き方改革関連法案について活発な発言を行い、「国会パブリックビューイング」代表として、国会審議を可視化する活動を行っている。『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』の解説、脚注を執筆。新刊『呪いの言葉の解きかた』(晶文社)は必見の書

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