毒親アートフェス、虐待サバイバー写真展……。当事者たちによる取り組みの最前線

毒親アートフェス、虐待サバイバー写真展……。当事者たちによる取り組みの最前線

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◆大人になってからも続く虐待の苦しみ

 親から虐待されても、必死で生き延びて大人になった人は、「虐待サバイバー」と呼ばれている。子どもを虐待する親は、子どもが大人になっても支配的な関係を強いるので、いつまでも親に苦しめられている虐待サバイバーは少なくない。虐待の苦しみは、大人になってからも続くのだ。

 そのように、虐待の被害をリアルタイムに感じている当事者である虐待サバイバーは、政治家やマスコミが、さんざん虐待された後の保護や社会的養護を「虐待防止策」だと当たり前に語ることに違和感を覚えている。被害当事者にとっての虐待防止策とは、そもそも親から虐待されない社会の仕組みを作ることだ。社会の仕組みを作るには、虐待サバイバーの仲間と出会い、自分たち自身がほしい支援や法改正を社会に広くアピールすることが必要になる。

 だから、虐待サバイバーによる防止アクションでは、主に以下の3点が大事にされている。

(1)虐待されてきた当事者が、虐待と被害を自覚するチャンスを作り出すこと

(2)被害の苦しみから生き延びてきた履歴に価値があることを知らしめること

(3)自分の価値に気づいた当事者が、その後の人生に希望を感じられること

 実際にどんなアクションが始まっているのか。4つほど紹介しよう。

◆毒親について詠む短歌の会

 自身も虐待サバイバーでありながら、わが子への虐待を反省した兵庫県在住の野添まゆ子さんは、今年から「毒親短歌お茶会」を主催している。このお茶会では、「毒親」を描いた短歌を披露しながら、カジュアルに子ども虐待を語り合える。

 第2回は、6月22日(土)午前10時から風見鶏本舗の北野坂支店(兵庫県神戸市)で開催される。費用は自分の飲物代と資料のコピー代(20円程度)だけ。参加希望者は、野添さんのtwitterアカウントまで事前予約を。

 少人数で虐待サバイバーの当事者たちが集まるお茶会は、ここ数年で東京・大阪・岡山・福岡・広島など全国各地に増えており、虐待サバイバー自身がネットで呼びかけながら定期的に開催されつつある。「自分も親に虐待されてきたように思うけど、自信がない」と感じている人にとって、自助グループやカウンセリングに足を運ぶより気軽に参加できるのが魅力だ。

◆自分を虐待した親への手紙を朗読する

 また、こうしたお茶会と同様に、虐待サバイバー100人が書いた唯一の本『日本一醜い親への手紙そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO刊)の朗読会を主催する人も増えてきた。そのため、自分の被虐待の体験を「親への手紙」のスタイルで書き下ろし、同書の中からも数編を選んで人前で朗読する人を公募し、「親への手紙★公認朗読者」(以下、公認朗読者)として認定、虐待防止の関連イベントに派遣するプロジェクトも始まっている。

 それが、筆者の手がける「子ども虐待防止の朗読会を、あなたの街で」だ。このプロジェクトでは、各都道府県に2、3名の「公認朗読者」を認定し、最終的に全国で100人の虐待サバイバーが地元の虐待防止イベントの開催団体から出演を依頼されるようにする。サイトを通じての仲介マージンはなく、「公認朗読者」は最低謝礼額と交通費・宿泊費の必要・不要を自己申告でサイトに掲示できる。

 虐待された過去は、「負の遺産」かもしれない。だが、深刻な親子関係を生き延びるために学んできた知恵や知識は、今まさに虐待家庭から避難したい人や虐待防止策を学びたい人にとって、お金を出しても知りたい価値あるものだ。研究者や専門家が気づかず、虐待されてきた人にしかわからないこうした価値を、筆者は「当事者固有の価値」と呼んでいる。

◆虐待被害者が作ったアート作品を公募

 そして、この「当事者固有の価値」は、アートでも広く伝えられる。

 昨年、webデザイナーの浅色ミドリさんは、当事者として「毒親アートフェス」という展示会を名古屋の画廊で企画・開催した。

 これは、「虐待サバイバーのための、一歩を踏み出すアートの公募展」。虐待の被害者や毒親に苦しんでいる人などからさまざまなアート作品を募集し、展示する。今年は愛知芸術文化センター(愛知県名古屋市)で10月8〜14日に開催が予定されており、プロ・アマチュア問わず作品が9月15日まで募集されている。

「このアートフェスは、自発的に絵を書いて送ることをこの企画の成功と考えています。うまいとか下手だとかを気にする必要はありません。特別な技術や知識を必要としません」(浅色さん)

 参加費は1テーマにつき500円(※17歳以下は無料)で安く、「医師からアートセラピーの効果も期待できるとご意見いただきました」という。なお、昨年の作品を展示したい団体からの依頼や、今年の展示運営への寄付も受け付けている。

◆サバイバーを被写体にした写真展

 東京では、虐待によるトラウマで闘病中の田中ハルさんが、「虐待サバイバー写真展」をweb上で展開している。

 1年ほど前から虐待サバイバーを被写体として公募し、これまでに15人を撮影してきた。今年はこれらの写真をプリントした写真展を11月頃に開催するため、開催コストを調達する寄付を1000円単位で募っている。

 虐待サバイバーが自分の顔や名前、自筆による文章を公表することは、極めて珍しい。これは、田中さんが被写体との信頼関係を慎重に築いて成し遂げた偉業だ。田中さん自身が虐待サバイバーの当事者だったからこそ、プロのカメラマンでも至難の業である撮影がまっとうできたのだ。

 虐待されても必死に生き延びてきた15人が、顔をさらし、見る者に手を差し出している姿は、虐待の苦しみと日々戦っている多くの被虐待者に「自分が選べる未来」としての希望を感じさせる。そこで田中さんは、写真集として刊行したい出版社も公募している。

 だが、昨今の出版不況を考えると、無名のカメラマンと被写体による写真集の商品化はかなり難しい。そこで、せめて初版時の出版コストだけを負担してくれるスポンサー企業も公募中だ。

 苦しむだけではない人生を見たい虐待サバイバーは、日本全国、いや、世界中に無数にいる。虐待サバイバーには、精神的な困難や病気を抱えながら、不況による失業や離婚、家族や友人などからの孤立、自殺を迫られている人も少なくない。彼らが図書館や学校で「虐待サバイバー」の写真集を手に取るとき、「自分だって生きてていい存在なんだ」と腹の底から感じてくれるだろう。企業経営者のみなさま。一緒に希望を作りませんか?

<文/今一生>

フリーライター&書籍編集者。

1997年、『日本一醜い親への手紙』3部作をCreate Media名義で企画・編集し、「アダルトチルドレン」ブームを牽引。1999年、被虐待児童とDV妻が経済的かつ合法的に自立できる本『完全家出マニュアル』を発表。そこで造語した「プチ家出」は流行語に。

その後、社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャルビジネスの取材を続け、2007年に東京大学で自主ゼミの講師に招かれる。2011年3月11日以後は、日本財団など全国各地でソーシャルデザインに関する講演を精力的に行う。

著書に、『よのなかを変える技術14歳からのソーシャルデザイン入門』(河出書房新社)など多数。最新刊は、『日本一醜い親への手紙そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO)。blog:今一生のブログ

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