働かない息子夫婦一家を一人で支えていた老人。煽られる世代間対立で語られぬ高齢者たち

働かない息子夫婦一家を一人で支えていた老人。煽られる世代間対立で語られぬ高齢者たち

債務者は、無職の中年夫婦。それを支えていたのは父親である高齢者だった

◆不動産執行人は見た<33>

 高齢者の運転トラブル、逆走、自動車死傷事故といった事例が相次いで報告され、批判の矛先となっている。

 この批判を「高齢者いじめ」として10〜20代が引き起こす自動車事故の方が多いというデータを引き合いに出すものもいるが、経験不足を主原因とする若者の事故と機能低下を主原因とする高齢者の事故を同列に処理すべきではないのだろう。

 これら高齢者の運転トラブルに気をもみ「高齢者から運転免許を剥奪せよ」と旗を振る気持ちもわからないではないが、少し冷静に立ち止まり、その掲げられた旗の裏側をペラリと捲ってみることも必要なのではないだろうか。

 そこには“安心・安全と引き換えに失うもの”、“理不尽な自動車事故防止までのシンプルではない道のり”といった目を背けがちな情報が記されているのではないだろうか――。

◆働かない息子夫婦を支えていた債務者

 首都圏ではありながらも一家の大黒柱が長年県内をターゲットとしてきた自営業のため、駅からははるか遠い住宅街。築25年ほど、日当たりの悪さが少々気にかかる建売住宅が本日の当該物件。

 何かがぶつかり歪んだまま放置される柵をギシギシと押し開き、玄関の呼び鈴を押す。

 応対してくれたのは一家の大黒柱である債務者。はつらつとはしているが、見るからに後期高齢者だ。

 室内を債務者が案内してくれるのだが、そこには中学生くらいの男の子がついて回る。相当なおじいちゃん子なのか終始心配そうな表情を浮かべている。

 この家に住むのは債務者とおじいちゃん子な孫、そしてその孫の両親である債務者息子夫婦という4人。

 室内はどこも雑然と片付けが行き届いていない状況だが、債務者息子夫婦の住む部屋のみ、状況が異なっていた。この一室のみがゴミ屋敷化しており、そこで平然と40代なかばといった債務者息子夫婦は暮らしている。

「この後どうなんの?ホント最悪」

「これって、生活保護で有利になんないの?」

 矢継ぎ早に自分たちの主張だけを押し付けられることには慣れているため、この後の流れを執行官が丁寧に説明し、生活保護申請については管轄が違うためわからないという点を告げると、債務者息子夫婦は興味を失ったのかテレビを付け始めた。

 おじいちゃん子な孫の部屋は、“この家唯一の救い”と思えるほどに整頓されており、ヒーロー物フィギュアやポスターが飾られていた。

 庭の調査のため外に出ると、債務者がボソッとこぼす。

「あれ見たでしょう。息子夫婦。アイツら意地でも働かないって言うんですよ。私もね、こんな年まで働いて子育てしてローン返さなきゃいけないなんて思っても見なかった」

◆不動産執行人業界にも高齢化の波が

 今回紹介した一例はもちろん一例に過ぎないのだが、決して“極端な一例”ではない。

 良くある事例の一つで、今なお大黒柱として現役の子育てを強いられている高齢者の存在は、多くの人が思い描く以上に多い。

 不動産執行に携わる執行人たちを見ても同じだ。

 閉じゆく業界であるため、若い人はおらず、高齢者がお互いをフォローし合いながらなんとか現場をつないでいる。

 それでも仕事の予定を失念、伝達ミス、報告書が上がって来ない、上がってきた報告書の内容がチグハグという事例の続発は否めない。昨年度も認知症で一人の執行人が職を離れた。

 現在も疑わしい人が数人いるため、バックアップ体制が敷かれている。

 それでも高齢者が中心となって業界自体の“終活”を遂行しなければならないのだ――。

◆高齢者といっても多種多様

 高齢者と言えども千差万別、機能低下の否めないものもいれば、今回のような現役で一家を担うもの、さらには今なお現役でバリバリと働き、若い世代にバトンを渡す気などさらさらなく、購買意欲も旺盛、旅行や趣味にも金を惜しまず、ブランド志向でおまけに性欲まで旺盛という高齢者。

 このように多種多様な高齢者を一括りに考え、運転免許証を横並びに剥奪という考え方はどうだろう。

 差し押さえ・不動産執行の現場で高齢者たちの元気さや働きっぷりを目の当たりにする限り、その考え方は回復困難な経済的窮地を誘発しているようにしか見えない。

 超高齢化社会を迎え、自動車関連産業を基幹産業とするここ日本ではなおのことだ。

 理不尽な自動車事故に心を痛め、撲滅に向けた極論に走りがちなこともよく分かる。このようなタイミングにあるからこそ冷静で広い視野を心がけるべきなのではないだろうか。

◆本当に高齢者は敵であり社会悪なのだろうか

 自動車事故撲滅に関し「自動運転技術の開発を急ぐべき」との言葉も耳にする。差し押さえ・不動産執行では様々な街の路地裏に佇む民家を眺める。

 最大勾配30%はあろうかという片側が崖の狭い坂道、さらに対向車の待受、おまけに坂の中腹に建ち並ぶ自宅、それもミラーを折りたたんで壁まで2〜3センチといった車庫入れ。

 他にも交通量の多い県道の流れをせき止めてから縦列駐車のような車庫入れ、狭い道路で切り返し、急勾配を20メートルほどバックしての車庫入れ。

 そうでなくても車庫証明を不正取得しているのか、道路にはみ出しての車庫入れ、2台の駐車スペースに4台といったテトリスのような車庫入れ、ガードレールや電柱をどのように掻い潜ったのか全くわからない知恵の輪のような車庫入れ。

 これら日本特有のカスタムオーダーに自動運転技術が早期に応じられるようになるというのは、夢物語にも思える。

 実際に自動駐車機能や駐車アシスト機能を使い、運転判断を任せた結果、車の屋根がガリガリと削られたという愚痴を執行中に聞かされたこともある。

 事故の鍵、その大部分を握るのは、やはりハンドルを握るものと同じだ。自動運転だろうが人による運転だろうが、ドライバーが肝になる。

 万引き犯を事前に割り出すAI監視カメラのような技術でドライバーを監視し、事故の防止や警告、危険ドライバーの割り出しや免許取消などに役立てるほうがよっぽど現実的なのではないだろうか。

◆煽られる世代間対立。分断は何を生むのか?

 日々報じられる高齢者による危険運転や痛ましい自動車死傷事故。これと重なり不安を煽っているのが超高齢化社会・少子高齢化社会なのだろう。

 メディアによる報じ方、取り上げ方にも問題はあると思うが、本当に高齢者は敵であり社会悪なのだろうか。

 どのみち共に生きていくより他ないのであれば、事故や社会への負担減を考えつつも、彼らに気持ちよく自活してもらうことが望ましい折衝案なのではないだろうか。

<文/ニポポ(from トンガリキッズ)>

2005年、トンガリキッズのメンバーとしてスーパーマリオブラザーズ楽曲をフィーチャーした「B-dash!」のスマッシュヒットで40万枚以上のセールスとプラチナディスクを受賞。また、北朝鮮やカルト教団施設などの潜入ルポ、昭和グッズ、珍品コレクションを披露するイベント、週刊誌やWeb媒体での執筆活動、動画配信でも精力的に活動中。

Twitter:@tongarikids

オフィシャルブログ:団塊ジュニアランド!

動画サイト:超ニポポの怪しい動画ワールド!

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