登戸の刺殺事件、「犯人は精神障害者」「無敵の人」に根拠なし。憶測に囚われた情報に注意を。

【川崎で連続殺傷事件】"犯人は無敵の人"との言説にも根拠なく憶測に囚われた情報注意

記事まとめ

  • 川崎市で小学生16人を含む18人が刺され、小学6年生の女児と男性が死亡した
  • Twitter上には男を巡る憶測が飛び交っているが、デマには気をつけるべきという
  • 「精神障害者に違いない」との憶測も飛んでいるが、精神障害者の犯罪率は低い

登戸の刺殺事件、「犯人は精神障害者」「無敵の人」に根拠なし。憶測に囚われた情報に注意を。

登戸の刺殺事件、「犯人は精神障害者」「無敵の人」に根拠なし。憶測に囚われた情報に注意を。

Photo by soshi itagaki

◆犯人は精神障害?デマの拡散が始まった

 5月28日午前7時41分頃、神奈川県川崎市多摩区登戸にて小学生16人を含む18人が包丁で刺されるという悲惨な事件が起きた。現場はJRと小田急が通る登戸駅の西側に広がる住宅地の中。小学6年生の女児と男性(39)が死亡した。

 事件を起こした男は、18人を殺傷したあと10メートルほど逃げ、自身の首を包丁で切りつけ、死亡した。そのため、事件の全貌は分からなくなった。

 ここで気を付けるべきなのは、デマだ。現在、Twitter上には「犯人は精神障害者に違いない。だから犯罪を犯したのだ」といった憶測が飛び交っている。

 まだ因果関係がハッキリとしていない段階において、このような情報が拡散されると「精神障害者はみんな危険な存在である」という差別や偏見が助長されかねない。

◆精神障害者の犯罪率は低い

 上記の表は、法務省が毎年発行している「犯罪白書」から引用した。表の下に記載の注)2の通り、「精神障害の疑いのある者」というのは、警察官が措置入院の対象と判断して都道府県へ通報した人で、精神障害者ではない人を指す。

 検挙された総数の中で「精神障害者」と「疑いのある者」を含めた精神障害者等の比率は1.8%と非常に少なく、精神障害者に限定すれば1.1%である。罪名別でみれば放火や殺人の比率は高いが、精神障害者以外の人の方が比率が大きい。

 上記のことから、精神障害者と犯罪を結びつけることは難しいのではないだろうか。いずれにしても今現在の時点で、正式な報道が行われていない中、根拠に乏しい情報を拡げるのは控えるべきだ。

◆メディアも気を付けなくてはいけない。ファクトチェックに忠誠を

 このような状況において、気を付けなくてはいけないのは我々メディアだ。メディアには、ファクトチェックを忠実に行うことが求められる。特に精神障害者と報道の関係性は慎重に築き上げなければならない。

 2018年6月9日夜に走行中の東海道新幹線車内にて、男女3人が刃物で襲われ、男性1人が死亡する事件が起きた。この事件に対し、毎日新聞(ウェブ版)は「容疑者自閉症? 『旅に出る』と1月自宅出る」と見出しをつけ、記事を配信した。

 本文では、「小島容疑者は自閉症と診断され、昨年2〜3月には岡崎市内の病院に入院していた」「伯父方では2階の部屋に引きこもってパソコンを触っていた」ことなどを伝えていた。

 この記事の見出しには、「自閉症と社会不適応・犯罪を結びつける」「自閉症=危険という印象を与えかねない報道」といった批判が相次ぎ、一方では「単に犯人の『特徴』を挙げただけで過剰反応では」との声も寄せられ物議を醸していた。

 これを受けて毎日新聞は、見出しの「容疑者は自閉症?」の文言と本文中の自閉症と診断され入院していたという部分を削除。同月11日には、Twitterで「新幹線殺傷の事件で、発達障害について不適切な記載をしていました。ツイートを削除しておわびします」と謝罪をした。

 このように、精神障害や発達障害は、犯罪と深い関連性があるという誤ったイメージが報道によって作り上げられる危険がある。

 2001年に起きた「大阪教育大学付属池田小学校事件」においても、報道の内容と各メディアの報道傾向が問題視された。実行犯が、精神科に通院していたこと、以前にも事件を複数回起こしていたこと、またその事件が心神耗弱状態を理由に不起訴処分になっていること等が報道され、各メディアは精神障害者が起こした事件として報道を行った。このような報道が相次いでなされると「精神障害者だから重大事件を引き起こす」ということを読者や視聴者に印象付けることになる。

◆広がる「犯人は無敵の人」にも根拠なし

 「犯人は精神障害者なのでは」というデマに加え、現在Twitter上では、「犯人は無敵の人だ」といった言説が溢れている。2019年5月28日20時13分時点で、Twitterのトレンドにランクインしているほどだ。

 しかし本稿執筆時点の5月28日22時の段階で、容疑者の素性は何も公開されておらず、この言説の根拠は乏しい。

 無敵の人とは、主にインターネットで使われる言葉で、お金も社会的信用もなく、犯罪を犯して逮捕されても失うものがない人のことを指す。

2chの創始者ひろゆき氏が2008年6月30日のブログで書いたのが始まりだ。

 無敵の人とは、社会的弱者とも捉えることができ、何も容疑者の情報が公開されていない中、犯罪行為を犯す人と無敵の人の定義に当てはまる人を短絡的に結びつけてはならない。該当する人への偏見の助長となり兼ねる危険な行為だ。

 まだ何も情報が公開されていない状況だからこそ、「どうせ精神障害者だ。精神疾患だ。無敵の人だ」と決めつけ、憶測で作った情報を発信することは控えるべきである。

<取材・文/板垣聡旨>

学生時代から取材活動を行い、ライター歴は5年目に突入。新卒1年目でフリーランスのライターをしている24歳。ミレニアル世代の社会問題に興味を持ち、新興メディアからオールドメディアといった幅広い媒体に、記事の寄稿・取材協力を行っている。

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