子どもが集めたものを勝手に捨てる、お年玉を取り上げる……厚労省が認めない「経済的虐待」の実態

子どもが集めたものを勝手に捨てる、お年玉を取り上げる……厚労省が認めない「経済的虐待」の実態

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 厚生労働省は、児童虐待を「身体的虐待」「性的虐待」「ネグレクト」「心理的虐待」の4種類に分類している。しかし実際には、子どもの持ち物を勝手に処分する、アルバイト代を勝手に使い込むといった「経済的虐待」も起きている。

◆高齢者虐待や障がい者虐待では認められている「経済的虐待」

 厚労省は4種類の虐待を、それぞれ次のように定義している。

・身体的虐待:殴る、蹴る、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などより一室に拘束する など

・性的虐待:子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にする など

・ネグレクト:家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない など

・心理的虐待:言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(ドメスティック・バイオレンス:DV) など

 しかし、現実の虐待は、以上の4つに収まらない。

 たとえば、高齢者虐待や障がい者虐待では認められているのに、子ども虐待にだけは認められていない虐待の種類がある。それは、経済的虐待だ。

・高齢者虐待における経済的虐待(厚労省の資料より):養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること

・障がい者虐待における経済的虐待(厚労省の資料より):本人の同意なしに(あるいはだます等して)財産や年金、賃金を使ったり勝手に運用し、本人が希望する金銭の使用を理由なく制限すること。

【具体的な例】

・年金や賃金を渡さない

・本人の同意なしに財産や預貯金を処分、運用する

・日常生活に必要な金銭を渡さない、使わせない

・本人の同意なしに年金等を管理して渡さない

◆子どもが集めた小説やレコードを勝手に処分するのも虐待

 このように自分の持ち物や貯金を身内に勝手に処分される虐待は、昔から親から子どもに対しても一方的に行われてきた。

 作家の今東光(1898年−1977年)は文学を志した少年時代に、こつこつためた金で買った小説の本を母親に火鉢にくべられ、全部燃やされてしまった。1980年代に活躍したミュージシャンには、「高校時代にアナログ盤のレコードを買い集めていたら、目の前で父親に1枚、また1枚とバキバキに折られてしまった」と証言する人もいた。音楽好きなら、レコードが割られる痛みにわなわなと震えるだろう。

 昔と違って現代は、子ども自身に相当の収入があるため、経済的虐待の被害状況の広がりは計りしれない。実際、1970年代と約50年後の現代を比べると、中高生のおこづかい額は2倍に増えている。中学生なら毎月1000円台から3000円弱へ、高校生なら3000円弱から6000円程度まで増え続けてきた。親や祖父母が子どもだった時代と比べて、少子化の現代では子どもは2倍のおこづかいを得ていることになる。

 さらにお年玉の額になると、万単位になる。バンダイは、小学1年生から中学3年生の子どもを持つ親(子どもと一緒に回答できる方)900人を対象に、2018年1月5日〜1月8日の期間、「小中学生のお年玉に関する意識調査」を実施した。その調査結果によると、小中学生のお年玉平均額は 24,424 円(小学生 21,382円、中学生 30,507円)。もらったお年玉の平均封数は、平均5.0封。約9割が祖父母からもらっていた。

 お年玉の使い道の総合1位は2年連続で「貯金」だったが、「全額」を自由に使える子どもは全体の35.2%。約8人に1人が自由に使える金額を「0円」と回答したという。

◆高校生のアルバイト代を父親がパチンコに使ってしまうケースも

 高校生にもなれば、アルバイトで収入を得ることもできる。スマートフォンアンケートアプリ「TesTee」を運営するテスティー(東京都中央区)は2017年3月6日〜7日、TesTeeユーザーの中学生および高校生446人を対象に「中高生のお小遣い事情」を調査した(リセマム2017年3月14日付より)。

 その調査結果によると、お小遣いをもらっていたのは中高生の53.1%で、そのおよそ3割はお小遣いを「貯金」していた。高校生を対象にしたアルバイトに関する調査では、「現在アルバイトをしている」のは19.2%で、アルバイトによる月の収入は「20,000円未満」が34.5%、「20,000〜30,000円未満」が31.0%だった。

 こうしたおこづかいやアルバイト代を辛抱強くこつこつ貯めて、やっとの思いで念願の商品を買っても、不在時に親に壊されたり、大事なお金を親が勝手に使ってしまうことは、珍しいことではない。

 親戚からもらったお年玉を、親に「預かっておく」と言われて渡したら、後年「そんな話はしていない」とか、「生活費に使ったからいいでしょ」と言われて失ったケースは珍しくない。

「半年働いたバイト代を自分の部屋の貯金箱に入れておいたら、知らない間に父親に貯金箱を壊され、全額パチンコ代に使われてしまった」という女子高生から、筆者は相談メールをもらったことがある。その子の悲しみを思うと、大人として無力感を覚える。経済的虐待の実例については、筆者が東洋経済オンラインに書いた「子どものカネを収奪する『経済的虐待』の真実」も読んでみてほしい。

 大人が「陳腐」「幼い」「勉強のジャマ」「安物」と思い込んでいる品物でも、その子どもにとっては自分の進路に希望を感じさせるアイテムだったり、親や教師などの大人にわかってもらない気持ちをわかってくれる作品だったり、日々の勉強や人間関係に追いつめられてすさんでしまった気持ちを癒し、ほぐしてくれる玩具かもしれない。

 子どもが大事にしているものは、どんなに安い値段のものであろうと、収入源が乏しい子にとっては大富豪でも買えない高価な貴重品であり、絶対無比の希少品だ。

 だから、大人の視線で一方的に価値を判断したり、市場価値だけで比べたりするのは言語道断だし、本人から大事にしている理由も聞かずに処分してしまえば、子どもの自尊心を想定以上に深く傷つけるおそれがある。

 何を買っても親に壊されたり、何十時間も働いて得たお金を親に奪われるなら、労働意欲や勉強意欲を失ったり、「何をどうがんばってもどうせ無理だ」という学習性無力感にとらわれて、不登校やひきこもり、希死念慮(自殺願望)に導いてしまうこともあるのだ。

◆民法では親権者が「子の財産を管理」と規定

 では、なぜこのような横暴が、親に許されているのか?

 民法の第824条に、こう書かれているからだ。

”第八百二十四条 親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。”

 この法律は、「子どもに資産がない」時代を前提にしている。そのため、改正の余地が高まるばかりだ。高校生でもアルバイトができて、いざとなれば生活費さえ稼げる今日、その賃金を根こそぎ親に奪われることをよしとする根拠法が残っていては、いくら雇用主が子どもに賃金を直接渡しても、親権者に財産管理を口実に搾取されてしまいかねない。

 子ども虐待に経済的虐待が認められない限り、身体的虐待や性的虐待など他の虐待を受けている中高生は、自力で親の元から避難するための交通費などの資金を得にくくなる。そうなれば、家を飛び出す勇気を持てないまま、親からいつまでも虐待され続ける恐れが高まる。あるいは、売春や麻薬密売などの違法行為で避難のための資金を作らざるを得なくなる。

 中高生は、銀行口座を開設したくても、親権者との同伴や許可が求められる。今日の中高生は、親に見つからない口座で自分の貯金を守る権利すら奪われているのだ。せめて厚労省には、経済的虐待を子ども虐待でも認める措置を速やかに検討していただきたい。

<文/今一生>

フリーライター&書籍編集者。

1997年、『日本一醜い親への手紙』3部作をCreate Media名義で企画・編集し、「アダルトチルドレン」ブームを牽引。1999年、被虐待児童とDV妻が経済的かつ合法的に自立できる本『完全家出マニュアル』を発表。そこで造語した「プチ家出」は流行語に。

その後、社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャルビジネスの取材を続け、2007年に東京大学で自主ゼミの講師に招かれる。2011年3月11日以後は、日本財団など全国各地でソーシャルデザインに関する講演を精力的に行う。

著書に、『よのなかを変える技術14歳からのソーシャルデザイン入門』(河出書房新社)など多数。最新刊は、『日本一醜い親への手紙そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO)。blog:今一生のブログ

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