高齢ドライバー問題。免許返納が進まぬ社会的要因

高齢ドライバー問題。免許返納が進まぬ社会的要因

池袋の暴走事故を機に老人の免許返納論議が盛り上がっている(写真/時事通信社)

 高齢ドライバーによる重大事故が相次いで報道されるなか、「ジジババから運転免許証を剥奪しろ!」と叫ぶ声が世にあふれている。だが、当事者たちには、運転免許証を自主返納したくともできない、切実な事情があるようだ。

◆高齢ドライバーへの免許返納論は地方で交通弱者を大量発生させる!?

 経済ジャーナリストの寺尾淳氏は、安易な免許返納の要求は、地方の現状を見落としているという。

「鉄道もバス路線も廃止、タクシーも減っている。それなのに郊外化でスーパー、役場、病院は街の中心部から離れて点在しています。これで免許を取り上げてしまえば、高齢者の生活は成り立ちませんよ」

 ここで言う地方とは、サルやタヌキが出るような田舎に限ったことではない。政令指定都市レベルの規模の街でも、中心部から少し離れれば車は必需品だ。

「だから地方に住んでいる高齢者は、体が弱っても、瞬間的な対応力や判断力が鈍っても、もっと言ってしまえば認知症になっても、生きていくには車を運転し続けるしかないのです」

◆「返納してもいいけど誰が買い物や通院の面倒を見るんだ」

 つまり高齢者は免許を返納したくても返納できない事情があるのだ。大きなジレンマを抱えて悩む高齢者だが、先月、東京・池袋の交通事故が発生してから免許返納圧力は日々強まるばかりだ。名古屋市のベッドタウンに住む70代の男性は家族、友人に会うと決まって「早く免許を返納しては?」と迫られ、辟易しているという。

「返納してもいいけど、誰が買い物や通院の面倒を見るんだ。老人は車を運転しないでほしいという気持ちはわかるけど、現実を見ずに言うのは無責任だよ」

◆免許返納が進まぬ要因には心理的なものも

 さらに寺尾氏は、免許返納が進まない心理的な側面も指摘する。

「現在75歳前後の世代が青春期を過ごした’60年代は高度経済成長の真っ只中。必死に働いて車を購入し、週末ドライブに出かけるのが彼らの夢でした。75歳前後は『車とともに生きてきた第一世代』です。だから車への愛着も強い。免許返納は生きがいを奪われるのに等しいのです」

 交通弱者である高齢ドライバーをヒステリックに責めるだけでは、新たな困窮者を生み出しかねないのである。

※週刊SPA!2019年5月28日号 「社会的弱者を救え!」特集より転載

― 社会的弱者を救え! ―

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