家出は虐待からの自主避難か? 家出で犯罪に巻き込まれるのは2%という事実

家出は虐待からの自主避難か? 家出で犯罪に巻き込まれるのは2%という事実

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◆家出は、安心できる生活拠点探しであり、自立

 家出人に対する差別と偏見が、この国には長らく蔓延している。

「家出するとヤクザにだまされる危険がある」とか、「人身売買に遭う子も多い」など、映画やドラマでしか家出を知らない人たちが、家出にドラマチックな展開を求めているのだ。昨年、朝日新聞は「泊めたら性行為」という刺激的なタイトルで記事を発表したが、家出経験者をどれだけ取材したのだろうか?

 家出は、家より安心できる生活拠点を探し、誰の許可も得ずに引っ越して働きながら暮らす「自立」のことだ。プチ家出は、家族に知らせないまま数日間から数週間だけ家の外にいて、何もなかったように家に帰ってくることを何度もくり返す「漂流」である。

 しかし、新聞やテレビは、自立としての家出については語ろうとせず、プチ家出の危険性ばかりを訴えてきた。それが家出そのものを取材していないうしろめたさによるものかどうかはわからないが、プチ家出であっても、家出の危険性を訴えれば、視聴者や読者に共感してもらえるという担保があってのことだろう。

 思い込みを疑わずに報道するのがジャーナリズムなら、児童福祉に関するジャーナリズムはとうの昔に死んでいるといっていい。

 1990年代末から今日にいたるまで、未成年の頃に家出した経験のある10代から30代までの男女およそ300人を取材したところ、犯罪被害にあったことのある人の割合は、約7%にすぎなかった。しかもそのほとんどは軽犯罪のとばっちりだった。

 夜中の公園で迷惑なほど大きな音を出しているのを聞きつけ、面白がって若者たちが踊るそばに近づいていったら、警察官に事情聴取されるはめになったとか、ホームレスが体や服を洗おうと半裸になったのを見て、自分も同じようにやった頃に警察が来て指導されたなど、世間知らずゆえのトホホなケースが多かった。初めて訪れた知らない土地で、出身地の田舎と同じようにおおらかな習慣を続ければ、家や仕事にありつく前に想定外のトラブルは起こる。しかし、それらのトラブルは深刻さやドラマチックなものとは縁遠い。

◆「家族関係」が原因の行方不明者は、およそ1万5000人

 最近の統計を見てみよう。警察庁生活安全局が2018年6月に発表した「平成29年における行方不明者の状況」によると、2017年の行方不明者の届出受理数は8万4850人だった。

 原因・動機で最も多いのは、「疾病関係」の26.1%だが、それに含まれる認知症はほとんどが高齢者である。認知症を除くと「疾病関係」の割合は約7%に下落する。人数でいうと約6000人だ。

 そのため、実質的な1位は「家族関係」(17.5%)になる。家族関係の悪さに動機づけられた家出人は、全世代を含めて年間におよそ1万5000人もいる。

 内閣府が14年前に発表した「平成17年度少年非行事例等に関する調査研究報告書」では、少年非行に関する「新たな視点」として未成年の家出をこう分析している。

「虐待を受けた子どもに最初に現れる非行や問題行動は、虐待を回避したり、親から逃避するための家出や金品の持ち出し、万引きなどの盗みなどである。これらは、その性質からして、『虐待回避型非行』と呼ぶことができる」

 内閣府は、家出を「非行や問題行動」としつつも、「虐待を受けた子どもに最初に現れる」行動として位置づけた。被虐待児にとって家出が自主避難であることを国として認めたのだ。

 児相に虐待相談をしても、その6分の1件しか一時保護できていない以上、親による虐待から自分の命や心身を守りたい子どもは家出しか救われようがない。「虐待回避型非行」という言葉も、その実態をふまえてのことだろう。

◆福祉犯罪の被害者のうち家出人は約6%

 ここで、家出した未成年が犯罪の被害者になるような危険な目に遭っているのかどうかを検証してみたい。同じく警察庁生活安全局の「少年の補導及び保護の概況」によると、10代の家出人は過去10年間では減少傾向にあり、下げ止まっている。また、未成年の家出人のほとんどは中高生だとわかる。

 少年の福祉を害する犯罪を「福祉犯罪」というが、同年の福祉犯罪の被害者5974人のうち、家出人は352人。被害者の中で、家出人は約6%しかいなかった。

 もちろん、親族が行方不明者届を出さないまま被害に遭っている未成年の家出人も潜在的にはいるだろう。それは暗数なので、なんともいえない。

警察の統計が示唆したのは、行方不明者届を出さない家庭にいる未成年の方が、圧倒的に多くの被害に遭っている現実だ。

◆未成年の家出人のうち犯罪の被害にあった人はわずか2%

 では、未成年の家出人の中で、被害に遭った子はどのくらいいるのか?

 2017年から過去5年間の「犯罪被害に遭った家出人」が「未成年の家出人」の中でどれくらいいるか(=家出して被害に遭う確率)を計算してみた。

 すると、犯罪の被害に遭った家出人は、2%程度しかいなかった(※小数点第2位以下切り捨て)。ほとんどの家出人は、犯罪の被害に遭っていなかったのだ。2%という数字は、「家出したら深刻な犯罪の被害に遭うおそれが高い」という考えが言いすぎや思い込みにすぎないことを証明するのに十分だ。

 行方不明者届が受理された家出人のうち、平成29年中に警察または届出人等で所在が確認された者は7万1371人(死亡確認、その他を除く)。このうち約79%に相当する5万6223人が、届出の受理当日から1週間以内での所在が確認できた。

 筆者の取材でも、家を出てから2週間〜1か月以内に定住先と定職を得てふつうの暮らしを始めた家出人が過半数だった。これは、家を出てから1〜2週間は親バレを恐れて潜伏し、めったなことを起こさないようにしながら「見つからない約21%」になろうとした結果だろう。

 実際、今日ではSNSを通じて仲良くなった相手の部屋や、一部のカプセルホテルやシェアハウス、年齢詐称しても住み込みで働けるパチンコ屋、高原野菜の農作業員、履歴書不要で応募できるリゾートバイト、親の印鑑を未成年が押した承諾書を受理するバイト先など、定住先と定職を一度に得る機会は無数にあり、ネットで探せる。

 新天地で生活を再建し、お金を貯めたら、成人の誕生日以降は親権による支配から解放される。2022年4月1日からは、18歳で成人になる。

 親の許可なく受験できる高卒認定試験(高認)も知られてきた今日、不登校を望んでも親の理解を得られない中高生が、家出を選択肢に入れて高校を中退するケースも増えていくかもしれない。

 家出という行為は、子どもの本音を親がどれだけ真摯に受け止めようとしてきたかを子どもが身をもって査定する「子育て判定テスト」の落第点なのだ。筆者は、家出直後に風俗嬢になり、今はふつうのOLをしている女性の言葉が忘れられない。

「家にいた時は、父親にレイプされてた。誰にも相談できなかった。でも、風俗はお金ももらえるし、こんな私でもほめてもらえる。あの時の私には、最高の場所だった」

<文/今一生>

フリーライター&書籍編集者。

1997年、『日本一醜い親への手紙』3部作をCreate Media名義で企画・編集し、「アダルトチルドレン」ブームを牽引。1999年、被虐待児童とDV妻が経済的かつ合法的に自立できる本『完全家出マニュアル』を発表。そこで造語した「プチ家出」は流行語に。その後、社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャルビジネスの取材を続け、2007年に東京大学で自主ゼミの講師に招かれる。2011年3月11日以後は、日本財団など全国各地でソーシャルデザインに関する講演を精力的に行う。著書に、『よのなかを変える技術14歳からのソーシャルデザイン入門』(河出書房新社)など多数。最新刊は、『日本一醜い親への手紙そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO)。blog:今一生のブログ

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