「重大ないじめ」と認定されないといじめは放置される!?―大阪・吹田市いじめ事件に見る問題点

「重大ないじめ」と認定されないといじめは放置される!?―大阪・吹田市いじめ事件に見る問題点

「調査報告書(公表版)」

 大阪府吹田市立小学校に通う小学5年の女児が1、2年生だった平成27年秋ごろから29年3月まで、同級生の複数の男児から暴行されるなどのいじめを受け、骨折や心的外傷後ストレス障害(PTSD)を負っていたことについて、吹田市が設置した第三者委員会が明らかにした件で、当該小学校の問題が報告書などによって明らかになってきました。

 マスコミ報道では「教師が被害児童からのいじめ報告を放置した」とありますが、なぜ児童の被害申告を放置することになったのかを検討してみたいと思います。

◆学習指導だけではなく、生活指導も求められる日本の学校教育

「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」によれば、小学校における1学級あたりの児童は35人(1年生)または40人(2〜6年生)と定められていて、この学級には教諭1人が担任として割り当てられています。学校の規模にもよりますが、学校全体としては、学級数に対して1〜1.3倍程度の教諭がいれば充足するとされているので、ものすごく条件が良い場合で教諭1人当たり児童約30人、状況によっては40人に対して指導を行わなければなりません。

 この人数に対して、主要科目について学習指導を行うほか、生活指導を通して生徒の健康や生活環境を整えていくのです。

 児童の中には発達障害を抱えているとか、家庭の環境が悪いなど、様々な事情で学校生活に問題のある者がいることもあって、教諭は日々、あらゆる問題に対処しなければならない立場にあります。

 40人の児童のうちのたった1人の児童が何らかの問題行動を起こしてしまうなら、教諭が聞き取り調査や解決に向かうための指導を行うことで解決するかもしれませんが、その問題の児童が2人、3人と増えてしまっていくとどうなるか。

 ただでさえ学校は様々な行事のある施設ですから、対応しきれなくなってしまうのは想像に難くないと思います。

◆吹田市の女児いじめ事件はなぜ放置・隠蔽されたのか

 国は平成2013年に「いじめ防止対策推進法」を施行し、2017年に「いじめの防止等のための基本方針」が改定されると同時に、「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」が策定されました。

 女児へのいじめは2015年の秋から始まったとされていますから、学校が積極的にいじめ防止の対策を講ずるための法整備が行われているさなかの事件でした。

 報道によれば、被害女児が学校の複数回のアンケートに答え、いじめの事実を申告しているのにも関わらず、教諭が児童に具体的な内容を聴取しなかったことが報じられています。一方、吹田市による報告書によれば、そのアンケートを紛失・破棄したとあります。

 これは何を意味するか。「いじめの事実を見つけてしまうと、仕事が膨大に増えるから、見なかったことにした」のでしょう。

 第三者委員会によって当該教諭に聴取したところで、「大きなケガもないので、面倒な報告はしませんでした」などと正直に言うはずもありません。「忘れた」「うっかり破棄した」と回答してしまえば、教諭自身も上司も傷つきません。

 もちろん、アンケート調査を実施・破棄した教諭の心の中までは見えないので、「ちょっとした意地悪や口げんかなどで教諭がいちいち介入しているときりがない」と判断したのでしょう。しかし、その放置が女児の骨折・PTSD・視力低下を招いたのです。

◆傷害になって始めて認知される「重大事態」とは何か

 吹田市は、いじめ防止対策推進法に基づき、基本方針を定めています。

 この方針の中で、「重大事態」についての手続き等を定めた箇所があります。

 引用してみましょう。

“3 重大事態への対処

【参考】重大事態とは

一 いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。

二 いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。

(1) 重大事態の報告

重大事態が発生したときは、校長は速やかに教育委員会に報告し、教育委員会は市長に事態発生について報告するとともに、公平性・中立性を確保しながら調査を行います。”

吹田市いじめ防止基本方針9ページより引用

 この文言は、「状況に応じて適切に対処する」という意味ですが、要するに「いじめにより死傷者が出た時、1か月以上の不登校があった時はきちんと調査せよ」という学校関係者への指示であって、これはつまり、「ケガや長期欠席がなければ対処しなくていい」という反対解釈が成り立ちます。

 もちろん、再発防止のために第三者委員会を組織し、加害事実を確認するマニュアルとなっているから、かなり仰々しい手続きになります。仰々しい手続きだからこそ、学校長・副校長・教頭などが自発的にいじめ予防を促す効果が期待できるのですが、この方針が強ければ強いほど、学校内でいじめが起こると担任などは「指導力のない教諭」というレッテルを貼られることを恐れ、「少々のいじめは見なかったことにする」という隠蔽志向に変質していくのだと思います。

◆本質的ないじめ防止は「業務の分担」「簡易な報告」「問題の顕在化」

 我が国の学校は、生徒・児童をしっかりとコントロールできる教諭を「指導力が高い」と評価する傾向にあります。だから、どんな家庭環境にある子どもでも、指導力の高い教諭のもとにいれば、いじめも起こらないし、学ぶ意欲も向上するという建前です。だからその結果だけを手っとり早く得ようとすれば、生徒・児童の問題行動は、見なかったことにしてでもゼロにしなければなりません。しかし、いじめはどんな社会にでも存在します。そこで、死傷者が出るなど、「重大事態」に陥らないためには、小さないじめをひとつひとつ捉えていく必要があります。

◆教諭の業務を分担せよ

 公立学校は、どうしても少ない予算の中で、限られたマンパワーの中で運営していかなければなりません。現場では、学習指導と生活指導を同時に行うのは、無理が生じやすく、いじめなどのイレギュラーな問題が生じた時に対応が困難になってしまいます。そこで、子どものメンタルに関わることも多い問題なのだから、臨床心理士などの専門資格を持つ人材をスクールカウンセラーとして常駐させ、生活指導上の問題については、カウンセラーの指導のもとでいじめ防止策を行うべきではないかと思います。

◆いじめ報告書は簡易なもので行う

 今回、吹田市が公開したいじめ報告書は、32ページのものとなりました。今回は被害女児が骨折・PTSD・視力低下という重大事態に陥り、かつ放置・隠蔽などが大きく報じられたからこのような詳細のものになったのですが、学校生活で起こる、日々のいじめ等については、教諭の負担を軽減するためにも、200字程度で書き終えられる簡易な報告にとどめるべきです。詳細・厳格に報告するよう義務づけると、どうしても報告が遅くなったり、「事件なんて見なかった」ことにしがちだからです。

◆いじめは顕在化が最大の予防

 多くのいじめ(大人の社会ではハラスメントとも呼びますね)は、人の見ていないところで起きます。

もし、軽微であってもいじめを発見した場合、傷害や不登校に至ってなくても、いじめが起こったと推測できる場合、教諭や学校関係者はどのようにすべきか。

 まずは複数の大人が情報を共有した上で、「いじめは絶対に許さない」、「卑怯なことをする奴らは絶対に許さないし、それを口に出さない人も加害者をかばうことになるから許さない」と、毅然とした態度で宣言すべきなのです。

 これでいじめを100%防止できるなんてことはありませんが、陰湿・執拗ないじめはかなり無くなるはずです。

<文/松本肇 Twitter ID:@matsuhaji>

まつもとはじめ●教育ジャーナリスト&教育評論家。

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