ヤフーが開始し、日本でも拡大が予想される「信用スコア」。浮上する懸念とは?

ヤフーが開始し、日本でも拡大が予想される「信用スコア」。浮上する懸念とは?

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◆ヤフーが信用スコアを開始。ネットで言及された問題点

 6月初旬に、ヤフーが「Yahoo!スコア」を外部提供するというニュースがネットの一部を賑わした(参照:日本経済新聞)。

「Yahoo!スコア」とは、ヤフーが独自算出した個人の信用スコアのことだ。このスコアは、本人確認の度合い、信用行動度合い、消費行動度合い、ヤフーの利用度合いを測る4カテゴリーのスコアと、それらを集約した総合スコアで構成される。このスコアをパートナー企業に提供して、ユーザーに対する特典プログラムの実施等を図るそうだ(参照:プレスルーム - ヤフー株式会社)。

 この「Yahoo!スコア」のニュースが、ネットで賑わった理由は複数ある。1つ目の理由は、「Yahoo!スコア」の作成と利用が、デフォルトでオンになっていることだ(参照:藤代裕之 - 個人 - Yahoo!ニュース)。

 この「Yahoo!スコア」の作成と利用については、特にメールで連絡はなかった。プレスリリースの存在を知らずにヤフーのアカウントを利用していれば、気付かないうちに「Yahoo!スコア」の作成と利用をオンにした状態になる。

 この設定をオフにするには、「Yahoo!スコアの作成・利用」ページに行き、手動でオフにしなければならない。私もオンになっていたので、とりあえずオフにしておいた。

 2つ目の理由は、スコアが本人には分からないことだ。プレスリリースには「ユーザーが自分自身のスコアを確認できる機能の提供を目指す」と書いてある。しかし「提供する」とは書いていない。自分で数字が分からない情報を、パートナー企業に提供すると言われても、基本的には同意できないだろう。

 3つ目の理由は「知恵袋での活躍度」が信用行動として掲載されていたことだ。「えっ、知恵袋での活躍度合い?」ということで、色々な妄想を膨らませられた。

「知恵袋での活躍度」が採用された根底には「外部に公表されている情報のみを使うことでプライバシーに配慮した」と考えているヤフーの姿勢がある(参照:高木浩光@自宅の日記)。

 ヤフーでは、公開されている個人情報なら、本人の意図にそぐわない使い方をしてもよいと考えているようだ。しかし、プライバシーへの配慮としてはまずいだろう。公開されている情報を組み合わせることで他の意味を持つことがある。どういった使い方をするかを示して、同意を取る必要があるだろう。

 スコアの数字だけが提供されるようだが、その内容が個人の意図通りのものかは、スコアが本人に示されないので不明だ。色々と問題が多いと感じさせられる。

◆2019年、IT市場のトレンドは「信用スコア」に!?

 去年の日本のIT業界は「QRコード決済」の年だった。今年の日本のIT業界は「信用スコア」の年になるかもしれない。多くの企業が、この分野に参入を表明している。

 まずは、みずほ銀行とソフトバンクが2016年11月に設立した合弁子会社「J.Score」だ。「日本初、AIスコア・レンディング、始まる」というキャッチフレーズの、個人向け融資サービスだ。J.Scor では、顧客データをスコア化して融資に活用する。従来では融資できなかった低与信層に融資可能となる見込みだそうだ(参照:Wikipedia)。

 ドコモも2018年10月に、ドコモのビッグデータを活用した「ドコモスコアリング」と、新たな融資サービスを提供する仕組み「ドコモ レンディングプラットフォーム」を発表している(参照:NTTドコモ)。

 LINEも、2018年11月に個人向けのスコアリングサービス「LINEスコア」と、個人向け無担保ローンサービス「LINEポケットマネー」を発表している(参照:LINE Corporation)。

 ヤフーは、2018年10月から実証実験を始めて、今年の7月1日からサービスの提供を開始する。ヤフーは、よくも悪くも業界を牽引する。2019年は、こうした和製信用スコアが入り乱れる年になるのではと予想される。

◆中国が先駆けとなった「信用スコア」市場

 こうした信用スコアへの相次ぐ参入は、中国の信用スコアが大きく飛躍していることが背景になっている。特に中国の Alibaba による「芝麻信用(セサミクレジット/ジーマ信用)」の影響が大きい。

 総務省の平成30年版「情報通信白書」には、中国の事例として、「信用のスコア化 芝麻信用」という項目がある(参照:芝麻信用の概要)。「芝麻信用」はアリババグループであり、2015年1月に中国人民銀行が個人信用スコアサービスの開業準備を認めた8社のうちの1社である。2015年が、現在の信用スコアの元年だと考えると、その歴史は意外に浅い。

 中国でこうした信用スコアがサービス展開されるようになった背景には、政府主導で進められている政策「社会信用体系建????要(社会信用システム構築計画綱要)」が大きく関係している。2014年から2020年までの7ヵ年計画で、信用レベルを意識させることにより不正取引を減らし、健全な社会システムを築こうという取り組みだ(参照:MUFG Innovation Hub)。

 個人信用スコアサービスで頭が飛び抜けた存在となっている「芝麻信用」は、信用度を350〜950点の点数で示す。700以上だと信用極好となり最高ランクとなる。

 点数化は5つの領域でおこなわれる。社会的地位・身分、年齢・学歴・職業などの「身分特質」、過去の支払い状況や資産などの「履行能力」、クレジット・取引履歴などの「信用歴史」、交友関係及び相手の身分、信用状況などの「人脈関係」、消費の特徴や振り込みなどの「行為偏好」から算出される。とはいえ「芝麻信用」の多くの情報は、Alibaba での経済活動に左右される。

 この中国版信用スコアの、欧米版クレジットスコアとの違いは、元々の立脚点にある。中国では、クレジットカードの利用履歴が全く存在しない人が大多数を占めていた。そこで、そうした情報に頼らない信用スコアの算出が求められた(参照:DG Lab Haus)。

 中国の政策、国民の状況といった国家的な背景があるために、現在日本で進んでいる信用スコアが、中国と同等のものになるとは考えにくい。市場の支配力の問題もあり、中国ほど強い影響力を持たないのではないかと思われる。中国のように「低ランクだと結婚できない」といった話が出てくる可能性は低そうだ。

◆浮上する信用スコアへの懸念

 前述のとおり、本家の中国と日本では、そもそもの事情が違う。そのため、信用スコアの意味するところは大きく違う。

 ただ、個人の信用がスコア化されて、そのことにより受けられるサービスや価格などが変わると、起きるであろう問題も思い浮かぶ。信用スコアという枠組みが国民の大多数に広まり。2世代、3世代と続けば、格差が固定化される懸念が出る。

 親の経済的な後ろ盾によって、初めから信用スコアが高い集団は、様々なサービスを安価で受けられ、面倒な手続きを飛ばして社会活動ができる。中国の信用スコアでは、病院の待ち時間が短縮され、ホテルの保証金が不要になる。また、国内国外の移動もスムーズにおこなえる。

 逆に言うと、経済的に苦しい立場にある親の子供は、こうした恩恵を受けるのが難しくなる。その結果、高速道路を進む人間と、一般道を進む人間とに分けられて、大きな格差を生むことになる。一部の人にとって便利なシステムが、格差を助長して、差別を社会に作る危険性がある。

 信用スコアという仕組みについて、日本でそこまでの影響力が出るとは現時点では考え難い。しかし本家である中国の動向は注視しておきたいところだ。

◆シリーズ連載:ゲーム開発者が見たギークニュース

<文/柳井政和>

【柳井政和】

やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。

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