ミーガン・ラピノーが立ち向かう社会。大統領やプロ野球選手からも飛んでくる心無い批判とそれに抗う「力」

ミーガン・ラピノーが立ち向かう社会。大統領やプロ野球選手からも飛んでくる心無い批判とそれに抗う「力」

Photo by FRANCK FIFE/AFP/Getty Images

 今月行われたサッカー女子W杯で見事優勝を果たしたアメリカ代表。ご存知の方も多いだろうが、そのキャプテンであるミーガン・ラピノーのメッセージが話題を呼んでいる。

◆給与格差は当然?

 メッセージのひとつは男子チームに比べて、女子チームの報酬が低すぎるというもの。女子アメリカ代表チームは今年3月にも米国サッカー協会に対して、性差別であると抗議している。

 日本でのネット世論の反応を見ると、否定的なコメントが多かった。大まかにまとめると、「女子は競技レベルが低い」「男子に比べて人気がないのだから、報酬に差が出るのは当たり前」といった意見だ。

 しかし、果たして本当にそうなのか? あくまで筆者の意見だが、競技レベルに関しては、より平等な環境に置かれた場合、男女間の差はあっという間に縮まると思う。

 たとえば、世界最大の総合格闘技団体UFCを見てみるといい。‘12年に女子部門が設立されると、当初は男子との差が大きすぎると否定的な意見が多かった。恥ずかしながら、筆者も女子のカードが組まれるとガッカリしていたうちの一人だ。

 しかし、そこから7年経ったいまはどうだろう? 大会のメインカードに女子の試合が組まれることすら当たり前になっている。男子以上にアグレッシブな試合も多く、当初のような技術面の差はほとんど見られない。気づけば筆者も多くの女性選手の試合を楽しみにしている。

◆欧州でも女子サッカー熱が沸騰

 サッカーにおいても、男子と同じような環境で試合や練習を行えるようになれば、競技レベルは急速に発展するはずだ。

 続いて、「男子に比べて人気がないのだから、報酬に差が出るのは当たり前」という主張に関してだが、ことアメリカに限って言えば、W杯6度優勝という結果を見てもわかるとおり、女子サッカーは実力・人気ともに男子を上回っている。

 また、今年3月にはイタリアの名門、ユベントスの女子チームが男子と同じスタジアムで試合を行ったところ、4万人近い動員を記録。国や地域にもよるが、女子サッカーをひとくくりにして、「人気がない」と言い切るのには無理があるだろう。

 男女格差の是正を求めるラピノーの発言に対しては、W杯の決勝戦でも観衆から「イコール・ペイ」という合唱が起きている。

◆トランプ大統領は人々を排除している

 そして、もうひとつ注目を浴びたラピノーの発言が、「(W杯で優勝しても)ホワイトハウスには行かないし、私が話したチームメイトのみんなも行くつもりはない」というものだ。

 こうしたラピノーの姿勢に対して、日本のプロ野球チーム・福岡ソフトバンクホークスでプレーするデニス・サファテは「ようラピノー、そんなにアメリカが嫌いなら出ていけよ! 誰も止めないから」と投稿。同じく日本でプレーする読売ジャイアンツのスコット・マシソン投手が「賛成だね。ほかがどうなってるか見てみればいい」と返信している。

 ラピノーは自身が同性愛者であることをカミングアウトしており、たびたびLGBTQを支援するメッセージを発信している。性的マイノリティに対して否定的なトランプ大統領に招待されても、ホワイトハウスには行かないというのは、決して驚くような発言ではない。その真意について、ラピノーはCNNのインタビューで次のように答えている。

――このインタビューを大統領が観ている、観る可能性は高いでしょう。大統領へのメッセージはありますか?

ラピノー:「大統領へのメッセージね。あなたのメッセージは人々を排除してる。私を排除しているし、私のような見た目の人を排除してる。有色人種の人を排除してる。あなたを支持しているかもしれないアメリカ人を排除してる。

 私たちはあなたが打ち出すメッセージや『メイク・アメリカ・グレート・アゲイン』について言っていることに立ち向かわなきゃいけない。あなたはある人たちにとっては「グレート」じゃない時代に戻ろうとしてる。一部の人たちにとってはグレートなのかもしれないけど、この世界にいるすべてのアメリカ人にとって十分なほどグレートじゃない。

 私たちみんなに責任があるし、あなたにはとても大きな責任がある。この国の首長として、すべての人をケアして、みんなのためにもっといい仕事をしなきゃいけない」

◆マイノリティにとっては「グレート」ではない

――「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」というのが、‘40年代、‘50年代を指すのだとしたら、ゲイであることで投獄されたり、家族によって精神病院に送られることもあるかもしれません。通りで愛する人と手を繋いで歩くこともダンスすることも、何もできませんよね。

 異なる人が(「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」を)私的な視線で見るのは興味深いですね。あなたがおっしゃったように、過去に権利のなかった人々の立場になってアメリカを見られていないのかもしれません。

ラピノー:「そうですね。多くの人にとって(昔のアメリカは)グレートな場所ではありませんでした。とても抑圧的な場所でした。世界で一番酷いところだったとは言いませんし、多くの人が目指した場所でした。誰もアメリカから出ていきたいとは言わなかったでしょう。

 ただ、世界の素晴らしい国のひとつとして……そう私たちを見ていきたいです。(アメリカの)内面をしっかり見続けて、自分たちが向上できるように挑戦していきたいですし、私たちの周りにいるみんながより向上できると思っています」

――アレサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)やナンシー・ペロシ(米下院議長)……。ナンシー・ペロシは「超党派や議会にあなたを歓迎する」と言っていましたが、ワシントンに行くことは考えていますか?

ラピノー:「ええ、もちろん。チームメイトと会話をしても、みんなワシントンに行くことに興味を持っています。私たちにとって特別な瞬間です。この運動に影響を与えたり、私たちが話したいことについて話し合ったり、私たちの国の指導者たちと祝福するのは素晴らしい瞬間です。

 なので、AOCにもイエスだし、ナンシー・ペロシにもイエスだし、超党派にもイエスだし、議会にもイエスだし、チャック・シューマー(民主党の上院院内総務)にもイエスだし、そのほかにも私たちを招待して掘り下げた話をしたい人、私たちが信じていることを同じく信じている人にイエスです」

◆サッカー女子アメリカ代表の多様性

 トランプ大統領が回帰しようとしているアメリカは、性的マイノリティや有色人種にとっては、「グレート」どころか抑圧的な国。一部の人間を排除した「グレート」を追求するのではなく、国民全員にとってよりよい国を目指してほしい……。ラピノーの主張は大統領に噛みついた「過激発言」ではなく、至極まっとうなものだ。

 また、ニューヨークで行われたW杯優勝式典では、次のようなスピーチをしている。以下はその全文訳だ。(参照:CBS NEWS)

「マイク入ってるね。いこう、ニューヨークシティ! みんな見えるよ。遠くにいる人も。後ろの人もこんにちは! これは狂ってる。完全にイかれてる。言葉を失う。いや、ちゃんと見つけるけどね。心配しないで。これは馬鹿げてるよ。

 まず始めに大切なことは、チームメイトのみんなに声をあげて。みんなに拍手を。この集団はとても活気があって、タフでユーモアに満ちてて、めっちゃワルだよ。この集団を言い表すことはできない。(私たちは)リラックスして、紅茶をすすって、祝福する。ピンクの髪もいれば、紫の髪もいる。タトゥーが入ってたり、ドレッドもいる。白人の女の子も、黒人の女の子もいる。その間の全部も。

 ストレートのコも、ゲイのコもいる。カーリー、アレックスと一緒にこのチームのキャプテンを務められて、これ以上ないぐらい誇らしい。このチームをフィールドに率いてくことはとても名誉。ここ以外に行きたいところなんてない。大統領選でさえね。私、忙しいから、ゴメンね」

 発言内容と影響力の強さから出馬を期待する声が出ているラピノーだが、政治家転身についてはジョークを交えながら否定した。

◆ブーイングを受けた会長を擁護

「コーチングスタッフ、技術スタッフ、医療スタッフ、サポートスタッフ、マッサージセラピスト、映像班、シェフ、セキュリティ、メディア班、私たちの仕事を楽にしてくれてありがとう。フィールドでやらなければいけないこと以外、何も考えなくてよかった。ありがとう。(アメリカサッカー)連盟のカルロス(・コルデイロ会長)も。あなたはこの大会では素晴らしかった。この壇上にいるとちょっと硬いね(会長が壇上にあがったとき、「イコール・ペイ!」という声とブーイングが起きた)。でも、権力のある人は誰でもブーイングされるものだから。

 もう少しカルロスを推しておくよ。私たちの側にいて、物事を正しく動かしてる。彼(の手腕)は証明されてる。私たちのために(連盟の)事務局に入ってから毎日ね。彼は私たちとともにいる。W杯のすべての日でもそうだった。私たちにとって重要である人間的な部分だけじゃなくて、どの試合でも(選手が入場する)通路にいたし、祝福してくれた。感謝してる。ありがとう。これからも彼に圧力をかけてきたいね。

 市長の事務所も、私たちを迎えてくれてありがとう。知事も。クオモ、発音あってるよね? 迎え入れてくれてありがとう。それとニューヨーク市警、消防局、これを実現させてくれたすべての人に。ありがとう。みんながいなきゃ実現は不可能だった。世界一大きな大都会を封鎖するのを手伝ってくれたみんな、最高のチームを家に迎え入れてくれてありがとう。私たちにとってとても意義深いことです」

 男女格差の是正など、積極的に意見を発信しているラピノーだが、矢面に立たされたサッカー連盟の会長に対しては労いの言葉を贈っている。

◆みんながよりよい社会への責任を負っている

「これで(スピーチを)終わろうと思う。私たちはもっとよくならなければいけない。もっと愛しあって、憎しみあうことを減らさなきゃ。もっと(相手を)聞いて、(自分が)話すことを減らさなきゃ。これはみんなの責任だって理解しなきゃいけない。ここにいるすべての人の。ここにいないすべての人の。ここに来たくないすべての人の。すべての賛成する人、反対する人の。この世界をよりよい場所にするのは私たちの責任です。

 このチームはそれを(責任を)背負うことについて、大きな仕事をやってのけていると思う。世界で私たちに与えられた立ち位置も理解している。ええ、私たちはスポーツをプレーしてる。ええ、私たちはサッカーをプレーしてる。ええ、私たちは女性アスリート。私たちはそれ以上の存在だと思う。

 あなたたちもそれ以上の存在。あなたたちはファン以上の存在。あなたたちは単にスポーツをサポートする以上の存在。あなたたちは4年に一度観るだけじゃなくて、毎日そのスポーツを観てる。あなたたちは毎日コミュニティで活動してる。どうやってコミュニティや周りにいる人をよりよくできる? 家族や近しい友人。一番身近にいる10人、20人の人々。一番身近な100人の人々。すべての人の責任です」

◆自分も加害者の一人だった

「ここ数年、あまりにも争いが多すぎた。私はその犠牲者だったし、加害者でもあった。協会に言ったいくつかのことについては申し訳なく思ってる。いくつかについては後悔してないけどね。全部(後悔しているわけ)じゃないよ。

 でも、今は団結するときで、この対話は次のステップに進んでる。私たちは協力しなきゃいけない。それにはみんなが必要。これは私からみんなへの指示です。やれることをやって。やらなきゃいけないことをやって。自分の中から飛び出して。いま以上の存在、もっといい人間になって。これまでの自分より大きくなって。

 このチームは、あなたたちがそうすることでなれるものの例です。これを模範にして。とんでもないことだと思う。私たちは今日ここに来て、あなたたちと祝うため、多くのものを背負った。私たちはそれを笑顔でやった。だから、私たちのために同じことをして。お願いします。ニューヨークシティ、あなたたちがマザー・ファッキン一番だよ!」

 最後には放送禁止用語も飛び出したラピノーのスピーチ。彼女のメッセージは、女子アスリート、性的マイノリティ、そしていち市民として、“身分をわきまえていない”過激なものだろうか? それとも、スポーツを通して、社会、そして世の中全体を前進させるものだろうか? 筆者は後者であると感じた。

 前出のサファテやマシソンのように、政府や社会への意見に対して「嫌なら出ていけ」という言葉を浴びせる人は少なくない。実際、アメリカではラピノーが載ったポスターが破られるといった事案も発生しているという。

 しかし、本稿で紹介したラピノーのコメントをみればわかるとおり、彼女は誰かを打ち倒そうとしたり、除外しようとしているわけではない。それとは正反対に、自分を含め、多くの人がお互いに対してより寛容であり、成長するべきであると述べている。

 W杯では逆風にもめげず、見事優勝を飾ったラピノー。ピッチ外で発生した“延長戦”でも勝利できるのか、その戦いを追い続けたい。

<取材・文・訳/林 泰人>

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