「作り笑顔」でストレスが緩和できる!? 鏡を見なくてもOK

「作り笑顔」でストレスが緩和できる!? 鏡を見なくてもOK

作り笑顔が多い人はストレスが溜まっている証拠!?(写真/ぱくたそ)

 こんにちは。微表情研究家の清水建二です。これまでの本連載では、笑顔を始めとする様々な表情が他者にもたらす印象やコミュニケーション上の効果について紹介してきました。本日は、他者ではなく自分、笑顔が自分の心と身体にもたらすプラスの効果について紹介したいと思います。

◆ハードな練習中に笑ってしまう!?

 私は、テコンドーという朝鮮の武道を長年鍛錬しており(とはいえ、ここ2年ほどはサボってしまっているのですが)、道場生に指導しているときに一見、不思議な光景を目にしてきました。それは、ハードな練習をすればするほど道場生は笑顔になる、という光景です。

「練習中に歯を見せないで下さい!」

 と指導するのが適切でしょうか。ときにそうした指導も必要でしょう。しかし、ハードな練習に耐えるには笑顔が力になってくれるかも知れません。

 事例を変えましょう。仕事でミスをしてしまい叱られている人の表情、観たことありますか。叱っている本人でなければ、叱られている人をあまり見ないかも知れませんが、これまた一見、不思議な光景を目にするでしょう。叱られているのに、「えへへ」と笑っている人が時々います。当然、その人はさらに叱られるのですが。

「叱られているのにヘラヘラするな!」

と注意すべきでしょうか。ときにそうした注意も必要でしょう。本人のためには、一旦叱っている内容については脇に置き、笑っている理由を冷静に聞いてみましょう。単に反省していないだけのこともありますが、そうとも限らないのです。

◆笑うから楽しくなる? 表情フィードバックの不思議

 さて、この2つのケースですが、根底には共通の心理メカニズムが潜んでいます。それは、表情フィードバックという現象です。

 表情フィードバックとは、楽しいから笑うという方向ではなく、笑うから楽しくなるという表情の物理的な変化が感情に影響をもたらす現象のことをいいます。

 表情フィードバックに関する研究の多くは、幸福感情に関わる表情筋を実験に参加している人々にそうとは気付かれないように動かしてもらうことで、何の感情もないニュートラルな状態からポジティブな感情へと実験参加者の感情が変化することを実証してきました。

 私たちの表情には自身の感情を変化させるメカニズムが秘められているのです。

 さらに驚くべきことは、ちょっとしたストレスなら笑顔を意図的に作ることでそのストレスが低減することがわかっています。ストレスの低減度合いは、目尻にしわがより、口角が引き上げられる真の幸福表情が一番大きく、次に口角が引き上げられるだけの社会的笑い(いわゆる愛想笑いのことです)が続きます。

◆ごく軽微なストレスを緩和するには、笑顔は効果てきめん

 この笑顔のストレス低減効果は、興味深いことに自分で自分の笑顔を認識していようがしていまいが、生じるということです。

 冒頭のテコンドーのハードな練習や叱られるというストレス状況において、笑顔でいる人々は、ほとんどの場合、自分の笑顔を自覚しておらず、自然に笑顔になっていると思われます。ストレスから自分の心と身体を守るメカニズムを自然に習得している人と言えるでしょう(とはいえ、周りの人に誤解を与える場合も多分にあるので自分の笑顔に自覚的になった方がよいでしょう)。

 ただ残念ながら、笑顔をつくる/笑顔になることで、ストレスというネガティブ感情をポジティブ感情に転化するということはないようです。

 また笑顔をストレスの癒しとして利用するには、「ちょっとした」ストレスというところがポイントとなります。ちょっと疲れたな、ちょっと嫌だな、ちょっとイラッとするな、そんなとき、口角を引き上げるとストレスが緩和されます。

◆人と接することが多い職業にとって笑顔は心のサプリ

 注射の痛みですら、笑顔をつくることで痛みが緩和されることもわかっています(ぜひお子さまがいらっしゃる方はお試しあれ)。特に、次から次へと新しいお客さんに対応する必要のある接客係の方々や次から次へと部下から相談を受ける経営者の方々など、ちょっとしたネガティブ感情を人毎にリセットしなくてはならない方々にとっては、笑顔は心のサプリとなるでしょう。

 しかし、「ちょっとした」ストレスどころではない場合や長期にわたって本当の感情を抑制し、愛想笑いで自他ともに誤魔化したりしていると、バーンアウトを起こしてしまいます。

 笑顔はあくまでもサプリ。笑顔のサプリが効かない、自分の本当の感情が全然出せない、そうした場所に居続けていては心が疲弊してしまいます。そんなときは、そうした場所からおさらばするか、日々心身の栄養を採り、ときに笑顔のサプリで十分な心身を養成しましょう。

参考文献

Kraft TL, Pressman SD. (2012) Grin and bear it: the influence of manipulated facial expression on the stress response. Psychol Sci.;23(11):1372-8. doi: 10.1177/0956797612445312. Epub 2012 Sep 24

【清水建二】

株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。

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