香りブームの裏で、懸念される「香害」と「マイクロカプセル」による健康被害

香りブームの裏で、懸念される「香害」と「マイクロカプセル」による健康被害

kostrez / PIXTA(ピクスタ)

◆知られざる「香害」の実態

 ここ数年、合成洗剤や柔軟仕上げ剤などの香りが極端に強くなった。その強い香りで体調を悪くする人が続発し、その現象を表わす香害という言葉は市民権を得つつある。だがその実態は意外と知られていない

 香害は、マイクロカプセル技術によって生み出されたと言っても過言ではない。

 香料マイクロカプセルは、目に見えないほど小さなプラスチックのカプセルの中に香料を閉じ込め、熱や摩擦などでカプセルの膜が破裂することで少しずつ香料を放出する技術だ。膜が破裂するまで香料が揮発せず、化学変化も起こさないため、香りが何日も(場合によっては何か月も)長続きする。主な材料はメラミンホルムアルデヒド、ポリウレタン、ポリウレアなどである。

 一般的に香料は、合成洗剤で1〜2%、柔軟仕上げ剤で10%しか洗濯物に残らないが、マイクロカプセルを使用した場合、合成洗剤で20%、柔軟仕上げ剤で50%も残るというからその威力は絶大だ。 

 香料がマイクロカプセルに入った結果、柔軟仕上げ剤愛用者の衣類から放たれた香りは何メートルも飛んでいく、近隣の洗濯物の香りのせいで窓が開けられない、飲食店や公共交通機関の座席に香りが付着する、店で売っているさまざまな商品のパッケージに香りが移る、そんな状況が日常化してしまった。

◆有害成分を肺の中まで届けてしまう危険性

 マイクロカプセルの直径は数μm(マイクロメートル)から数十μm、膜の厚みは1μmに満たない(1μmは1/1000mm)。破裂してバラバラになったマイクロカプセル片は1μmより小さくなる。空気中を漂えば、環境省などが2012年から13年頃にかけてマスコミを動員して大騒ぎしたPM2.5(2.5μm以下の微小粒子状物質)と実質的に同義なのだ。今ではすっかり鳴りをひそめたとは言え、2.5μm以下の浮遊物質が人体に有害であることに変わりはない。吸い込めば肺などの組織に入り込むサイズだからだ。

 一方、中身の香料の方には、アレルギーや喘息を発症・悪化させる物質、発がん性物質、環境ホルモンだとわかっている物質が少なからずある。アメリカの市民団体Women’s Voices for the EarthおよびBreast Cancer Prevention Partners(*)によれば、現在、世界中で使用されている約4000の香料成分の三分の一は、人体や環境に悪影響を及ぼすことがわかっている。 だが日本では、香料を含有した製品に成分名をいちいち表示する義務がなく、ただ「香料」と表示されているだけなので、有害な成分を避けたくてもどうにもならない。ちなみに一つの製品には数十から数百もの香料成分が使用されている。

(*:Women’s Voices for the Earth and Breast Cancer Prevention Partners, Press Release “New Data Reveals One-Third of All Fragrance Chemicals Linked to Human and Environmental Harm”, 26,Sep. 2018.)

 そんな得体のしれない香料を、得体のしれないカプセルに詰めて空気中を無数に漂わせるのだから、それを吸い込んで体に良いとはとても思えない。だがマイクロカプセルは含有量が製品の総重量の1%未満のため、日本では表示の必要がなく、消費者は「香りのカプセル」「香りスイッチ」などの曖昧な表現をたよりにマイクロカプセルを使用しているかどうかの判断をするしかない。1%未満ならたいしたことないだろうと思うのは大きな間違いで、日本の大手洗剤メーカーが今年2月に発売した柔軟仕上げ剤には、なんと一回の使用量にマイクロカプセルが1億個も入っているという。

◆人体への害は未知数

 微小なプラスチックを人間が吸い込んだらどうなるのかという研究はとても少ない。しかしここ数年、関心を集めている分野で、さまざまな健康被害が懸念されている。人間は、鼻から吸い込んだものをある程度は外に出す能力を持っているが、小さいサイズのものほど体の奥まで入っていきやすい。慢性的に吸い続けた場合、体内に蓄積されて重大な健康被害が生じる恐れがある。ナノレベル(1nm(ナノメートル)は1/1000μm)になれば、脳血管関門や胎盤も通りぬけることがある。内臓などが未発達な子どもは大人より脆弱で、被害を受けやすい(**)。

 プラスチックを製造する際、さまざまな添加剤が使用されるが、それらもまた体内に入っていく。それぞれの製品にどんな添加剤が使用されているか、消費者にはわからない。

 室内でも屋外でも、空気中に微小なプラスチックが見つかっている。一般に、室内は屋外よりも濃度が高い。日本では、学校・幼稚園・保育園に通うたくさんの子どもが合成洗剤や柔軟仕上げ剤の強い香りを身にまとっている。室内は相当なマイクロカプセル片が漂っているはずだ。それを子どもたちは、日常的に吸い込んでいるのだ。

(**:Joana Correia Prata, “Airborne microplastics: Consequences to human health?”, Environmental Pollution, Vol.234, March 2018.、Stephanie L. Wright, et al., “Plastic and Human Health: A Micro Issue?” Environmental Science and Technology, 51(12), May 2017.)

◆アメリカでは柔軟剤離れも

 柔軟仕上げ剤の香料にはじめてマイクロカプセル技術が導入されたのは2008年、手がけたのはアメリカのP&Gだ。それ以来、その技術は世界中に広がり、今や洗剤メーカーはマイクロカプセル技術のおかげで香料使用量を三割も節約できるようになった。業界にとっては革命的だったか知らないが、それを吸い込まされる側はたまったものではない。

 ところで香料マイクロカプセル発祥のアメリカでは、2007年から2015年にかけて、若い世代の天然志向が影響して柔軟仕上げ剤の需要がへこんだということだ。日本では同じころ、柔軟仕上げ剤の売り上げがうなぎのぼりだった。この違いはどこにあるのか。日本人が広告宣伝に乗せられやすいというのも理由の一つかもしれないが、何よりもまず香料成分やマイクロカプセルの有害性をマスコミが一向に報じないことが大きいだろう。業界の圧力が働いているのか、それともジャーナリストが香害問題を過少評価しているのか。

 だが香害とは、一部の過敏な人たちだけの問題ではなく、すべての人の健康に関わる問題なのだ。多くの人が、その重大さに気づいてくれることを切に願う。

<文/鶴田由紀>

【鶴田由紀】

フリーライター。1963年横浜に生まれる。1986年青山学院大学経済学部経済学科卒業。1988年青山学院大学大学院経済学研究科修士課程修了。著書に『巨大風車はいらない原発もいらない―もうエネルギー政策にダマされないで!』(アットワークス)、訳書に『香りブームに異議あり』(緑風出版)など

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