買い叩かれないフリーランスになるために〜シェアリングエコノミーを活用して、理想の働き方を実現する〜

買い叩かれないフリーランスになるために〜シェアリングエコノミーを活用して、理想の働き方を実現する〜

中野円佳さん

◆「シェアエコノミー」は働き方を買えるのか?

「正社員として同じ会社で長く働く」ということが否応無しに「良し」とされてきた日本社会。非正規雇用の不利益から脱出することは難しく、アルバイトやパートは時給1,000円前後で酷使される。正社員になるか、そうでなければ非正規として消耗させられながら働くか、といったように、限られた選択肢から選ばなければいけないという無意識的な「諦め」は、「ギグ・エコノミー」「シェアエコノミー」という概念の登場で、変わりつつあるのか。

 7月23日、ジャーナリストの中野円佳氏の書籍『なぜ共働きも専業もしんどいのか〜主婦がいないと回らない構造』刊行記念イベントとして「多様化する働き方の未来:シェアリングエコノミーは共働き子育てを救うか?パネルディスカッション」が開催された。

 中野氏がモデレーターを務め、フリーランスのプラットフォーム「ランサーズ」の取締役執行役員・曽根秀晶氏、CtoC家事代行プラットフォーム「タスカジ」の代表取締役社長・和田幸子氏、主婦の人材サービスを手がける株式会社ビースタイル「しゅふJOB総研」所長・川上敬太郎氏の3名を迎えたパネルディスカッションが行われた。

◆個人が「買い叩かれない」ための仕組み作りが重要

「男性のみが無限定な働き方をして、女性が家事・育児といった再生産を担うという構造が、日本社会では出来上がってきた。政府でも議論がされているジョブ型正社員のような枠組みに加え、市場から出てきた転職、フリーランス、家事代行などの多様な選択肢が、この構造を打破する希望の光になるかどうか」と中野氏は注目する。

 個人が個人に対して家やスペースを貸し出す「Airbnb」、一般のドライバーが自家用車を使ってタクシーのようなサービスを提供する「Uber」など、個人同士で単発の仕事を取引する「ギグ・エコノミー」は世界的に広がりを見せている。一方で、個人で仕事を引き受けることから、低価格競争になってしまい、買い叩かれ、使い捨てにされるギグワーカーの労働環境の悪さは、課題視されている。

 こうした現状に対して、個人間の家事代行プラットフォーム「タスカジ」を運営する和田氏は対策を打っている。

「低価格競争になると、市場全体として働き手を失うことにつながってしまい、良くない。対策の一つとして、受注側が設定できる価格の下限をプラットフォーム側が設定するようにしている。受注者本人がそれ以下の価格を希望しても、受け付けない。家事代行という標準化できない仕事を本人がうまくプライシングすることは難しい。レビュー機能を活用することで受注者側に自信を持たせ、高い価格を設定できるようなマインド作りをしている」

◆低い価格で甘んじている優秀な人も多い

 個人が価格交渉をする難しさは、中野氏自身も感じている。現在配偶者の転勤に帯同する形でシンガポールに在住し、フリーランスとして働いている中野氏は、シンガポールで仕事を探す際に個別交渉をしたという。

「ずっと家にいるのは息が詰まる。最初はいくらでもいいから働かせて欲しいと思って探したが、時給960円くらいの仕事ではさすがに低すぎる。結局、原稿料ベースで報酬を貰えることになった。でも、いくらが妥当なのか、情報を集めるのにも、交渉するのも手探り。日本人は、価格交渉に慣れていない。低く設定しがちで、交渉するのが上手な人ばかりではない。プラットフォーマーが参考価格を提示してくれるのはありがたいことだと思う」

◆「依頼者側を評価する」という考え方

 企業とフリーランスをつなぐプラットフォーム「ランサーズ」の曽根氏は、仕事を依頼する側(企業側)のリテラシーも重要であると話す。

「フリーランスの人に対して適正な価格で仕事の発注を出来ているか、というのをスコア化するようにしている。適正な要件・価格が設定されている仕事に対して適切な人がマッチングされるように、という考え方。発注する企業側としても、うまく仕事を切り出して発注する、という経験がなく、適正な価格設定ができないケースもある。依頼内容に応じた相場をプラットフォーマーが明示するようにしている」

「タスカジ」でも、依頼者が過去に記入したレビューを働き手が事前にチェックできるようにするなどの工夫を凝らしている。安心できる取引のためには、依頼者側のリテラシーを教育するというのが、重要課題のようだ。

◆「正社員→パート」だけじゃない。キャリアも家庭も諦めないという流れを作りたい

 「しゅふJOB」では、「主婦」という肩書きの背景に着目し、個々の持つキャリアや経験を軸に6つのカテゴリーに細分化して人材サービスを行っている。そのひとつが「スマートキャリア」というものだ。特定の分野で経験・専門性を持つ人が、単純な事務作業などではなく、その専門性を活かした仕事をできるようにしている。

「例えば、人事部で管理職を経験したことのある人には、スケジュール管理などの事務作業ではなく、会社全体の人事戦略を考える仕事をしてもらうとか。フルタイムで勤務していないとできないような仕事も、取り組んでもらえるようにしたい。キャリアも家庭も諦めない、という流れを作りたい。スマートキャリアでは、時給も平均2300円と高め。今後もっと上がっていけば良い」としゅふJOB総研・川上氏。

 キャリア形成への考え方についても、変化が必要だと川上氏は語る。

「しゅふJOB総研のアンケートでは、主婦の約7割の人が『短時間での仕事がしたい』と答える一方で、仮に100%の時間を仕事に費やせるとしたら、という条件を加えると、約6割の人が『フルタイムで働きたい』と答えている。キャリアに対する「理想」が、2層構造になっていると感じる。家事・育児の状況や配偶者の勤務環境などを踏まえて遠慮した「理想」と、何も気にせず語る「理想」。これまでは、人事部がキャリアを描いてくれていた。これからは、本当に自分がしたいことする、というのが大事。自分自身が権利と責任を持ってキャリアを作っていくんだ、という認識が重要なのでは」

◆「自由がいいけど、守って欲しい」が本音

 このように、様々な働き方が見えてきている一方で、現在の日本社会では「正社員」という立場のみが手厚く守られているという現状もある。様々な法制度や税金の仕組みが「雇用されている人」を中心として作られている。不利益も多い現状の中で、正社員以外の選択肢を選びやすくするには、どうすれば良いのか。

「タスカジ」の和田氏は、フリーランスという自由さと責任について、共存する感情に着目する。

「フリーランスは、誰からも縛られないという自由もある一方で、守ってもらえることは少ない。現時点でフリーランスとして働くには、とても強い自立心を求められるし、そうでなければサバイブできないという現状もある。強い自立心を持っている人にとってはパラダイスだけれど、自由な状況を望みつつも、守ってほしいという感覚も、みんな持っている」

 一方で、フリーランスを「守りすぎる」ことへの葛藤もある。「プラットフォーマーとしては、守るという意味で手厚い施策を打って、良い人材を囲い込みたいという思いもある。ただ、そうやってどんどん”会社員化”させることに、矛盾も感じる。フリーランスと会社との関係性を、模索しているところ」と和田氏。

 ランサーズでは、フリーランスに対して、コミュニティや成長機会を提供する「新しい働き方LAB」、セーフティネットとなるような会社機能を提供する「Freelance Basics」といったサービスを展開している。

 曽根氏は「自由と責任の両輪で考えなければならない。自由には未来の可能性を、責任にはリスクへの保証を。どちらかを選ばないといけない、というよりも、フリーランスの人たちと一緒にコミュニティを作り、うまく回していける仕組みを作ることができれば良い。プラットフォーマーとしては、やりすぎるのではなく、一定の距離感を保つことも大事だと感じる」と話す。

◆立場によって足を引っ張り合うのはやめよう

「サラリーマンは恵まれているんだから多少の文句を言うな、とか、足を引っ張り合って下に合わせるのではなくて、今非常に不利な立場にある非正規やフリーランスの人たちがそれなりに保障を受けられるようにする必要があるし、ずっとギグエコノミーで食っていくということではなく、フリーになったり社員になったりと行き来できるような形で流動化するといい」と中野氏は語る。

 著書の中ではシンガポールに住む中で、転職が当たり前だったり、住み込みのメイドを雇ったりする海外の文化に触れてはいるものの「グローバルエリートに限られる話というものもあるし、それぞれの国に課題があり、海外のどこかにすべてがうまくいっているモデルがあるとは思っていない」という。「日本のテクノロジーを活用しながら、うまくいく仕組みを作っていけたら良いと思う。日本の女性は、全部自分一人で、高水準の家事・育児をしようとする傾向にある。シェアの概念で、少しでも”全部自分でやらなくてもいい”という状況が生まれれば良い」。

 多様な働き方を、多様な働き方で支え合う。こうしたシェアの考え方が、日本社会における「多様化」の着火剤となると感じた。

<取材・文/汐凪ひかり>

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