老後を謳歌していた債務者に、突然襲い掛かった悲劇<不動産執行人は見た37>

老後を謳歌していた債務者に、突然襲い掛かった悲劇<不動産執行人は見た37>

老後を謳歌していた債務者に、突然襲い掛かった悲劇<不動産執行人は見た37>の画像

◆不動産執行の現場で目の当たりにする「死」や「病」

 有名人や政治家の黒い繋がり、薬物疑惑に不倫、不祥事。

 週刊誌は、日々世間を騒がせるスクープ情報やスキャンダルを鋭い嗅覚で探り出し、目まぐるしい勢いで展開して行かなければならない。

 そんな週刊誌記者と意見を交わす機会も稀にある。

 寝る間を惜しむことなく、コストを気にかけるでもなく日夜スキャンダルを追い求める彼らの姿に、さぞかし費用対効果の大きなコンテンツなのだろうと話を聞いてみると、これらスキャンダルは話題性こそあるものの売上に大きく貢献するものではないという。

 それでは、「今“売上に大きく貢献しているコンテンツ”は何ですか」との問をぶつけてみると、このような言葉が返ってくる。

「“健康”です」

 病気にならないためには、最新の健康法、評判の良い医者、長生きの秘訣、体にいい食事、こんな症状は病の前兆かも……。

 確かに電車の中吊り広告で見かけるお馴染みのフレーズではある。

 差し押さえ・不動産執行。

 この現場には「病気」「怪我」「死」というものが、手を伸ばせばすぐに届く半間(約91cm)の範囲内にコロコロと転がっている。

 そしてこれらに触れなければならない機会も少なからずある。

◆ある日、奥さんが行方不明になった債務者は

 通勤にも便利、とはお世辞にも言い難いマンション。駅からも徒歩15分ほどの距離がある。

 それでも周辺施設にはショッピングモールに温泉、公共施設に憩いの場と、老後を過ごすにはうってつけの場所と言えるかもしれない。

 そんなマンションの一室で我々は債務者のお爺さんが涙ながらに語る身の上話に耳を傾けている。

「こんな状態で生き返らせてくれなんて言ってない!」

 声を荒らげる債務者のお爺さんは介護ベッドに横たわる奥さんの画像、それ以前の楽しい老後生活を満喫していた2人の画像など、およそ2年分を振り返るスライドショーを展開した。

“執行を速やかに終わらせる”という命題はすでに全員が諦めていた。

 お爺さんの話を整頓すると、夫婦で老後生活を謳歌していたある日、買い物にでかけた奥さんが帰宅せず行方不明に。

 そのままヘリコプターまでが出動する大規模な捜索が開始されるもなかなか見つからず、発見の一報が入った際には、既に行方が分からなくなってから1週間以上が経過していた。

◆奥さんは九死に一生を得たが……

 結局、奥さんが発見されたのは自宅からほど近い道路脇側溝の中。

 転倒してはまり込んでしまったためか、身動きが取れずにいたが、1週間以上飲まず食わずの状態で奇跡的にも一命を取り留めることに。

 ここからが想定外だった。

 一命を取り留めたとは言え、脳への後遺症は大きく、過去の断片的な記憶を頼りにうわ言のような独り言を繰り返しているだけで、旦那さんはもとより子どもたちすら認識できない状況に陥っていたのだ。

「生命があっただけ良かったじゃないですか。それより、今回の奇跡的なケースを学会発表したいのですが」

◆生に執着するよりも、死と向き合うことが大切ではないか

 そんな医者の言葉について出たのが先程の台詞だった。

「こんな状態で生き返らせてくれなんて言ってない!」

「人の命を救う」、絶対的正義に満ち溢れるこの言葉の裏側にも、“惜しみ惜しまれながら逝く”という考え方が潜んでいるのだろう。

「生きる」「健康」……もっともらしいテーマではあるが、横行していることはと言えば、脅迫じみた手法で人々の恐怖心を駆り立て、マネタイズを目指すというもの。

 そろそろ異論を投げかけてみても良いのではないだろうか。

「病気」「怪我」「死」、これらの事例を近くで見続けていると、それはある日避けがたいスピードとタイミングで眼の前に現れる。「あっ」と思うのは既に衝突した後の話だ。

 未然防止と称して何かを買わせたり、飲ませたり、食べさせたり、検査に行かせたりすることだけではなく、もう少し「病気」「怪我」「死」と向き合うことの大切さを伝え育んでいくべきではないだろうか。

 最終的には誰もが向き合うしか無い事柄なのだから。

<文/ニポポ(from トンガリキッズ)>

【ニポポ】

ニポポ(from トンガリキッズ)●2005年、トンガリキッズのメンバーとしてスーパーマリオブラザーズ楽曲をフィーチャーした「B-dash!」のスマッシュヒットで40万枚以上のセールスとプラチナディスクを受賞。また、北朝鮮やカルト教団施設などの潜入ルポ、昭和グッズ、珍品コレクションを披露するイベント、週刊誌やWeb媒体での執筆活動、動画配信でも精力的に活動中。

Twitter:@tongarikids

オフィシャルブログ:団塊ジュニアランド!

動画サイト:超ニポポの怪しい動画ワールド!

関連記事(外部サイト)