妻に「モラハラ夫」呼ばわりされているうちが、更生の最後のチャンスである<モラ夫バスターな日々28>

妻に「モラハラ夫」呼ばわりされているうちが、更生の最後のチャンスである<モラ夫バスターな日々28>

漫画/榎本まみ

◆弁護士・大貫憲介の「モラ夫バスターな日々<28>

 先日、仙台在住の男性から私の事務所に電話があった。私が名乗ると男性は、「モラ夫の記事、書くのやめろ」と唐突に要求した。

 私が理由を問うと、男性は、「妻が、俺をモラ夫モラ夫ってうるさい」と説明した。

 なるほど、この連載を読んだ妻が、自らの夫がモラ夫であることに気づいたのだ。この男性は、この連載が終われば、妻が大人しくなると思ったのだろう。

◆モラ夫の最大の異常さは、精神医学上「正常」である点

 ところで、日本の男性は、どのようにモラ夫になるのか。

 従来、モラ夫には、人格障害、愛着障害など何らかの障害があると主張されてきた。

 モラ夫を「発見」した、フランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌは、モラ夫を「自己愛的変質者」と断定している。日本の医療職、心理職の専門家たちも、論者によって指摘する障害は異なるものの、何らかの障害をモラ夫の原因とする者が多い。

 私は、多数の離婚案件を通じて、モラ夫を観察してきた。確かに、人格障害、愛着障害等が強く疑われるモラ夫もいる。しかし、圧倒的多数のモラ夫たちは、正常に社会活動を営み、職場では優しい男性、物分かりの良い男性と評価されていたりする。

 モラ夫に何らかの精神的問題があると考えて、精神科医の診断を受けさせる妻もいるが、私の実務経験の限りでは、精神科医が何らかの障害等を診断した事例は知らない。家庭では、まるで自己愛性人格障害者のように振る舞い、日々、妻をイジメているにもかかわらず、モラ夫たちは、精神医学上、「正常」なのである。

 日本のモラ夫たちの言動は、どこかのモラ夫工場で生産されているのではないかと妄想する程、類似している。夫によるモラハラが、社会的文化的背景に起因するから、類似するのではないか。

 日本のモラ夫たちは、家庭において、妻や子に対する支配者として振る舞い、感謝や尊敬を要求する。妻に対しては、何を言ってもいい、何をしてもいいと言わんばかりの態度をとる一方、妻が意見すると「反抗」とみなし徹底的に弾圧する。

 これは、支配者としての振る舞いであり、(文化的規範としての)イエ制度、男尊女卑、性別役割分担など日本の文化的社会的規範群にその原因があると考えてよいと思う。

◆男の子は、社会化の過程でモラ文化を内在化する

 妻を加害する男性の改善、支援の専門家ランディ・バンクロフト(アメリカ)は、加害者のほうが、正常者よりも、何らかの精神疾患、障害等がみつかる割合は小さいという。バンクロフトは、社会化、すなわち文化的社会的規範を身に付ける過程で、男の子(男性)たちが加害者性を吸収していく旨を論じている。

 バンクロフトの説明は、私を含めた多くの離婚弁護士の観察、経験と一致する。モラ文化は、国により地域により宗教により、その内容が異なるので、アメリカン・モラ夫と日本・モラ夫では、モラの言動類型・傾向に違いが出てくるが、モラ夫になっていく過程は、ほぼ同じなのではないか。

 実際、日本の子どもたちは、幼少の頃から、女の子は家事のお手伝いをするが、男の子は手伝わないことが多い。

 子どもの社会化は、2、3歳頃から始まる。子どもたちは、親の表面的な言葉だけでなく、親の行動や本音からも規範を学ぶ。その結果、親の背中を見、腹の中を理解して、就学前にモラ文化(男尊女卑、性別役割分担などモラ夫を許容、助長する文化的、社会的規範群)を吸収し、人格の基礎部分を形成する規範として内在化する。

 これらの内在化したモラ文化・規範群が、その後の男性の日常的な行動を支配、指導し、男の子は、やがてモラ夫になる。

◆なぜこの連載は、モラ夫やモラ文化を糾弾するのか

 なぜこの連載は、モラ夫やモラ文化を糾弾するのか?

 何度でも述べるが、モラ文化、モラ夫は、日本の結婚を不幸にし、その結果、生涯未婚率、少子高齢化が進行し、日本社会は衰退していく。私は、この現象に気づいた専門家の1人として、これを社会に伝える義務があると信じている。

 そして、嬉しいことに、多くの読者の共感を得ていると思う。何通もの応援メッセージもいただいた。知り合いの女性(数名)からも、「夫が“モラバス”を読んで、少しずつ変わってきた、以前よりも横暴でなくなってきた、是非、モラバスを続けて欲しい」と励まされている。

 あるフォロワーの方は、「『そんなことくらい』『夫婦とはそういうもの』など、モラハラがどこの家庭にでもあるものとして扱われてきた。被害妻の苦しみやモラハラの実態を世に発信してくれることは、とても心強い」と応援のメッセージをくれた。

 また、モラバスの記事に救われた、夫から「お前はダメだ」と言われ続けていたが、必ずしも自分が悪いわけではないことがわかった、離婚の決意がついたなど、多くの被害妻から感謝の言葉を貰っている。

◆妻にモラ夫と呼ばれているうちが更生する最後のチャンス

 冒頭の仙台のご夫婦については、実際にお会いしたわけではないので、具体的にはわからない。しかし、少なくとも妻の目からは、彼はモラ夫である。やめるべきは、この連載ではなく、彼がモラ夫であることであろう。

 モラ夫の根本的原因は、社会化の過程において、人格の基礎にモラ文化が内在化されることにある。したがって、モラ夫をやめるためには、内在化された価値観を書き換える必要がある。そのためには、自らの日常的な言動のログをつけて、それらの問題性や背景となっている価値観の分析、反省を地道に繰り返すしかない。内在化した価値観の書換えには、数年間の期間が必要であろう。

 モラ夫をやめるのは、決して容易ではない。しかし、妻が「モラ夫」と文句を言っているうちに直さないと、妻は、いずれ夫を見捨てて、逃げ出すだろう。

 日本のモラ夫たちに残された時間は、さほど長くはない。

<文/大貫憲介 漫画/榎本まみ>

【大貫憲介】

弁護士、東京第二弁護士会所属。92年、さつき法律事務所を設立。離婚、相続、ハーグ条約、入管/ビザ、外国人案件等などを主に扱う。著書に『入管実務マニュアル』(現代人文社)、『国際結婚マニュアルQ&A』(海風書房)、『アフガニスタンから来たモハメッド君のおはなし〜モハメッド君を助けよう〜』(つげ書房)。ツイッター(@SatsukiLaw)にてモラ夫の実態を公開中

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