キャッシュレス決済で決済時間はどれだけ短縮されるのか?

キャッシュレス決済で決済時間はどれだけ短縮されるのか?

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◆決済速度に関する実証実験

 10月1日から増税が始まる。それに伴い、9か月間のキャッシュレス・ポイント還元も開始される(参照:経済産業省)。スーパーマーケットでも、キャッシュレス決済で還元されるというポスターが貼られていた。キャッシュレス決済を推進したいのは分かるが、できるならば消費税の増税なしで還元をおこなって欲しかった。庶民の懐事情は厳しく、増税はさらなる財布の紐の引き締めになるからだ。

 そうしたキャッシュレス決済に注目が集まる中、クレジットカード会社である JCB のサイトで、決済速度に関する実証実験の結果が発表された(参照:JCB グローバルサイト)。

 100人の被験者を、25人ずつの4つのグループに分けて、現金、クレジットカード、非接触型(QUICPay)、QRコードの4つの決済方法で、購入速度を測ったものだ。

 非接触型に QUICPay を利用しているのは、JCB と当時のイオンクレジットサービス(現イオンフィナンシャルサービス)が共同開発したものだからだ。技術的には、ソニーが開発した FeliCa(Suica にも利用されている)を採用している。カードタイプのものと、「おさいふケータイ」(FeliCaチップ搭載)に対応したモバイルタイプのものがある。QUICPay を体験したことがない人は、Suica での決済をイメージするとよいだろう。

 QRコードについては「代表的なQR決済サービスより4種類を使用」と書いてある。種類の詳細については書いていないが、おそらく PayPay、LINE Pay、楽天ペイ は入るだろう。最後の1つは、Origami Pay あたりだろうか。この4種類の名前が書いていないのは、自社と関係のないサービスだからだろう。

 各決済方法での購入時間の平均は、現金28秒、QRコード17秒、クレジットカード12秒、非接触型8秒となっている。個人的な感想としては、QRコードが思ったよりも速いなと感じる。また非接触型が一番速く、これは体感通りだなと思った。

◆キャッシュレス・ポイント還元の対象になる決済方法

 さて、経済産業省が旗振りをしているキャッシュレス・ポイント還元だが、その対象になる決済方法について見ていこう。この情報は、「キャッシュレス消費者還元事業」というサイトの、「登録されている消費者向けサービスを探す」というページで確認できる。

 大きく分けて「クレジットカード/デビットカード」と「電子マネー/QRコード/その他サービス」の2つに別れている。以下、原稿を執筆した2019年9月8日時点の情報について書いていく。

 「クレジットカード/デビットカード」には、複数のカード発行会社による265のキャッシュレスサービスが掲載されている。

 また「電子マネー/QRコード/その他サービス」には、166のキャッシュレスサービスが掲載されている。決済手段はこの中でさらに細分化されており、「電子マネー/プリペイド」82種類、「QRコード」21種類、「Jデビット」26種類、「その他」37種類がリストにある。

 全て合わせると431種類の決済方法があり、その全てを把握している人はほとんどいないだろう。また、統一的なキャッシュレス決済手段からは、ほど遠い状態だと分かる。

 この全てに対応した決済端末は、現実問題として難しいだろう。実際には10種類対応していれば「すごい多い」ということになるはずだ。

 以下に、昨年盛り上がった印象が強い「QRコード」決済21種類のリストを掲載してみる(掲載順は、キャッシュレス消費者還元事業のサイトのまま)。いくつの決済手段を知っているか、数えてみて欲しい。ほとんどの人は、10未満しか見たことがないだろう。

・ さるぼぼコイン(飛騨信用組合)さるぼぼコイン

・ シモキタコイン(株式会社シモキタコイン)シモキタコイン

・ りそなウォレットサービス(株式会社りそな銀行)りそなプリペイドカード

・ DigiCash(STAGE株式会社)DigiCash

・ 電子地域通貨「アクアコイン」(君津信用組合)電子地域通貨「アクアコイン」

・ LINE Pay オンライン支払い(LINE Pay株式会社)LINE Pay

・ LINE Pay コード支払い(LINE Pay株式会社)LINE Pay

・ 横浜バンクカード(株式会社横浜銀行)横浜バンクカード

・ &Pay(株式会社エムティーアイ)&Pay

・ Money Tap(SBI Ripple Asia株式会社)Money Tap

・ Payどん(株式会社鹿児島銀行)Payどん

・ たんばコイン(たんば商業協同組合)対面での対応

・ まちペイサービス(株式会社まちづくり松山)マチカ

・ おきぎんVISAカード(株式会社沖縄銀行)OKI Pay(オキペイ)

・ YOKA!Pay(よかペイ)(株式会社福岡銀行)銀行Pay

・ d払い(株式会社NTTドコモ)d払い

・ PayPay(PayPay株式会社)PayPay

・ Origami Pay(株式会社Origami)Origami Pay

・ au PAY(KDDI株式会社)au PAY

・ merpay(株式会社メルペイ)merpay

・ 楽天ペイ(楽天ペイメント株式会社)楽天Pay

◆個人でキャッシュレス決済をしている人に、決済時間について聞いてみた

 一方、店舗でなくても、個人でキャッシュレス決済の端末を取り寄せて利用している人もいる。私の友人の中に、同人誌即売会で Suica などの電子マネー決済や、クレジットカード決済を利用している人たちがいる。彼らは一次創作をおこなっており、機器を自分で取り寄せて電子決済系の同人誌を出している。私もたまに売り子を手伝い、機械を操作することもある。

 そうした人たちのもとにも、キャッシュレス・ポイント還元のポスターが届いたそうだ。そこで決済時間やポイント還元を含めて、いくつか質問をしてみた。

【回答者】

サークル「自転車操業」かざみみかぜ。 さん(Web / @kazamimi / 技術書典7 さ28D)

会社「自転車創業」代表。『あの、素晴らしい  をもう一度』などのゲームを開発。最近は PlayStation?VR で『星の欠片の物語、ひとかけら版』を出している。絶賛発売中。

サークル「とこしえ工房」太郎 さん(@tarou_barn / 技術書典7 さ27D)大人の社会科見学が趣味。最新の同人誌は『FXで1000万円溶かしてからの反撃』。

【質問1】

――JCBから決済速度に関する実証実験が発表されました。お二人は、様々な決済手段を利用していますが、各決済速度の時間は体感時間に合致しますか? 合致しない場合はどのように違うのでしょうか?

「自転車操業」かざみみかぜ。さん:QR決済はやっていないので分かりませんが、平均したら概ねこんなものかもしれません。ただ同じ決済方法でも、状況によって速度が異なる為、順位が入れ替わる余地がかなりありそうです。

 クレジットカードは暗証番号を入力したりサインをする場合があるので、これがあると時間が伸びると思います。

 非接触に関しては毎事通信型(決済ごとに通信するタイプ)は少し遅く、蓄積通信型(決済ごとでは通信しない)だと早くなるので、その差があると思います。

 現金は一番遅いとは思いますが、同人イベント会場などでお金が500円単位の物が多く、頒布側と買い手の双方が手筈をわかっている場合はかなり時間が短くなります。

「とこしえ工房」太郎 さん:合致しません。

 実験結果では、非接触<クレジットカード<QRコード<現金の順でしたが、同人誌即売会に限った話だと体感では、現金<非接触<クレジットカード<QRコードの順。

※私のサークルはQRコードには対応していませんが、QRコードは技術書典に限った場合、主催側の用意した物が使えるので、それを参考にしています。

 同人誌即売会の場合、現金で支払う事が前提になっており客側も現金をすぐに取り出せるように準備しているのでこの結果になります。また同人誌即売会の場合、大抵はキリの良い値段(100円単位)になっているので、お釣りに取られる時間も短くて済むのが要因です。

 個人的に利用者側からの視点から見た場合は、非接触<現金<クレジット<QRコードになります。

 このアンケートの時間はどこからどこまでの時間計測か分かりませんが、現実とかなり離れた感じを受けます。一概にクレジットカードと言ってもサイン有り、無しで時間差が出るのでその辺りの事を含めてなのかも分かりません。

 店舗側のタスクとしては楽な順に、非接触<クレジット<現金<QRコードとなるかと思います。店舗側が慣れる以上に客側がどのくらいその決済方法に慣れているかで決済時間は大幅に変化するので、この実験結果も1つの参考例程度に考えた方が良いのだと思います。

【質問2】

――キャッシュレス・ポイント還元について、事前に申請書類を出した以外に、何か事務処理は発生していますか?

「自転車操業」かざみみかぜ。さん:特に何もありません。

「とこしえ工房」太郎 さん: 現時点では何もありません(消費税増税前)。今後も店舗側が何かするようなことは無いとアナウンスされています。

【質問3】

――現金と比べて、キャッシュレス決済のよいところと、悪いところは、どういうところでしょうか?

「自転車操業」かざみみかぜ。 さん:良いところは小銭をごちゃごちゃやりとりしなくて済んだり定期的に銀行からお金を引き出す頻度が激減した事につきます。

 特にセルフガソリンスタンドでおつりの為にレシートを持って精算機を行き来しなくて良いのはとても楽です。

 あと左手を骨折してしばらく使えない時期があったのですが、右手でスマホさえ持てれば決済が完了するのはとても有り難かったです。財布と小銭をやりとりするのは両手が必要なので。

 悪い所まではいきませんが、交通系決済のオートチャージが改札通過の時にしか行われないので、時折手動チャージしなければならないのが面倒に感じてます。

「とこしえ工房」太郎 さん:

**良い点**

 履歴が残る事。これは現金レジでも同様ですが、それ以上に店員の中抜きの防止が出来る事の方が大きいです。

 集計の手間が省ける事。現金レジと違い、中の金額と合っているかの照合の手間が省けます。

 銀行へ預けに行く手間が省ける事。多額の現金を持ち歩かない事。上記については一般的な店舗の場合のメリットだと思います。

 同人誌即売会においてのメリットは“うける”。これくらいしかありません。私のサークルは多額の売り上げがある訳はないので、これ以外のメリットはあまり感じません。

**悪い点**

 種類が多すぎて自分の使いたい決済サービスが店舗側に無い事がある。災害時など電力が失われた場合に使用が出来ない。外部からの攻撃によるデータ流出や偽造の可能性がある。

 使い方を店員に教える手間。決済機導入時の初期投資費用やランニングコスト。手数料。

入金までのタイムラグ。

 これも同人誌即売会においてと言うよりも、一般的な店舗の考えだと思います。同人誌即売会に関してのデメリットは、端末機を置くスペースが取られてしまう事くらいです。

◆決済方法のシステム的な面は課題は残る

 決済速度については、機器の通信方式、客側の習熟の影響が大きいという意見だった。実際問題として、たとえば「QRコード」ならば、レジ待ちのあいだにアプリを立ち上げているかで大きく時間が変わる。決済直前になってスマートフォンを取り出す人もいるだろうから、そうした客側の挙動により、決済時間はまちまちになるだろう。交通系カードなど、非接触系が速いというのは、共通した認識のようだ。

 同人誌即売会では、支払いを簡易化するために、100円単位、あるいは500円と1000円のように、値段が単純化されていることが多い。また、買う側も、100円玉や500円玉を大量に持って来る。こうした特殊な環境では現金が一番短い時間で決済できる。これは同人誌即売会の特殊事情だ。

 ポイント還元の事務処理については、特に煩雑な作業は発生していないようだ。決済事業者と違い、利用しているだけの範囲では、それほど負担はないように感じる。

 キャッシュレス決済の利点については、現金の持ち運びの手間が減ること、集計の手間が省けることが大きいようだ。実際問題、毎日のレジの集計はかなり面倒だ。すぐに金額が合えばよいが、そうならないことが多い。キャッシュレス決済ならば、そうしたエラーが発生せず、瞬時に集計が終わるので省力化に繋がる。

 欠点については、決済方法のシステム的な面が多いようだ。手動でのチャージ、決済サービスへの店舗側の対応、災害時の問題、店員の習熟やコスト面。これらは過渡期ゆえの問題のように思える。

 今後、キャッシュレス決済に社会が向かうことは確実だろう。普及に従いインフラとしての練度が上がり、様々な問題が解決していって欲しい。

<文/柳井政和>

【柳井政和】

やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。

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