凄腕万引きGメンが語る、万引き犯検知AIの有用性とその欠点とは?

凄腕万引きGメンが語る、万引き犯検知AIの有用性とその欠点とは?

蕎麦喰亭 / PIXTA(ピクスタ)

 みなさん、こんにちは。微表情研究家の清水建二です。前回、前々回とお送りしてきました微表情の実務世界―万引きGメン編は今回で最終回となります。シリーズ最終回のトピックは、万引き犯をめぐるAIと人間の関わりについてです。

◆ 現役私服保安員が思う、万引き犯検知AIの長所と短所

 現在、防犯カメラを通じて不審行動を計測するAIが万引き犯を検知したり、万引き常習犯の顔を顔認証カメラが認識し、万引き犯来店時に店の責任者に知らせるなどの技術がすでに一部の店舗では実施されています。これまで自身の目と手で万引き犯の動きを察知し、捕まえてきた、R・T(私服保安員歴10年・30代・男性)さんにこうしたAI技術について伺いました。

「万引き犯検知AIは検知率が高いため、万引きの解決につながっています。保安員の人件費は安くなく、また経験ある保安員と言えども人間なので、ずっと監視していると集中力が落ちます。機械ならコンスタントにモニタリング出来ます。ですので、AIの進展は大いに期待できます」

 このようにAIに期待が持てる一方で、次のような弱点を指摘されます。

「ある万引き犯検知AIの話ですが、そのAIは万引き犯が商品をバックなどに入れる瞬間に万引きを現在実行している可能性を見積もり、それを知らせてくれます。しかし、その前の段階、店内をうろうろしている段階や商品を手にしている段階ではそれを見積もってくれません。私たち保安員なら表情や身体の動き、商品の持ち方などで万引きをしようとしてるかどうかわかることがあります。犯行の瞬間に防犯カメラからフェイドアウトしてしまうと意味がないので、商品をバックに入れるある程度前の段階で怪しい行動を検知してほしいと思います」

◆顔認証システムの欠点とシステムへの期待

 次に顔認証システムについて伺いました。R・Tさんによると、次のような運用がなされているとのことです。

「顔認証システムに万引き常習犯の顔を登録しておきます。常習犯が入店したら、顔認証システム搭載のカメラがその人物を認識し、店舗責任者に通知が行きます。通常、万引き常習者を見つけるには、店の出入り口での張り込みや、店内の巡回でしかわからないのですが、こうしたカメラのおかげで瞬時にわかるため一定の期待を寄せています」

 しかし、R・Tさんは2つの改善点を挙げます。

「一つに、認識システムそのものに誤作動があるため、認識の精度を上げる必要があります。二つに、保安員がいるときは私たち保安員が警戒にあたれますが、私たちがいないときは店舗責任者が警戒にあたる必要があります。しかし、万引き常習犯が入店したことを知らせるアラートが鳴ったとしても、通常のお客さん対応に忙しく、警戒まで手が回らないのです。実際、以上2つのことは現在運用中の防犯ゲートで起きています。防犯ゲートのアラートが鳴れば、レジを通っていない商品をお客様が持っているかどうか確認します。アラートの誤作動があったり、忙しくてアラートに対応できないことがあり、防犯ゲートの電源自体を切ってしまう店舗もあります。顔認証システムも同じになってしまうのではないかという危惧があります」

 そこで現状は顔認証システムを用いた万引き犯検知は、保安員が十分に確保されている、あるいは店舗責任者など利用者が迅速な行動を取ることが出来る、こうした条件が満たされれば有効活用できるのではないかとR・Tさんは述べます。

◆AIと人との役割分担を明確に

 また、R・Tさんは人間の対応法についても工夫やトレーニングが必要だとも言います。

「万引き犯検知AIにせよ、顔認証システムにせよ、アラートに対応するのは人間です。アラートがなったとき、どんな声掛けがトラブルにならないか、誤アラートに対してどんな対応をしていくか、AI技術の進歩とともに私たちの対応も変化させていく必要があります」

 ここで私の質問「将来AIが万引き犯を100%検知できるようになれば誤認逮捕はなくなると思いますか。」に対し、R・Tさんは次のように回答します。

「100%検知できるようになればお店側が(万引き)防止の為に使用する場合に限り、誤認逮捕はなくなることはもちろん、今まで振り回されてきた万引き犯人ではない紛らわしい行動をするだけの不審者を除外し、的確に被疑者をピックアップできます。したがって、必要最低限の時間での対応が(万引きに対して)可能となり、その点において対策にかけるお店側の負担は減ると考えます」

◆万引き犯への人間的な対応可能になる

 私はこの話を伺っていて、私服保安員の仕事内容についても大きな変化が起きるのではと思いました。

 例えば、万引き監視の負担が減少する分、捕まえた後の対応やケアに時間を割くことが可能になるでしょう。これはまさに最初の回で紹介したR・Tさんがモットーにしている説諭、つまり、なぜ万引きをしてしまうのかその背景を考えたり、万引き犯の気持ちを受け止めながら諭していく、少しでもその人の未来がよくなるようにと思いながら対話する、そんなことがこれからの私服保安員の方々により求められてくるのではないかと思いました。

 今回で微表情の実務世界―万引きGメン編は終わりです。次回以降も、微表情を実務に活用されている様々な職業の方々の様子をレポートします。

<取材・文/清水建二>

【清水建二】

株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。

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