「amazonに切り込む政治家は、日本では見当たらない」。ジャーナリスト横田増生が暴くamazonの内幕

「amazonに切り込む政治家は、日本では見当たらない」。ジャーナリスト横田増生が暴くamazonの内幕

Amazonの物流拠点「フルフィルメントセンター」(写真は大阪府堺のもの)  photo by Asacyan via Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)

 『ユニクロ潜入一年』(文藝春秋)で大きな話題を呼んだ“企業から嫌われるジャーナリスト”横田増生氏の2年ぶりの書籍が刊行された。今度のターゲットは究極の勝ち組企業、GAFAの一角を占めるアマゾンだ。

 9月17日に発売された『潜入ルポ amazon帝国』(小学館)の取材範囲は国内にとどまらず、海外にも広く及ぶ。そして、労働者を軽視するオペレーションや、納税から死力を尽くして逃れようとする企業体質、取引企業を締め上げていく弱肉強食的な気質が、グローバルに展開されている事実を掴んでいく。

◆小田原の倉庫から英国議員まで幅広く取材

 全351ページ、10章にも及ぶ力作である。第1章で国内最大の物流センターにアルバイトとして潜入労働、第2章でAmazon正社員からの告発に耳を傾け、第3章ではヤマト運輸と中小配送業者の助手席に乗り込む。

 第4章でヨーロッパに飛び、同じようにAmazonに潜入経験のあるイギリスとフランスのジャーナリストと情報交換し、ドイツで産業別労働組合を組織してストライキを指揮した人物に戦いの様子を聞く。

 第5章では世界一の富豪となった創業者ベゾスの人物像に迫り、第6章ではアマゾンに振り回されるマーケットプレイスの出品者の嘆きに耳を傾ける。第7章でフェイクレビューを書く人物に接触し、第8章では目黒本社でAWS研修を受講する。

 第9章は法人税や売上税の支払いを回避するアマゾンの手法と、このやり方を痛烈に批判するイギリスの国会議員などを取材。第10章では取次や出版社を巻き込んで自社の利益を追求するアマゾンの動きを追う。これらをすべて、一人でこなしていく。

◆「機械が仕事から人間性を奪い去っていく」

 まず印象に残るのは、小田原フルフィルメントセンター(神奈川)への潜入と、そこで働いていたアマゾンの古参正社員による内部告発をまとめた第1章と第2章だろう。

 アマゾンは派遣会社を介して、アルバイトにアルバイトを管理させている。ピッキングは1日2万歩以上も歩く重労働で、作業中に亡くなる人が小田原だけで5年間に5人もいた。

 しかし亡くなっても、香典は派遣会社からの3万円だけで、アマゾンは何の関与もしない。第7章に登場するピカピカの目黒本社との、あまりにも大きな労働環境の格差について考えさせられる。

 インパクトがあるのは「ヨーロッパを徘徊するアマゾンという妖怪」と名付けられた第4章だ。ロンドン近郊の物流センターに潜入取材をしたセルビー氏が見た光景はグロテスクなものだった。

 小田原の物流センターでは、東京ドーム4個分の大きさのスペースを歩き回り、ピッキング作業を行う。しかしその倉庫では逆だった。人が2メートル四方のスペースに押し込められ、そこに棚の方からやってくる方式になっていたのだ。

「たしかに、これだと歩く距離は減るけれど、仕事の密度という意味では、こちらの方がはるかに濃くなる。(中略)ロボットが入ってきたことで、働く人間にはより窮屈になった。機械が仕事の主役となり、仕事から人間性をさらに奪い取っていく感じだったね」

◆ドイツでは1年間で40回のストライキ実施

 またイギリスでは、英国議会がアマゾンのイギリス法人のトップに対し、下請けドライバーの労働環境を調査するよう公開書簡を送っている。これを聞いた横田氏は、こんな感慨を漏らしている。

「イギリスの国会議員はフットワークが軽いなぁ。アマゾンの労働問題に限らず、(中略)アマゾンの租税回避でもイギリスの国会議員が積極的にアマゾンに攻め込んでいる。同じようにアマゾンに切り込んでいく政治家は、残念ながら日本では見当たらない」

 ドイツのライプチヒの物流センターで労働組合に参加するメンバーの話も、臨場感に溢れている。

「昨年(17年)は、1年間で40回のストを打ちました。そのうち、30回はストライキ会議のメンバーが赤い笛を思いっきり吹くことではじまります。大まかな予定については、SNSやメールで組合員に前もって伝えていますが、正確な時間は決めず、アマゾン側の不意を打つような形ではじめるのです」

 これに対し、会社はセンター内の人員配置を変更するほか、隣国のポーランドに注文を回してしのごうとする。

 しかし労組はポーランドの労働者とも連絡を取り小規模なストを打つことで「アマゾンの経営に打撃を与えるような戦略」をとっているという。この闘争を経て実際に賃金が上がっているというから、見事なものだ。

◆「勝ち組企業」を礼賛する風潮に一撃

 このように横田氏は、アマゾンに関する問題を洗いざらいに明らかにするだけでなく、ヨーロッパの先進的な取り組みによって改善が図られている例までを、縦横無尽に取材して回る。横田氏の反骨精神が分かる一節が、あとがきに書かれている。

「アマゾンを世界の“勝ち組企業”として礼賛する情報があふれる現状で、少しでも違う見方ができるような視点を心がけ、この書籍を書いた」

 これを読んで思い出したのが、「プレジデント」2015年3月2日号の対談記事だ。ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、漫画家の弘兼憲史氏とこんなやりとりをしていた。

弘兼「柳井さんは卓越した経営者ですが、パーティや会食などには消極的なので、人柄も誤解されがちです」(略)

柳井「悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど。会社見学をしてもらって、あるいは社員やアルバイトとしてうちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたいですね」

 これを読んだ横田氏は「ならば自分が働いて書いてやろう」と考え、あの『ユニクロ潜入一年』を書いたきっかけとなったのである。

 勝ち組でありながら、利益を生み出すしくみについては徹底した秘密主義を貫き、その裏にある影の部分を決して明かそうとしない点は、ファストリもAmazonも似ている。そこが横田氏の闘争心に火を点けた。今回のアマゾン本も、これぞジャーナリストの仕事と思わせる凄みがある。

【高田康秀】

1967年生まれ。出版社、ウェブメディアを経て、上場企業のマネージャーをしながらビジネス、法律分野のウェブサイトに寄稿。

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