なぜ「計画運休」しても混乱するのか? 背景にはメディアの報道姿勢も

なぜ「計画運休」しても混乱するのか? 背景にはメディアの報道姿勢も

9月8日、台風15号の接近による列車の運休情報を駅に掲示するJR川口駅の駅員(写真/時事通信社)

 台風がやってくるたびに騒がれる「計画運休」。首都圏を襲った台風15号では、台風そのものが過ぎ去った月曜日の朝、通勤・通学が大混乱に陥った。昨年9月末にも同様に台風一過の朝に混乱を招いたのにも関わらず、またもや同じことが繰り返されたのだ。

◆週末であったこともマイナスに

 いったい、計画運休とは何なのか。そしてそれはなぜ“失敗”するのか。鉄道ライターの境正雄氏は、次のように指摘する。

「“計画”とあるからには、字義通りに解釈すれば事前に計画を立てて運休するということを意味するはず。その計画には、単に台風による風雨から鉄道の安全を守るための運休というだけでなく、台風が過ぎたあとの運転再開までも含んだものであるはずです」

 しかし、実際に混乱を招いたのは台風一過の朝、運転再開を巡ってのもの。JR東日本では9月9日の朝8時ごろまで運転を見合わせ、その後再開していくとしていた。台風の通過そのものは深夜であり、もともと電車の走っていない時間だから直接的な影響はない。そうしたことから、多くの利用者たちは“予定通り8時には再開しているはずだ”と踏んで駅に向かった。ところが、実際にはスムーズに運転再開ができたとは言えず、長蛇の列が駅にできるなど混乱につながったのだ。

「台風などの自然災害では、運転再開までに多くの手続きが必要になります。第一に、線路や架線などの施設が無事であるかどうかの確認。基本的には各社職員が直接見て点検することになっており、そこに時間がかかる。今回の台風15号では、“点検は午前8時頃までに終わるはず”という見込みから運転再開時刻を決定したと思われます。

 ただ、それはあくまでも“点検によって無事が確認された場合”。万が一、倒木や路盤の流失などの被害が見つかれば、それだけ運転再開は遅れることになります。こうしたことを踏まえれば、午前8時の運転再開は現実的ではなかったと言えるでしょう」

 境氏は、「鉄道の運行という点だけで言えば、JR東日本など鉄道各社は午前8時などと言わずに、午前中いっぱいは点検などのために運休すると発表しておけばよかった」と話す。実際、そうしていれば運休しているとわかって駅にやってくる人は少なく、ある程度混乱を抑えることはできただろう。しかし、「それも現実的には難しい」とも言う。

「台風がやってきたのは日曜日から月曜日にかけて。多くの会社や学校は休みです。そのため、日曜日になってから『月曜の午前中は運休です』と発表されても休校などの対応ができなくなり、かえって社会活動に問題が起こる。それをわかっていて、おいそれと『午前中運休』などとは言えないでしょう。特に首都圏などの大都市圏では、社会活動そのものが鉄道によって支えられている以上、“余裕を持って運休します”とは言いにくいのでは」

◆各社一律での計画運休は困難

 昨年のトラブルを踏まえて、国土交通省は台風などに伴う計画運休に際しては48時間前に計画運休の可能性を発表するよう各社に求めている。ただ、今回の台風15号では48時間前でも会社や学校が休みになる土曜日。国交省の定めたスキーム通りにしていても、ある程度の混乱が起こることは避けられなかっただろう。

 また、混乱を招く要因のひとつとして挙げられるのが、鉄道会社による対応の違いだ。たとえば、台風15号では多くの事業者が月曜早朝は運転を見合わせたのに対して、西武鉄道はほとんどの路線で朝から運転を再開していた。これが「最寄りの路線が動いていたから乗ってきたのに、都心に来たら停まっていた」などという事態を招いて混乱に拍車をかけるのだ。

 そこで、一部では「運休や運転再開を各社一律に決めるべき」という指摘もある。はたしてそれは実現可能なのか? 境氏は「難しい」と話す。

「そもそも自然災害時の鉄道の運休は各社それぞれが設けている基準によります。風速や雨量、地震であれば震度などの基準があり、一定の基準を超えたら運転をストップする。地震は起きてみないとわかりませんが、台風であればある程度風速・雨量が予測できるので、それに基づいて運休の可能性を検討するのです。

 ただ、この基準は各社バラバラ。さらに同一事業者でも線区によって異なります。防風柵があるところとないところでは風速の基準が変わるのも当然ですから。さらに、運転再開までの流れも会社ごとに異なり、それを強制的に統一させるのは不可能に近い」

◆独り歩きする「計画運休」という言葉

 ならば、この台風襲来と計画運休のトラブルは、今後も繰り返されてしまうのだろうか? 境氏は「そもそも、『計画運休』などという言葉を使うからおかしくなる」と指摘する。

「計画運休は’14年にJR西日本が初めて実施しています。10月の台風19号に際して行ったもので、一定のエリアの運休を事前に告知して実際に運転を見合わせた。ただし、このときには実際には台風は直撃せず、いわば“空振り”に終わったのです。しかし、事前に告知したこともあって運休は“計画”通り行われた。以降、計画運休という言葉が広く使われるようになってきました」

 しかし、少しずつ言葉の持つ意味が変わってきているというのだ。

「最近では計画の有無は度外視して、台風が来るときの鉄道の運行計画そのものを“計画運休”と呼ぶ傾向が特にメディアの間で強くなっています。ただ、もともと台風が来れば風速や雨量が基準値を上回ることは間違いないので、運休するのは当たり前。そして今も千葉県では一部線区で運転見合わせが続いていることからもわかるように、台風が過ぎ去っても被害があればすぐに運転再開はできない。そんなことは昔から当然のことなのです。すべての鉄道の事業者は、台風襲来が予想されれば事前に運休の可能性も含めた計画を立てていました」

 たしかに、「計画運休」という言葉が登場する前から台風が来れば会社に行くにはどうするか、夜中に通過しても朝は電車が乱れているかもしれないな、などと誰もが考えていたはずだ。ところが、「計画運休」が独り歩きした結果、近年のようなトラブルを招いているというのだ。

「“計画”を冠する言葉を使うことで、利用者に『計画しているのだから予定通り運転再開するだろう』と誤解を与えているのではないでしょうか。もちろんここ数年は台風に限らずゲリラ豪雨などの自然災害の激甚化が激しく、頻度も多くなっているのは事実です。そのため、鉄道各社も想像できないような被害が出ている。けれど、“計画”運休なのであればそれも計画のうちに含まれていると利用者が思うのも無理はない。ですから、思い切って社会活動そのものをストップさせるリスクも背負って余裕のある運休を発表するか、そうでなければ“計画運休”などという言葉は使うべきではないと思います」

 実際、鉄道会社自らが「計画運休を実施する」と言っているケースは意外に少ない。単に「台風による影響で運転を見合わせる」「台風の影響で午前8時ごろまで運転を見合わせて線路などの点検を行い、安全が確認されたら再開する」と言っているだけだ。

 ところが、メディアがこぞって「計画運休」という言葉を持ち上げる。結果、それが利用者に誤解を招き、混乱を呼ぶ。メディアとしても鉄道会社が運転再開時間を発表しているのだからそれを報じているだけなのだろうが、それでは本来の役割を果たしているとは言えないだろう。

◆メディアの報道姿勢も悪化の要因

 境氏は、「首都圏のように利用者数も路線の数も多く、相互直通運転によって運転系統も複雑になっているところでは混乱をゼロにすることは難しい」としたうえで、次のように提言する。

「まずは鉄道各社にはより丁寧な説明・情報提供を求めたい。台風が来ればどのような被害が想定されるのか、そしてその被害から復旧するにはどれだけかかるのか。そうした情報を事前にしっかり伝えることが重要です。ただし、こうした情報はツイッターなどで利用者に直接伝えるとかえってわかりにくい。そこでメディアがこうした情報も含めてしっかりと報じるべきです」

 単に「午前8時頃に運転再開するとしています」とニュースを読むのではなく、「これだけの台風だから、被害が見つかって運転再開がずれ込む可能性も」などとより具体的に報じていれば、今回のような混乱は少しでも軽減させることができたかもしれない。これからやってくる台風や自然災害では果たしてどうなるか。「そもそも自然災害が起これば交通が混乱するのは当たり前」(境氏)であることを肝に銘じ、利用者ひとりひとりがしっかりと情報を得て適切な判断をする必要もありそうだ。

<取材・文/HBO編集部>

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