16歳の環境活動家、トゥンベリさんの表情を分析。国連演説で感情が先行したように見えた理由

16歳の環境活動家、トゥンベリさんの表情を分析。国連演説で感情が先行したように見えた理由

(Photo by Jesus Merida/SOPA Images/LightRocket via Getty Images)

◆グレタさんが国連演説で見せた表情の意味

 みなさん、こんにちは。微表情研究家の清水建二です。本日は、9月23日にニューヨークで開催された国連の温暖化サミットでのグレタ・トゥンベリ氏の表情分析を通じて彼女の心理及び私たちに与えるメッセージ性を考えたいと思います。

 分析に用いた動画は、「16歳グレタ・トゥンベリさん 温暖化対策で涙の訴え【全文】」テレ東ニュースです。

 また、比較のために用いた動画は、「環境活動家グレタ ・トゥーンベリ:『TEDxStockholm』プレゼンテーション」Himalaya Awarenessです。

 結論から書きます。国連でのトゥンベリ氏のスピーチは、感情の高ぶりが大きいゆえ、私たちの情に訴える効果がある一方で、私たちの理に語りかける効果は不足している、と考えます。また今回のスピーチに比べ、TEDでのスピーチは、感情と言葉とが調和していることから、今回のスピーチが特別なものであったと考えることが出来ます。

 この結論に至ったプロセスは次の通りです。

◆強い表情筋の動きを伴う感情の高まり

 感情の高ぶりが大きい様子は、怒り・嫌悪・軽蔑・恐怖と様々な感情を示す表情筋の動きが連続的に、ときに混ざり合って生じ、さらにとても強い表情筋の動きを伴って生じていることからわかります。

 私たちが感情的になる、すなわち、表情が強く動くというときは、その対象を真剣に考えている、大切に思っている、そうした重大な変化のために行動を起こす、またそれらの想いを他者に伝えたいときです。

 5分間のスピーチの中で、トゥンベリ氏の感情の高ぶりが最も大きいのは、前半1/3部分です。そのメッセージの要諦は、環境問題の解決を先送りし、自分の世代及び未来の世代に肩代わりさせようとしていることに憤慨している、というようにまとめられるでしょう。

 典型的な表情の例として0:00:45があります。「眉が中央に引き寄せられる」+「上まぶたが引き上げられる」+「下まぶたに力が入れられる」動きから怒り、「鼻にしわが寄る」+「上唇が引き上げられる」動きから嫌悪、「左側の口角が引き上げられる」動きから軽蔑の混合表情が生じていることが読みとれます。

 こうした感情が、スピーチの中でときに同時にときに連続的に強い表情筋の動きを伴って何度も現れています。環境問題の解決に明確な指針や行動を示せない私たちにその必要性を切に訴えるトゥンベリ氏の想いが伝わってきます。

◆行動の起爆剤としての怒り・嫌悪・軽蔑の混合表情

 さらに、トゥンベリ氏の感情的なスピーチは、すでに環境問題に関心がある方々に対しては実際に行動を起こす起爆剤となる可能性が大いに考えられます。

 その理由は、ある特定の考えを共有する集団の前で、そのリーダーが怒り・嫌悪・軽蔑の混合表情をスピーチ中に表すと、単一の怒りや軽蔑を表す場合に比べ、その集団は行動に向かう傾向にあることがわかっています。怒りと嫌悪は、問題解決を阻む障壁を壊そうとする行動を促し、軽蔑は問題を引き起こす人々を道徳的に卑下することで集団の結束を深める行動を促すのです。

 一方で、今回のトゥンベリ氏のスピーチは、感情に言葉が適切に乗っていません。感情が先行することで、理性的な言葉が適切に扱えておらず、手元のメモを時々見ながら、トゥンベリ氏はスピーチをします。

 このことによって理性的に説得を試みようとする印象が伝わりにくくなります。「感情的になっているだけで理性的に考えていないのではないか」という印象を抱く方もいるかも知れません。

 16歳という子どもと大人の狭間が引き起こす微妙な心理状態、そして多数の聴衆の前でのスピーチ。メモを観てしまうことや感情が先行することは仕方のないことであり、感情が先行する方が16歳らしいと考えることも出来るでしょう。

◆感情に言葉が乗らない理由は?

 しかし、2018年11月24日のTEDxStockholmでのトゥンベリ氏のスピーチを観ると、感情が多彩な表情となって現れながらも、言葉と調和し、トゥンベリ氏の想いが私たちの情と理にバランスよく伝わってきます。

 つまり、トゥンベリ氏は感情的になりながらも理性的な言葉を紡ぐスピーチスキルを持っているのだと考えられます。

 しかし、今回のニューヨークでは、感情が先行しているのです。その理由はわかりません。ただの準備不足だったのかも知れません。あるいは、一向に好転しない環境問題に対する危機感が募った結果なのかも知れません。はたまた、全く違う理由があるのかも知れません。少なくとも言えることは、今回のスピーチが氏にとって特別であったということです。

 様々なステークホルダーが入り混じり、その捉え方によって、集団はもちろん、自身の考え方や今後の生き方までも不可逆に変え得る環境問題。感情的にも理性的にもならざるを得ない問題です。今後もトゥンベリ氏の活動を追いたいと思います。

<文/清水建二>

【清水建二】

株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。

関連記事(外部サイト)