「授業の一環」としてのオリンピック観戦、生徒の熱中症対策は十分なのか。

「授業の一環」としてのオリンピック観戦、生徒の熱中症対策は十分なのか。

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◆観戦に参加しなければ「欠席扱い」

 東京消防庁によると、平成30年(2018年)から過去5年間の救急搬送人員は、前年に比べ、すべての年齢区分で増加していた。

 来年は救急搬送される人がさらに増え、1万人を突破することが見込まれる。だが、こうした殺人的な酷暑の中、「授業」の一環として五輪の観戦に行く子どもと教員、保護者が熱中症になったら、一体どうするのだろうか。

 東京都内のすべての公立校では、2016年度から「東京都オリンピック・パラリンピック教育」が行われており、希望校にはチケット代を都が負担する形で観戦機会を提供している。このチケットばらまきについて、「観戦を半ば強制しているのではないか」という疑問の声が上がっている。

 教育委員会が「希望校」といっても、校長先生の中には教委の意向を忖度して「希望しない」という選択ができない人もいるだろうし、同じ学校から百人単位で観戦することになれば、殺人的な酷暑を嫌がる子でも、友達どうしの間で仲間外れになりたくないために同調圧力に負けてしまうからだ。

 東京都教育庁指導企画課の担当課長は、HUFFPOSTの取材にこう答えている。

「幼稚園から高校までの公立校を対象にしています。観戦を希望するかどうかについても、学校の判断にお任せしています。あくまで授業の一環なので、参加しなければ欠席扱いにはなると思います。ただ、夏休み中のことなので、『欠席はダメ』とは考えていません。都が学校や子どもに対して一律に『ああしろ、こうしろ』と言うことはしません」(HUFFPOST2019年07月29日より一部を抜粋)

 教員は、専権をもつ校長には逆らえない。かといって、外国人を含む万単位の観客が集まる会場へ大人数の生徒を夏休み期間中の教員だけで引率するのは困難。そのため、親が引率に駆り出される学校も出てくるだろう。

 そうした学校の事情を信頼し、親が無条件に従った結果、石巻市の大川小学校では3・11の大津波で多くの子どもや教員が亡くなった。異常気象による熱中症も、子ども自身が自分の健康を判断し、酷暑に耐えられる自信がなければ、いつでも自発的に返上していいと訴えておかなければ、担任の教員に導かれるまま、観戦中に死に至ることにもなりかねない。

 万が一、この「信頼による悲劇」が繰り返されれば、熱中症の責任を学校に問いただすだけむなしい。では、子どもたちを守るために、校長会やPTAはどんな対策を講じているのか?

◆「授業の一環」としての子どもの五輪観戦における熱中症が親の責任?

 都内の校長会、教育委員会、PTAにメールを送り、五輪を観戦する子どもたちを熱中症から守るためどんな対策を講じているのか、子どもが熱中症になったら誰が責任を取るのか、といった点を質問した。

 以下、回答をそのまま紹介する。

「東京都公立小学校長会は職能団体であり、校長会として各校に指示を出すようなことはございません。いただいいたご質問の内容につきましては、東京都教育委員会や各市区町村教育委員会の対応となるものであり、責任ある回答はできかねます。東京都公立小学校長会といたしましては、改めて東京都教育委員会及び各教育委員会にお尋ねいただきたく存じます」

(東京都公立小学校長会 会長・喜名朝博)

「ご質問の内容については、教育委員会の対応になると思われますので、東京都中学校長会としては教育委員会にお尋ねいただきたく存じます」

(東京都中学校長会 事務局)

「ご質問の内容については、教育委員会の対応になると思われますので、校長協会としては教育委員会にお尋ねいただきたく存じます」

(東京都公立高等学校協会 事務局長)

 校長会は、いずれも教育委員会の下部組織ではなく、独立した民間団体である。だが、児童・生徒の熱中症リスクについては、独自の危機感で動くことはなく、教育委員会に丸投げした。

 そこで、今度は教育委員会に同様の質問をしてみた。教育委員会からの回答は、こうだった。

「都教育委員会では、今般、区市町村教育委員会、都立学校と調整しながら競技観戦における各学校への割当等を行っております。競技観戦にあたっては、幼児・児童・生徒の健康や安全が第一であると考えています。

 本競技観戦は、学校の教育活動の一環として実施することになるため、大会組織委員会、オリンピック・パラリンピック準備局、環境局等の関係機関と連携し、子供たちにとってかけがえのない心のレガシーとなるように、準備を進めてまいります」

(東京都 教育庁指導部 指導企画課 オリンピック・パラリンピック教育担当)

 校長会も教委も、質問にどれ一つもまともに答えられなかった。彼らは、熱中症のリスクの大きさを理解できないようだ。では、子どもを守る親の会であるPTAを取りまとめる組織はどうか?

◆医療の専門家ですら警鐘を鳴らす酷暑に、子どもは耐えられるか?

 東京都小学校PTA協議会、東京都公立中学校PTA協議会、東京都公立高等学校PTA連合会にも同様の質問メールを送ったが、いずれも回答はなかった。つまり、親権者が個別に子どもの熱中症リスクの責任を負うしかないのだ。これでは、PTAの役員離れが進むのも道理だ。

 校長会にも、教委にも、PTAにも、熱中症から子どもを守る熱意や責任は感じられない。もはや、子どもにとっては、自分たち自身でリスクを考え、友達を誘い合ってみんなで観戦をボイコットする以外に、身を守る方法はない。チケットを返上するのも、子ども自身の自由。それが、自己責任で死ぬよりマシな最善の選択肢といえる。

 五輪の組織委は、財務も会議録も公表しないし、熱中症対策もお遊び程度。ボランティアや観戦者、選手に対してすら、「参加したい人は自己責任」の姿勢を貫いている。

 せめて五輪の選手やボランティア、観客、スタッフに病人、死人が出た際はすぐに発表してほしいが、IOCにすら平気で「日本の夏は温暖」「4000億円で開催できる」とウソをついて世界中をだましてきた組織委に「3度目の正直」はあるだろうか?

◆「子どもたちが熱中症になった場合の責任が、引率した教師に降りかかってしまう」

 昨年11月、日本医師会と東京都医師会は桜田義孝・五輪相と面会し、マラソンのスタート時間を午前7時から5時半に前倒しすることを要望した。これを受け、組織委は今年4月、50キロ競歩(8月8日)を午前5時半に前倒しする日程を発表。

(※今年の8月8日の最高気温は35.5℃。「運動は原則中止」の酷暑レベルだった)

 しかし、2017〜2018年の夏に午前5時から10時までコースを検証した中京大の松本孝朗・教授(運動生理学)の研究グループは、「熱中症リスクはほとんど緩和されていない」と指摘。今年9月19日の日本体力医学会大会(茨城県つくば市)で、競歩コース全体への天幕の設置を改めて提言した(朝日新聞2019年9月17日付より)。

 医療の専門家が懸念する熱中症に対する五輪関係者の無策や、組織委の無責任ぶりについて、早くからさまざまな五輪問題を指摘し、著書『ブラックボランティア』(角川新書)にまとめた作家の本間龍さんは、以下のように語った。

「校長会や教委の無策・無責任ぶりには驚かされるが、オリパラ組織員会の無責任さはこの上を行っている。

 私は9月に組織委に対し、ボランティアや観客(小中学校の子どもたち含む)が熱中症になった場合は組織委が責任を取るのかと公開質問したが、それに対する答えは『ケースバイケース』『組織委の責任に帰する場合は責任を取る』など、全く要領を得ないものだった。

 このままでは無責任の連鎖により、最終的に子どもたちが熱中症にかかった場合の責任は、全て引率した教師に降りかかってしまう。こんな馬鹿げたことは、絶対に阻止しなければならない。弁護士や医師などを入れた追及団体を立ち上げて、公式な声明と公開質問、公開討論を仕掛けた方が良い」

<文/今一生>

【今一生】

フリーライター&書籍編集者。

1997年、『日本一醜い親への手紙』3部作をCreate Media名義で企画・編集し、「アダルトチルドレン」ブームを牽引。1999年、被虐待児童とDV妻が経済的かつ合法的に自立できる本『完全家出マニュアル』を発表。そこで造語した「プチ家出」は流行語に。

その後、社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャルビジネスの取材を続け、2007年に東京大学で自主ゼミの講師に招かれる。2011年3月11日以後は、日本財団など全国各地でソーシャルデザインに関する講演を精力的に行う。

著書に、『よのなかを変える技術14歳からのソーシャルデザイン入門』(河出書房新社)など多数。最新刊は、『日本一醜い親への手紙そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO)。

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