「脳に障害を持つ娘が心配」。日本に庇護を求めてやってきたクルド人の苦悩

「脳に障害を持つ娘が心配」。日本に庇護を求めてやってきたクルド人の苦悩

父親のメメットさんとAさん。Aさんはお父さんのことが大好きだ

◆トルコに帰ったら捕まってしまう

 東京入管で収容されて1年4か月のメメット・オズチャルギルさんは現在、トルコ国籍クルド人の中で最も長い拘束となる。未だ仮放免される気配がない。

 メメットさんは2009年に長男のいる日本へ入国し、難民申請をした。申請中にもらえる半年の特定活動ビザを取得し、更新しながら暮らしを立てていくこととなる。2年後には残りの家族も日本に呼び寄せ、家族もまた同様にビザを取得することができた。

 しかし10年も日本で生活をしていたのに、今になって難民申請を却下され、その後メメットさんだけがビザを失った。そして、ついに収容されてしまった。

 メメットさんは、トルコでいとこが反政府活動に参加していたことで、メメットさん本人も巻き込まれ疑いをかけられてしまった。憲兵の尋問を何度も受ける日々にうんざりしたメメットさんは「ここでは暮らせない」と感じ、日本へ来日した。

 現在、おとなしい性格の彼は、決して入管職員や同室の人たちと反目することなく、静かに収容生活を耐えている。筆者が面会すると、メメットさんは優しい笑顔で迎えてくれる。収容当時はほとんど日本語を話せなかったが、今ではだいぶ上達している。

「国危ない、本当だよ。長男も危ない。帰ったら捕まる、刑務所。帰れないから辛くてもここにいる。担当さん(入管職員)は、本当はわかっている。すぐ帰る人と、どうしても帰れない人がいること」

◆脳に障害を持った娘のことが心配

「絶対にトルコには帰りたくない」という意思を見せているメメットさんには、どうしても頭を悩ませている問題がある。脳に障害を持つ娘Aさん(28歳)のことが心配で仕方がないのだという。

 まだトルコにいたときに、憲兵がメメットさんの家に家宅捜査にやってきた。家族で階段をあがり、屋根まで逃げた。その時に、まだ3歳だったAさんは2階の屋根から落ちてしまい、強く頭を打った。以来、話すこともままならないほど脳に重度の障害が残ってしまったという。メメットさんは「3歳のまま時が止まってしまった」と話す。

 娘は、大好きだった父親が収容され、近くにいないことでさらに精神が不安定になり、大声を出したり暴れたり、母親ひとりではとても手に負えない状態になっているという。

 長男は日本人女性と結婚し、都内で暮らしている。しかしAさんが夜中に暴れるたびに、母と長男はAさんのいるアパートに急いで駆けつけ、Aさんを押さえつけたり、なだめたりと、疲れ果てる日々が続いた。

 筆者が長男に「そんなに手に負えない状態なのですか?」と聞くと、長男は、腕を見せてくれた。そこには、Aさんに傷つけられた深い傷跡が生々しく残されていた。

 今も母親が1人で娘の面倒をみているが、買い物も料理もAさんの対応に追われて難しい。食事から下の世話まで、母親が一人でやらなければいけない。2人にはビザがまだあり、障害者手帳も持っている。しかし、とてもヘルパーを雇える余裕などはない。

 母親は「メメットさんが収容されてからAさんの状態が悪化して、飲まなければならない薬の量がとても増えた。しかし全然、飲んでくれない」とたいへん困っている様子だった。せめて父親さえ戻って来てくれれば、少しは安定することができるのに……。母親の介護疲れは限界を越えているようだった。

◆なぜ日本は、庇護を求める外国人を受け入れないのか

 メメットさんの家族を支援している「クルドを知る会」代表の松沢秀延さんに話を聞いた。

「メメットさんの解放のために署名を集め、申し入れのたびに提出しています。申し入れももう3回やりました。1日も早く仮放免をもらって、家族が元通りになってほしい。父親が戻らなければ、娘さんの病状は悪くなる一方で、お母さんも疲弊しています。家族の分断は悪循環です。署名にどれだけの意味があるかはわかりません。でも、やらないよりはやったほうがよっぽどいいと思って、集めています。メメットさんが解放されるまで続けていこうと思います」

 担当弁護士の大橋毅弁護士はこう語る。

「以前は難民申請が却下されても、半年の特定活動ビザを取り上げられてしまうことは、ほとんどありませんでした。2015年9月に、法務省の(入国管理局長名で出された仮放免者の監視強化の運用に関する)通達が各地方局に出て以降、半年のビザすらも取り消されていく人が増えていきました」

 メメットさんは難民として、日本に庇護を求めてきただけだった。10年ビザがあり、ただひたすら真面目に家族とともに生きてきた。それなのに今さら、法務省の都合で取り消すというのは、あまりにも人道に欠けたやり方ではないだろうか。

 彼らの人生をあまりにも軽んじていないだろうか。これで難民条約を結んだ先進国だと、堂々と言えるのだろうか。この国の闇に底はない。

<文/織田朝日>

【織田朝日】

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