京大「自由の学風」はどこへ……「オルガ先生像」設置で処分されそうな学生を直撃

京都大学で学生への処分相次ぐ 処分を検討されている学生がインタビューに答える

記事まとめ

  • 学生文化が根強く残り「自由の学風」で知られる京都大学で、学生への処分相次いでいる
  • 「オルガ先生像」を制作・展示したことで処分が検討されている学生が取材を受けている
  • 学生は「こんなことで処分されてしまうのかと。本当に悔しいです」と話している

京大「自由の学風」はどこへ……「オルガ先生像」設置で処分されそうな学生を直撃

京大「自由の学風」はどこへ……「オルガ先生像」設置で処分されそうな学生を直撃

オルガ像

◆「自由の学風」? 京都大学で学生への処分相次ぐ

 京都大学といえば、今でも自治寮や学生運動などといった大学での学生文化が根強く残る「自由の学風」で知られている。しかし吉田寮の廃寮問題や今年の9月12日に公表された三学生に対する無期停学処分などに象徴されるように、学生の自由が大学側から認められなくなりつつあるのが現状だ。

 同じく9月12日、理学部4年生のNさんも処分を検討されていることが判明した。今年2月の京大入試で、20年近く続く伝統となっている「折田先生像」に対抗して「オルガ先生像」を制作・展示したことが問題視されたのだ。筆者は、渦中のNさんを直撃した。

◆折田先生像はいいのに「オルガ先生像」はダメ?:Nさんの訴え

――今年2月の入試でNさんが設置した「オルガ像」とはどういうものですか。

Nさん:2015年から2017年にかけて放送されたガンダムシリーズの『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』というアニメ作品があります。この作品に登場する主人公サイドの組織・鉄華団の団長であるオルガ・イツカというキャラクターはネットで大人気で、僕自身も好きでした。オルガ団長が散り際に放った「止まるんじゃねぇぞ……」という台詞はどこかで聞いたことがある人も多いと思います。

――なぜそのキャラクターの像を京大の入試の日に建てようと考えたのですか。

Nさん:京大にはここ二十年くらい、入試の日に「折田先生像」(京大の前身となった旧制第三高等学校の初代校長・折田彦市のこと)を学生が制作して建てるという文化があります。ただ「折田先生像」というのは名ばかりで、芸人のコウメ太夫や『どうぶつの森』のリセットさんなどが毎年折田先生像と題されて建てられています。

 これは大学当局も黙認していて、10年ほど前には京大の公式ホームページに「平成20年度版 折田先生像について」というページが作られ、てんどんまんやポコちゃんの「折田先生像」が取り上げられ、「出来映えが素晴らしい」などと肯定的な評価を与えられていました。

 僕はこうした京大の「おもろい」伝統が好きだったので、今年は「折田先生像」に対抗して、「オルガ先生像」を作ろうと思ったんです。

――どれくらい反響がありましたか。

Nさん:設置した日から話題になり、ねとらぼやハフポストなどのメディアに取り上げてもらいました。Twitterで上げられていた写真は数万リツイートされ、『鉄血のオルフェンズ』の絵コンテや作画監督を担当された大張正己さんにも言及してもらいました。

――「オルガ先生像」を建てる前にも創作活動はしていたのですか。

Nさん:京大にこうした文化があることは大学入試の当日まで知らず、折田先生像をはじめとする京大の自由な学生文化を見て感銘を受けました。2015年度に京大に入学し、表立った創作活動をやり始めたのは2016年でした。

 僕がやってきた中で最初に話題になったのは「ごちうさ総選挙」でしたね。2017年の衆院選で選挙ポスター掲示板が設置されたその横に、人気アニメ『ご注文はうさぎですか?』のキャラクターのイラストを選挙ポスター風に加工して張り出したんです。Twitterでも写真が拡散され、メディアにも取り上げてもらいました。

――京大にはそうした文化があったにも関わらず、今回「オルガ像」の件で処分を検討されているんですね。像を設置した入試当日、職員とはどのようなやり取りがあったのですか。

Nさん:受験生がキャンパスに入ってくる時間帯に像を持ち込み、正門の脇のところに置いていたのですが、職員が来て撤去すると告げられました。正門は京大のプレートも貼ってあるし、だからダメなのかなと思い、別の門のところに持って行きました。ここでは通行の邪魔にならない隅のところに置きました。

 それでも職員が来て、早くどかせ、構内に持ち込むのはダメなんだと言われました。でも周りには受験生がたくさんいてそのままでは片づけられない、今すぐ持って帰るのは無理だと伝えました。職員からはとりあえず外に出せと言われて構外に出しました。職員と数分間言い合いになることがあったのは事実ですが、このように最後は向こうの指示に従いました。

◆『鉄血のオルフェンズ』の台詞を模して大学職員に抗議

――9月に入ってから、処分を検討している旨の文書が大学から送られてきました。文書には、Nさんがアニメの台詞を使って、大学の職員に抗議したことが詳細に記されています。

Nさん:まず初めに言っておくと、この文書に載っている僕の発言は周りにたくさんいた受験生を意識して言ったものでした。京大の職員だけだったらさすがにこんな言い方はしませんよ。

 「何やってんだよ団長」というのは、団員をかばって銃弾に射抜かれて死んでいくオルガ団長を見て団員が言ったセリフです。このオルガ散華のシーンは有名なので、これも知名度が高いと思います。

 「これがギャラルホルンのやり方か」について言えば、ギャラルホルンというのは『オルフェンズ』の世界を統括している警察組織で、オルガが団長を務める鉄華団と敵対しています。僕はオルガの側だったので、止めようとした京大職員を指してギャラルホルンと呼びました。

 「セブンスターズは良いのになんでオルガはダメなんだよ」という発言のなかに出てくるセブンスターズは、七人の名門貴族のメンバーからなるギャラルホルンの最高決定機関です。「折田先生像」は二十年近く続く伝統となっているので、僕の建てたぽっと出のオルガ像と比べればよっぽど権力を持っています。この対比を『オルフェンズ』の設定に引っ掛けてこういう表現をしたんだと思います。

 「希望の〜はな〜、繋いだ〜絆〜が」というのは『オルフェンズ』第二期の後期エンディングテーマ「フリージア」の一部です。例のオルガ散華のシーンで、「止まるんじゃねぇぞ……」という台詞が出てくるところでちょうどこの部分が流れたので、それで有名になりました。文書の最後にある「『俺達は止まれねーからよ』と発言し、音楽を流した」というのもこのシーンを意識しています。

◆受験生の中には「あれで元気づけられました」という人も

――文書には、「受験生の邪魔になるため静かにするよう職員が通告するも無視し」とありますが、Nさんの行動は受験生に迷惑がかかるようなものだったのでしょうか。試験を受けている受験生への配慮という点については考えていたのでしょうか。

Nさん:もちろん試験を受けている受験生への配慮についてはちゃんと意識していました。僕と職員とのやり取りがあったのはどれも試験会場からはかなり離れたところでした。文書には「大声で発言」「大声で歌った」と記録されていますが、僕は大声なんて出していません。本当に大声で叫べば試験会場まで声が届いてしまったかもしれませんが、それほどの声は出していません。そもそもどこからが「大声」なのかが分かりませんし、恣意的に誇張された表現だと思います。通行していた受験生から注目されたという程度です。

 受験生からの反応について言えば、みんな面白がって笑ってくれていたし、好意的な反応ばかりでしたよ。写真を撮っていいですかと聞いてくる人も結構いたし、中には「止まるんじゃねぇぞ……」のポーズで像と記念撮影をしたような人もいました。この年の入試に合格して入学してきた学生に「入試の日、オルガ像見ましたよ。あれで元気づけられました」と言ってもらったこともあります。先ほどお話ししたように僕自身も入試当日に折田像などの展示を見て勇気づけられ、こういう面白い大学に行きたいという思いで試験を頑張れたので、次は自分が逆の役割を果たせたんだなと思えてこの時は嬉しかったですね。

――Nさんはどういった動機でこうした活動をやってこられたのですか。

Nさん:まずは自分で作った創作物をほかの人に楽しんでもらいたかったということがありますね。しかし何よりも京大の自由をこうした表現によって継承し、守っていきたかったんですよ。ただ伝統に囚われすぎるのはよくないとも思っていて、タテカンを建てるにしてもただ建てるだけではなく、衆院選にあわせるなどして自分なりのアレンジを入れました。オルガ像もそうですが、伝統を踏襲しつつもそこからの差異化を図るような活動を目指してきました。

――今回、懲戒処分を検討していると大学から通告が来た件についてどう考えていますか。

Nさん:郵送されてきた文書を最初に見たときは本当に驚きました。こんなことで処分されてしまうのかと。この程度で処分されてしまうのなら入試の日に折田像やタテカンを展示する文化はなくなってしまい、この手の活動はもうできなくなってしまいます。職員に少しでも「口答え」すると処分されてしまうなんて、どう考えてもおかしい。ずっと勉強してきた努力が実って今年9月の院試にも合格できて、あとは卒論を書いて卒業するだけだったのに、これで停学処分にされて単位が取れず、大学院に進めないという最悪の事態になる可能性もある。そんなことになってしまったら本当に悔しいです。

 そもそも、折田像は京大入試の風物詩として黙認されているのに、オルガ像だとどうしてダメなのでしょうか。京大の入試当日には折田像のほかにもタテカンをはじめとして学生が企画したさまざまな創作物が設置されています。その中でオルガ像だけが悪いということはできないと思います。僕の行為・言動を記録した文書を見てみても、最初にオルガ像を大学構内に建てようとしたこと自体が悪いとは書かれていません。処分を検討する理由とされている僕と大学職員とのやり取りは、大学職員がそれを問題視してきたことで初めて持ち上がってきたものです。そのやり取りをさらに問題視して処分を検討する理由と見なすのは、自分たちがダメだと決めたことはとにかくダメなのであって、それに抗議することすらダメなのだと言っているようなものです。

 大学当局はもっと学生の自由な活動を認め、そこに何か問題があったとされた場合でも、自らの決定を一方的に押し付けるのではなく学生と対話するようにしていってほしいです。そうでなければ大学は自由に発言し行動することが許されない独裁国家のような場所になってしまうでしょう。今月の9日に聴き取り調査があり、そこで懲戒処分の詳細が決まります。この場では向こうの主張を聞いたうえで自分の思いや正しい事実関係を伝え、あまりにも筋が通らないなと思うところがあれば自分の意見をしっかり主張していきたいと思っています。

◆「こんなことで処分が検討されてしまうなんて」

 9月12日には、学生3人が無期停学の処分を下されている。工学部4年生の北村剛さん(@EnpvT4f3Cxd64ID)は、そのうちの一人。

 北村さんは、大学の窓口に要求書を提出しようとしたところを職員に床に押し付けられ羽交い絞めにされている学生を助けようとして、職員と衝突した件などが「学生の本分に反する」とされ、無期停学処分を下された。

 そんな彼は、今回のNさんの処分については、こう話している。

「Nさんに大学から来た通知文を読んだとき、これが本当に大学の公式文書として出されたものであるということ、またこんなことで本当に処分が検討されてしまうということが信じられませんでした。『鉄血のオルフェンズ』は僕も大好きなアニメで2回見たので……。

 一部の人間が決定したことを一方的に押し付けて対話を拒否しているのが今の京大です。こうした現状をもっと多くの人に知ってもらいたいし、社会に対してちゃんと訴えかけていきたいです」

◆自由で「おもろい」京大が変質してきている

 今回のNさんインタビューを読んで頂ければ分かるように、Nさんは一般的にイメージされるような自由で「おもろい」京大の学風を継承し、革新しようとしてきた人間だ。「ごちうさ総選挙」や「オルガ先生像」などの斬新な発想は一見するとバカげているが、彼なりの真剣な信念をも感じさせるものだ。

 しかし、場合によっては院への進学をも断念せざるを得なくなるような状況に追い込まれているNさんの問題は決して笑いごとではない。毎年恒例となっていた「折田先生像」の文化がここで途絶えてしまうようなことにでもなれば、京都大学の山極総長がよく言っているような「おもろい」京大の文化はどんどん衰退していってしまうだろう。

 京大はNさんへの懲戒処分の検討、そして先月発表された三学生への無期停学処分を一方的に強行するのをやめるべきだ。

<取材・文/鈴木翔大>

【鈴木翔大】

早稲田大学在学。労働問題に関心を持ち、執筆活動を行う。

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