「移住すればうまくいく」わけはない。理想通りにはいかない移住のリアル

眞鍋かをりら、移住の理想論と現実論で議論 地方をユートピアかのように錯覚も

記事まとめ

  • 9月18日、愛媛県西条市が主催する「移住」に関するトークイベントが開催された
  • 眞鍋かをりや、雑誌TURNSプロデューサーの堀口正裕氏らが移住について議論を交わした
  • 移住すれば都会とは違う豊かな生活が送れると勘違いする人が多い、と堀口氏は指摘

「移住すればうまくいく」わけはない。理想通りにはいかない移住のリアル

「移住すればうまくいく」わけはない。理想通りにはいかない移住のリアル

眞鍋かをりさん

移住の「理想論」と「現実論」

 昨今、自分らしい働き方や理想のライフスタイルを追い求めて地方へ移住する人が増えている。

 首都圏で経験を積んだ20代〜30代が、家業を継いだり、地域の仕事に携わったりするUターンや、地方の子育て環境などに魅力を感じ移住するIターンなどは、その典型例としてメディアやニュースを通して報道される。

 地方創生の文脈で語られる移住は、時として成功体験や移住生活の充実ぶりを伝えている。

 しかし、実際の移住者がリアルに直面するであろう、都会とは違う地方社会へ必死に溶け込もうとする努力や姿勢に対してフォーカスされることは少ないと感じる。

 移住することがゴールではなく、移住してからが始まりである。そこからどのようにして、地域との共生を育み、新しいライフスタイルを創っていけるかが大事であって、移住だけが全てを解決する手段ではないのだ。

 そんな中、愛媛県西条市が主催する「移住すればうまくいくの落とし穴」と題したトークイベントが9月18日に開催された。

 登壇者には18歳まで西条市で過ごした経験を持つタレントの眞鍋かをり氏ほか、地域との繋がり方を提案する雑誌「TURNS」プロデューサーの堀口正裕氏、西条市に移住して「西條そば甲」を営む荻原甲慎氏を招き、今まで語られることの少なかった移住の「理想論」と「現実論」の二元論や、移住者の視点で見る西条市の魅力について議論が交わされた。

◆移住をユートピアと思ってはいけない

 愛媛県西条市は水の都と呼ばれており、工業地帯でありながら、農業都市でもある側面を持っている。また、瀬戸内海や石鎚山(いしづちさん)といった海山の風光明媚な景色に囲まれていて、ゆったり暮らすことができたり子育てがしやすかったりするのも特徴である。

 LOVE SAIJO応援大使として活動するタレントの眞鍋かをり氏は、「昔の西条市には海や山など自然以外何もなかったが、外部からの人の意見や、外からの移住者が入ってきたことで、街の景観や住民の考え方が少しずつ変わってきていると感じる」と語った。

 そんな西条市であるが、2019年の住みたい田舎ランキング四国部門で1位を獲得し、直近1年間の移住者増加率は300%を超えた。行政のシティプロモーションが功を奏し、移住先として注目を集めているわけだが、西条市は地域の活性化のために、「Co-あきない宣言」を掲げている。

 等身大の自分でできること、やりたいことを仕事にする「小商い」が成り立つように、新旧住民が皆で街を盛り上げようという機運が高まっているそうだ。

 TURNSプロデューサーの堀口氏は、「自分の価値観を大切にしながら生きていきたいニーズが増えてきている。自分らしく、人間らしく生きたい。自分の居心地のよい空間で、好きな人と仕事や生活を共にしたい。そういった環境づくりができている街に、人は移住するようになってきている」と述べた。

 以前、関係人口の記事で書いたが、地域との繋がり方は人それぞれであり、移住というハードルを超えなくても地域と関わりを持つことは可能だ。しかし、本格的に移住となれば、都会を離れて余生をどう生きていくのかという人生の進路を決めなければならない。

 ここで陥りやすいのが、地方をユートピアかのように錯覚し、移住さえすれば理想の生活が送れると勘違いしてしまうことだと堀口氏は話す。

「移住すれば、都会とは違う豊かな生活が待っていると勘違いしている人が多い。自分の好きなことで食べていきたい、都会ではできなかったことを成し遂げたい。このように思うのもいいが、それが独りよがりになれば、地域から孤立する可能性があることを忘れてはいけない。移住先で生活していくことができるのは地域の理解があってこそ。地元に住んでいる人への敬意を持ち、地域の伝統や生き方を理解していく努力を怠ってはいけない」

 移住すれば、自分の思い描く生活が待っているわけではない。都会以上に、地方の人間関係は密なものであり、ないがしろにしてはいけないのだ。地域のコミュニティへ積極的に足を運ぶようにして、少しずつ関係性を築いていき、地域に溶け込めるようにする。

 また、小商いやローカルビジネスを始める際も、地域の人が喜ぶような活動を行ったり、地域の人を巻き込むよう意識したりすることで、次第に自分のやっていることが理解されるようになるのではないだろうか。

◆移住先の「土地柄」に惚れ込むことの大切さ

 もともとアパレルジーンズメーカーで勤務していた荻原氏。一念発起して西条へ移住し、蕎麦屋を15年経営している身として、西条市の魅力をこう語る。

「西条市は今も、古き良き日本が色濃く残る街。四国は30年前に橋がかかった土地で、出る人はいても入ってくる人は少ない。そのため、西条人は度量の深さがあり損得勘定よりも、正しいかどうかで判断する考えの人が多い」

 西条に残る古き良き日本の考え方に触れ、作られた良さではなく、存在している良さに気づいたのだという。

 眞鍋氏は西条に住む住人の性格や気質について次のように語った。

「西条人は自分から構いにいく気質ではない。特に西条の男性はシャイで内気な人柄が特徴で、一歩引いた感じで接するイメージがある。だが、最近は外部からのよそ者に慣れてきたと感じていて、外から来た人に対しても受け入れる気質になってきている」

◆移住は目的ではなく手段

 荻原氏は、夢を抱いて大阪から来たときの苦労話を振り返った。

「西条市には手打ち蕎麦屋がなかったので、手打ちだから人気が出るだろうと思い込んでいた。しかし、西条の人が何を欲しているのかが掴めず、全然売上が立たなかった。大阪からやって来たというプライドを捨てきれず、独りよがりになっていたことに気づいた」

 自分が移住先で一旗揚げてやるという気概や意気込みを持つことは大切だが、それが独りよがりの考えになっては移住先で受け入れてもらえない。

 利他的な考えを持って地域の住人と接し、街に対する考えや風土を理解していくこと。移住先の一員として、地域にどう貢献していくかという考えを持つことが移住者には求められるだろう。

「外部から来た人が、大阪弁で西条の人と話すのはナンセンスだと思った。地域の風土や歴史を知る努力はもちろん、日常会話にも気を配り、少しずつ西条のことを理解するよう心がけた。自分のやりたいことを街に寄り添って掘り下げること。相手ありきの目線になって考えたとき、徐々に軌道に乗ってきた」(荻原氏)

◆なぜ移住したいかを先に考える

 物事やプロジェクトをうまく進めるための法則として、サイモン・シネックが提唱したゴールデンサークル理論が知られている。「What(何を)」や「How(どのように)」よりもまず、「Why(なぜ)から始めよ」という考えがあり、かのアップルが多くの人の共感を集めたのは、世界を変えるためにプロダクトを作っているという「なぜ」の部分を示したからと言われている。

 これを移住の話題に例えるならば、移住をどのようにするかと考えるのではなく、なぜ移住するのかを考えることから始めてみるといいのではないだろうか。

 今の時代、イベントに参加したりネットで調べたりと移住の情報はいくらでも取れる。相性のいい地域を見つける上では事前に下調べすることは重要だが、なぜその地域に住みたいのかをしっかりと考える必要があるだろう。

 移住の目的が、都会に比べて自然豊かな生活を送るというものなら、3年も経てば豊かな自然もただの風景になる。ライフステージの変化に合わせて、住む場所を変えるのも選択肢の1つだが、移住はあくまで手段として捉えることが大事だ。

<取材・文/古田島大介>

【古田島大介】

1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。

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