自動車事故被害者への慰謝料を拒否し、債務整理に至った高齢ドライバー<不動産執行人は見た42>

自動車事故被害者への慰謝料を拒否し、債務整理に至った高齢ドライバー<不動産執行人は見た42>

artswai / PIXTA(ピクスタ)

◆不動産執行の現場でも無関係ではない「高齢者運転事故」

「高齢ドライバーの引き起こす交通事故」

 超高齢化社会を迎える現代日本が直面する社会問題であり、特効薬的単純明快な解決方法があるわけでもない。

 以前にもテーマとして扱い、「極論染みた策に活路を見出すべきではない」としたが、あれからしばらく経つ今も「高齢ドライバーの引き起こす交通事故」報道は減る気配なく、残念ながら当たり前のような頻度でズルズルと続いている。

 柔軟な判断力を持つ高齢ドライバーは、相次ぐ「高齢ドライバーの引き起こす交通事故」報道を受け、自ら或いは家族に促され免許返納へと動いているようだが、このような成功事例が大多数というわけではない――。

 差し押さえ・不動産執行にはいくつかの種類や関連業務がある。長くなるので細かい説明は省くが、大きな分類となるのが事件符号の(ケ)と(ヌ)。

 現場で扱う大部分は事件符号(ケ):住宅ローンの債務不履行により担保不動産が競売にかけられる「担保権の実行」となり、残り10〜20%程度の割合で事件符号(ヌ):債権者の訴えにより債務者の不動産を競売にかける「強制競売」が入る。

 債権者と債務者の間にトラブルがある以上(ヌ)は要注意事件となり、今回紹介する事例も(ヌ)だ。

◆よろよろと自動車を運転して現れた高齢の債務者

 この日の不動産執行は、債権者の訴えが数十万円という我々の取り扱う事件としては成立が難しいほどの少額案件。これらが意味するものとは大抵の場合、「警告」だ。

 というのも、数十万円の借金に対して、1000万円の不動産が競売にかけられてしまうかと言えば、そう簡単にはいかない。

 債務の大きさに対して競売にかける不動産の価値が大きすぎる場合「超過売却」となってしまうため、成立しないことも多いのだ。そのため、これらを知りつつ「強制競売」をかけてくるということは、簡単に言うと「さっさと払えよ」という警告的意味合いが強いという寸法。

 不動産執行の現場としても、関わったところでいくつかの理由から事件自体が取り下げになる可能性も高く、債権者・債務者共に得をしないという“不毛さ”の否めない案件だ。

 そんな現場でかれこれ45分ほど債務者の到着を待っている。

 事前情報としてもらっている債務者の年齢はなんと85歳。そのため、よろよろとこちらに向かってくる自動車が遠くに見えたタイミングで、「あれが債務者の運転する車なのであろう」ということは全員がなんとなく把握していた。

 古いセダンが債務者宅に寄せることも無く道路中央に止まる。助手席から債務者の奥さんが下り、ゆっくり家に入ると、そのまま小刻みで一進一退な切り返しが続くという車庫入れを5分ほど眺めることになった。

 最終的に約束の執行開始時間から約1時間が経過し、ようやく債務者と言葉をかわすタイミングがやってくる。

「今日の約束お忘れでしたか?」

「そんなことはない。納得できないんだよ」

 執行に対して納得がいっていないという債務者。ここからその“納得がいかない”理由について40分ほどの熱弁が展開されることになった。

◆「たいしたことない事故だし、払う義理はない」

 要約すると、こういうことだ。

 債務者は以前に自動車事故を起こしてしまったようだが、速度も出ていない事故であったため加害者として「大したことはない」との認識を強く持っている。

 対する被害者側はもちろん「大変な事故であり被害も大きい」との認識、そして実被害があるため、これまでに7回もの裁判を行っているという。

 最後の裁判で加害者側(債務者)が数十万円を支払うことでの和解となったようだが、この“和解”にすら応じないために発生している強制競売だった。

「払ってやる義理はない」

 もちろん義理で払うものではないのだが、どうやら今回も支払いに応じるつもりはないという。

 強制競売に望みを託した被害者側には残念なお知らせとなるが、今回の強制競売もいくつかの理由から不成立となる可能性が高い。

「強制競売なんて面倒を起こされるくらいなら払ってしまおう」という精神状態に加害者側を追い込むことが出来ればよかったのだが、今回の加害者側がみせる強固な姿勢はこれだ。

◆高齢者から足を奪うことにもなる。一筋縄ではいかない問題

「絶対に払わない」

 運転技術、認知や感覚の状況に問題のある高齢ドライバーの多くが、その危険性や及ぼす影響を把握できていない。輪ゴムが経年劣化で弾力性を失い硬化していくように、彼らの考え方もまた、不可逆的に柔軟性を失い硬化してしまっている。

「コミュニケーションで彼らの言動を上手に促す」

 そんな性善説にも似た主張で狙い通りに動いてくれる高齢者は稀だ。

 自活し、自信を持つ高齢者が一筋縄で行くかと言えばそうではない。かと言って高齢者から強制的に自活を取り上げる事例では、一気に老化が加速しそのまま要介護状態へと突き進むケースも多発している。

 単純明快な回答の用意されていないこの問題とどのように向き合い、どのように社会的損失を最小限に食い止めていくべきか。

「高齢者」と「運転」を切り離すだけで全てが丸く収まるという考え方もまた、柔軟性を失っているのではないだろうか。

【ニポポ】

ニポポ(from トンガリキッズ)●2005年、トンガリキッズのメンバーとしてスーパーマリオブラザーズ楽曲をフィーチャーした「B-dash!」のスマッシュヒットで40万枚以上のセールスとプラチナディスクを受賞。また、北朝鮮やカルト教団施設などの潜入ルポ、昭和グッズ、珍品コレクションを披露するイベント、週刊誌やWeb媒体での執筆活動、動画配信でも精力的に活動中。

Twitter:@tongarikids

オフィシャルブログ:団塊ジュニアランド!

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