日韓関係が悪化する中、ソウルの「反日デモ」でフリーハグをやってみた

日韓関係が悪化する中、ソウルの「反日デモ」でフリーハグをやってみた

日韓関係が悪化する中、ソウルの「反日デモ」でフリーハグをやってみたの画像

◆「反日デモ」でフリーハグを行ったことによる大反響

 今年の8月30日、「日本人が反日デモでフリーハグをしてみた」という動画を、僕は各SNSで公開した。その1週間前の土曜日(8月24日)に、韓国の首都ソウルで行われた「反日デモ」でフリーハグを行なった時の動画だ。

 その反響は「フリーハグ活動」を今まで8年間行ってきた中で、いちばんと言っていいほど大きなものだった。日韓双方のテレビや新聞、雑誌などいろんなメディアから取材の声をかけていただき、それは今もなお続いている。

 日本のあるネットメディアで紹介された時には、約5000件ものコメントがついた。そのほとんどがネガティブなものだったが、人々の関心の大きさをうかがわせた。

 日本での取材もあるので、僕は1か月ぶりに帰国した。その間、会う人皆に聞かれた質問はこれだった。

「めちゃくちゃ勇気あるね。怖くなかったの?」

 その質問に答えるために、僕のストーリーを話さなければならない。

◆「韓国人は全員、日本人のことが嫌いなんだ」と思っていた

 僕がフリーハグを始めたのは、2011年から。それから8年間、韓国だけでなく、中国、インド、カンボジア、フィリピン、モンゴルなどアジアを中心に18か国でフリーハグをしてきた。

 この活動のきっかけを一言でいうと「メディアから流れる情報と、現実のギャップを埋めるため」だ。

 このことに気づいたのは、フィリピン留学で英語学校に通っていた時だった。そこで多くの韓国人に出会ったことが、僕の人生のターニングポイントになった。

 なぜなら「韓国人は全員、日本人のことが嫌いなんだ」と、当時の僕は思っていたから。まさかここでたくさんの韓国人の友達ができたり、韓国人の彼女ができたりするなんて思ってもいなかった。

 彼らと一緒に英語の勉強をしたり、旅行をしたり、お酒を飲んだり。同じ時を過ごしていく中で、自分自身が抱いていた偏見は完全に溶けてなくなった。

「どうして僕は韓国人に対して偏見を抱いていたのか?」

 その原因を探った時に浮かんできたのは、テレビや新聞、雑誌などのメディア情報だった。

 そして「自分と同じように、他にも韓国に対して偏見を抱いている人がいるかもしれない」と思った。彼らにどうやってこの事実を伝えればいいのか、悩み考えて思いついたのがフリーハグだったのだ。

◆ずっと手伝ってくれていた韓国人の友だちに協力を断られる

 僕には韓国でフリーハグを行う際に、いつも手伝ってくれている韓国人の女友達がいる。でも、今回(今年の8月)に限っては「手伝うことはできない」と断られてしまった。その理由は、韓国国内ではいま「日韓友好」という雰囲気ではまったくないからだという。しかしこれは「フリーハグをするのは危険だ」という意味ではないと彼女は言った。

 彼女は、いま日本人の僕が韓国でフリーハグをすることは「加害者側の善意の押し売りだ」と言う。それでも僕は、「現在政治的には対立している両国でも、『日韓友好』を願っている個人はいる」ということを、フリーハグを通して表現したいと思った。

 この8年間いつも手伝ってくれていた彼女に断られてしまったことは、ショックだった。そして、いまの日韓問題の根深さを感じた瞬間でもあった。

 とはいえ、それは彼女個人の意見だ。

 今回の撮影を手伝ってくれた韓国人男性のジョーさんは、そういったことを一切言わなかった。ジョーさんは2年前、SNSで「動画に感動した。会いたい」とメッセージをくれて、1回だけ東京で一緒にご飯を食べただけの、けっこう薄い間柄だ。

 でも今回、韓国へ行く旨をSNSに投稿すると彼はすぐにメッセージをくれた。

「ソウル支社に転勤になったので、フリーハグをするなら手伝えますよ」

 実は、この時点でジョーさんってどんな人なのかという記憶はあまりなかった。それはここだけの秘密だ。

◆反日デモでフリーハグをしたほうが効果があるのでは!?

 SNSで韓国に行くと表明したものの、反日デモの現場でフリーハグをしようと計画していたことは隠していた。ジョーさんにも誰にもその話をしなかった。

 しかも、デモが行われる日にジョーさんは予定があるという。韓国に来る前から、その計画が実行できないことはわかっていた。それなら代わりの撮影者を見つければよかったのだが、そこまで自分自身は本気ではなかったのだろう。「まぁ、これも運命だ。やるべき時が来たら、すべてその通りになる」と勝手に自分で納得していた。

 そのため、ジョーさんにはいつも通り「若者の多い場所でフリーハグを行いたい」と伝えていた。でも韓国でジョーさんに会ってフリーハグの戦略を立てていると、「自分が伝えたいことは反日デモでやったほうが最大限の効果を発揮できるのでは?」という話になった。でもまだこの時点でもジョーさんの予定があり、本当にやるかどうかは不確かだった。

 普通「反日デモで日本人がフリーハグをする」なんて言ったら、絶対にまわりから心配される。「危ないことはやめろ」「何か起きたらいろんな人に迷惑がかかるんだぞ」なんて言葉がきっと飛び交うだろう。

 そういう意見を聞くと、自分も不安になってくる。すると、悪いことが起きる想像ばかりしてしまい、行動を起こせなくなる。しかし、いくら素晴らしいアイデアが浮かんでも、行動しなければ意味がない。

 もちろん誰かに相談することは大切だけれども、相談する相手は考えるべきだ。そして、ジョーさんはまさにその正しい相手だった。

 彼は「反日デモのどの場所で行うか、そのために何をすればいいのか」など、建設的な話しかしなかった。だからネガティブなイメージが頭の中に入り込む余地はまったくなく、僕は常に平常心でいられたのだと思う。

◆「反日デモ」ではなく、「安倍政権糾弾キャンドル集会」!?

 その後、ジョーさんからメールで写真が送られてきた。そこには反日デモの概要が記載されてあったのだが、驚いた。なぜなら、日本で報道されているような「反日デモ」という記載ではなく、「安倍政権糾弾キャンドル集会」と書いてあったからだ。

 ジョーさんに聞いてみると、韓国人にとってこの集会は日本全体を糾弾するような「反日デモ」という認識はまったくないという。あくまで「反安倍デモ」という認識なのだそうだ。それに「キャンドル集会」は“非暴力の平和デモ”という認識が僕にはあった。

「ああ、またか」と僕は思った。

 フィリピンで経験した、日本のメディアの情報と現実とのギャップを知った時と同じような感覚を抱いた。そしてその瞬間、「これはもしかしたら、いけるかもしれない」と心の中で少しだけ希望の火が灯った。

 当日、キャンドル集会が行われる場所へ向かうと、他のデモが行われていた。それは韓国の現政権に対するデモだった。ステージに立っている登壇者の声が街中に響き渡っていた。

 これに参加している人たちの熱狂ぶりは、なかなか日本では見ることができないものだったので、少しだけ圧倒された。韓国では反日デモだけでなく、自国の政府に対するデモも熱いのかと思った。

 当時の心境としては、「このデモの後に行われるキャンドル集会も同じような熱狂ぶりだったら、危ないかもしれない……」と不安になったので、もう何も考えたくなかった。自分がキャンドル集会でフリーハグをするなんて、他人事のように思えていた。

◆私は皆さんを信じています。皆さんも私を信じてくれますか?

 キャンドル集会の現場に着き、僕はアイマスクで目隠しをした。これは、無防備な状態をさらけ出すことで「あなたを信頼している」というメッセージを伝えるためのビジュアル効果の一つだ。

 また、人々の視線を自分の顔に向けさせるのではなく、両脇に置いたメッセージボードに注目してもらうためでもある。メッセージにはこう書いた。

私は日本人です。

いま、反安倍集会が行われています。

日本ではこれが反日デモだと報じられ、

韓国人全員が日本人のことを嫌いなんだと思ってしまう人もいます。

しかし、私はそう思いません。

日本には、日韓友好を願う多くの市民がいます。

韓国にも、日韓友好を望む多くの方がいると思っています。

私は皆さんを信じています。皆さんも私を信じてくれますか?

もしそうなら、ハグを。

 一般のフリーハグの場合はノリだけでハグすることもできるが、今回は日本に批判的な人たちが集まっている場所で行う。だからメッセージの内容をよく読んで考えてもらって、その意味を理解してくれた人にハグをしてもらいたかったのだ。

◆何もしないまま、ただハグしてくれるのを「信じて」「待つ」

 当然だが、アイマスクをすると目の前が真っ暗になる。自分の身の回りで何が起きているのか、どれだけの人がいるのか、何もわからない。これはとても不安だ。

 しかしその不安も時間が経てば慣れてくるし、むしろ両手を広げてハグされるのを待っているので、時間が経つと腕の疲れのほうが気になってくる。そして本当に何もしないまま、ただハグしてくれるのを「信じて」「待つ」しかないのだ。完全に受け身の状態だ。

 もし韓国人が日本人に対して、本当に憎くて憎くてたまらないという感情を抱いているのなら、無防備な僕を殴ることだってできる。しかもこの集会に参加している人なら、なおさら怒りの感情を持っている人が多いことだろう。

 でも、そんなことは最後まで起きなかった。むしろ多くの韓国人から「ありがとう」と感謝され、1時間半の間で50人ほどの人にハグをしてもらえた。

◆メディア情報と現実の世界とのギャップを実際に見てほしい

 後に、僕のこのフリーハグ動画が日本のテレビで紹介された時、「この集会に参加したのは5000人」と紹介されていた。しかし僕が見たところ、多く見積もっても500人程度だった。

 テレビの小さな画面に映る、あの「NO安倍」と書かれたポスターを掲げている集団の姿を見れば誰でも圧迫感を抱くし、怖いと思うだろう。それが「反日デモ」だと紹介されれば、「韓国中が反日なんだ」と思い込んでしまう人がいるのもわかる。

「日本のメディアは嘘をつかない、正しいことしか報道しない」と信じ込むのは危険だ。テレビの小さな画面だけで、この世界で起きている複雑なできごとを伝えられるはずもない。その画面の先にある世界の方が断然広く、真実はいつも現場にある。

 そのことがわかれば、不安も消える。「キャンドル集会」で、勇気を出さずともフリーハグを行うことはできるのだ。

 ぜひいちど海外に足を運んで、本当の世界を皆さんに見てほしい。すると、思ったよりも簡単に、この世界にあるメディア情報とのギャップに気づくことができるから。

<文/桑原功一>

【桑原功一】

くわはらこういち●フリーハガー。Twitterは@freehugs4peace。

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