東京五輪施設建設の「目に見えない部分」に、21万畳分の熱帯材が使われている!?

東京五輪施設建設の「目に見えない部分」に、21万畳分の熱帯材が使われている!?

建設中の新国立競技場

◆「目に見える部分」には国産材、「目に見えない部分」には熱帯材

 東京五輪開催まで1年を切った。それとともに、大会中の猛暑対策など、さまざまな問題が現実味を帯びてきている。そのような中、東京五輪で使われた木材と、東南アジアの森林破壊とのつながりが問題視され続けている。

「新国立競技場には国産材がたくさん使われているのでは?」と思う人も多いだろう。しかし、47都道府県から提供される国産材は屋根やひさしで使われるだけで、土台のコンクリートを成形する型枠用合板(コンクリートパネル=コンパネ)には、東南アジアからの熱帯材が使われた。

 いわば「目に見えるお化粧部分」には国産材が、「目に見えない」基礎工事には熱帯材が使われたという形だ。しかもコンパネは何度か利用されるが、基本的には使い捨てとなる。

 筆者ら環境NGOの調査では、木材供給のために伐採された森林の中にマレーシア・サラワク州の先住民族の土地や、絶滅が危惧されているボルネオ・オランウータンの生息地も含まれることがわかっている。

◆「持続可能ではない木材が使われている」と「オランウータン」が“通報”

 2017年5月、「熱帯材の使用を直ちに中止してほしい」と声をあげたのが、ボルネオ島の先住民族プナンの人々だった。世界中から14万件以上の賛同署名が集まり、支援団体によってスイスとドイツの日本大使館に届けられた。

 また2018年11月には「オランウータン」が、持続可能ではないインドネシア産の木材が東京五輪施設の建設に使われたことを理由に、大会当局に通報した。

 実際に通報したのはオランウータンではなく、筆者の属するNGO「レインフォレスト・アクション・ネットワーク」(RAN)だ。この行動には、「人間と同じように、動物や森林にも反対する権利がある」というメッセージが込められている。

 日本は世界最大の熱帯材合板輸入国で、貴重な熱帯林の破壊によって作られたコンパネも輸入している。東京五輪の「持続可能性に配慮した木材調達基準」は一定の改善があったものの、リスクの高い企業からの調達が防ぎ切れていない。東京五輪開幕まであと数か月、これまでの経緯をまとめた。

◆五輪施設建設のため、21万畳分のコンパネに熱帯材が使われた

 これまでRANほか環境NGOは、東京五輪施設の建設現場で調査を行ってきた。その結果、インドネシアとマレーシア企業の熱帯材合板が、新国立競技場や有明アリーナなどほぼすべての新施設の建設で使用されていることが判明した。

 現地では環境・森林破壊、先住民族や地域コミュニティの権利侵害に加え、企業による木材の伐採や流通での違法行為などの問題も指摘されている。東京五輪は「持続可能な大会」の開催を掲げ、国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)への貢献も約束している。しかし、その約束は守られていない。

 大会組織委員会がNGOの要請で公表した情報によると、インドネシアとマレーシアからのコンパネが21万枚以上も五輪施設建設に使われ、そのうち約12万枚は新国立競技場で使われた(2019年5月時点)。一般的なコンパネの大きさは、畳1畳分に相当する。「21万畳分」と考えると、いかに膨大な量の熱帯材が使われたかがわかるだろう。

 実は、建設工事が本格化する前の2015年から、環境NGOは熱帯材合板が工事に使われることを懸念してきた。2016年6月に木材調達基準が制定されてもNGOの懸念は消えず、同年12月には国内外44団体が国際オリンピック委員会(IOC)に書簡を渡した。そのような中、新国立競技場と有明アリーナで熱帯材のコンパネがNGOの調査で見つかったのだ。

◆熱帯材伐採が、先住民の生活も破壊している

 2017年4月、新国立競技場の建設現場で、マレーシアの伐採企業シンヤン社製のコンパネが使われていることが明らかになった。同社は以前、サラワク州で違法かつ持続可能でない熱帯林伐採を行い、先住民族の権利侵害に関与したことが発覚している。

 新国立競技場を管轄する日本スポーツ振興センターは「森林認証品であるため問題ない」とした。しかしNGOの調査によると、日本に輸出されているシンヤン社の認証木材(PEFC認証)は現地の労働者虐待と結びついている。

 さらに「ハート・オブ・ボルネオ(ボルネオの心臓)」と呼ばれる、マレーシア、インドネシア、ブルネイが共同で進める森林保全地域での伐採への関与も指摘されている。

 冒頭で紹介したプナン族のビロン・オヨイ氏(サラワク州ロング・サイート村の村長)は「サラワクでは私たちの森林は伐採され続け、木はほとんど残っていません。熱帯林に残っている木々を守る私たちを、どうか助けてください」と訴えた。

 ちなみに、マレーシアには「ビッグ6」と呼ばれる木材大手6社がある。シンヤン社もその一つだ。サラワク州の土地面積の半分以上で伐採や大規模農園開発の許可が出されているが、その多くがこの「ビッグ6」に牛耳られている。今年7月にもその一つ、タ・アン社のコンパネが国立代々木競技場の建設現場で使われていたことがNGOの調査でわかった。

◆森林認証なし、違法に「皆伐」された木材が有明アリーナや新国立競技場建設に使われた!?

 2018年5月、今度は有明アリーナでインドネシア・コリンド社のコンパネが見つかった。大会組織委員会が公開した情報によると、この木材は森林認証を取得せず、住友林業によって供給されていた。

 コリンド社はインドネシアで木材、パーム油、紙パルプなどの事業を展開する韓国系複合企業だ。違法伐採に加え、樹木を全て伐採して生態系を破壊する「森林皆伐」、農園開発のための火入れ、人権侵害、脱税への関与が指摘され、東京五輪に供給された木材が違法かつ問題あるものだったリスクが高い。

 RANはインドネシアの現地団体と共同で、コリンド社の木材供給網について調査を行った。その結果、世界で最も豊かな生物多様性を誇る熱帯林で同社が伐採を行ない、地域コミュニティの土地を違法に強奪していたことが明らかになった。

 また、同社がボルネオ島のオランウータンの生息地から木材を調達していたことも突き止めた。インドネシア産コンパネが有明アリーナで約1万枚使われ、新国立競技場では12万枚近くも使われたことを考えると、コリンド社製の森林認証のないコンパネが新国立競技場の建設にも提供された可能性は高い。

◆2017年の1年間だけで日本の面積の4割に当たる熱帯林が消失

「オランウータン」による通報は、昨年11月の通報から11か月が経過した。しかし、いまだに進展がない。そこでRANは今年7月、国際オリンピック委員会(IOC)に「東京五輪の通報制度が機能しているか調査してほしい」と手紙を送った。

 世界では国連「ビジネスと人権に関する指導原則」がスタンダードとなっていて、東京五輪当局の対応には透明性や説明責任などが不足しているという点を指摘した。

 熱帯林には陸上生物の半分が生息し、先住民族や地域住民は食料や水などをそこから得ている。熱帯林は地球の気候と降雨パターンを調節し、炭素を吸収・貯蔵することで気候変動の緩和にも重要な役割を果たしている。

 しかし木材伐採や大規模農園開発のために更地にされ、熱帯林は急速に劣化・破壊されている。森林減少を監視する国際的なプラットフォーム「グローバルフォレストウォッチ」によると、2017年の1年間だけでも日本の面積の4割に相当する熱帯林が失われたという。

 東京五輪関連の建設工事はほぼ終わっている。この五輪で定められた基準や体制は、今後の自治体や企業にとって「モデルケース」となることが期待されている。今は持続可能な社会を次世代に残すために、「ポスト東京2020」に向けて真のレガシーを作っていく過程にあることも忘れてはならない。

<文/関本幸 写真/レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)>

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