台風19号の最中に出た、NHKの「ひらがな」発信を現役日本語教師はどう見たか?

台風19号の最中に出た、NHKの「ひらがな」発信を現役日本語教師はどう見たか?

NHKニュースのTwitter

◆災害の最中、発信された「ひらがな」のメッセージが物議

 今年、日本列島に襲い掛かった数々の台風。その影響を受けたのは日本人だけではない。労働者や旅行者として在留・滞在する多くの外国人も同じく恐怖と混乱の中にいた。

 9月上旬、千葉県を中心に甚大な被害をもたらした台風15号では、日本の玄関口である成田空港もが完全に麻痺。その混乱ぶりは、連日テレビで放送された通りである。

 台風が関東を襲った翌日の午前中、筆者が出張先から成田へ降りると、空港内にはいたるところに、配布された寝袋にくるまる外国人の姿があった。

 韓国から来た若者4人組は、「空港職員からのアナウンスや案内板がほとんどなく、韓国語を話していた近くの人から情報を得た」とのこと。

 また、仕事で来日したエクアドル人男性は、「地震が多い国という認識はあったが、まさか台風で足止めを食らうとは思わなかった。1人だったため、場所取りが大変だった。情報はツイッターを頼った」と話していた。

 その15号からわずか1か月後。傷の癒えない日本列島に19号が直撃し、かつてないほどの雨風を各地にもたらしたが、この19号は、15号とは別の意味で「外国人への発信」が話題となった。

 NHKニュースのツイートである。

“【がいこくじん の みなさんへ】

たいふう19ごう が 12にち〜13にち に にしにほん〜きたにほんの ちかくに きそうです。 たいふう19ごう は おおきくて とても つよいです。 き を つけて ください。

(↓よんで ください)⇒NHKニュースへのリンク”

(NHKニュースのツイートより)

 この通り、全て「ひらがな」での発信だったのだ。これ対し当初、一部の日本人からは、

「これ、外国人馬鹿にしてないか?」

「世界共通の英語で書けばおk!全部ひらがなて別に外人は赤ちゃんじゃないんだから」(原文ママ)

「NHKってバカなのかな?ひらがなじゃなくて英語、中国語、韓国語で発信しなよ。」

「ついったーで にほんごのじょうほうを あつめているようながいこくじんに、こんな にほんじんでもよみづらい ひらがなひょうきが ひつようですか?」

 といった否定的な意見が相次いだが、しばらくすると「ひらがなは1週間もあれば習熟出来る簡単な文字らしい」、「日本に住んでいる外国人の為に、やさしい日本語=ひらがな なんですね」など、同ツイートを擁護する意見が増加。大きな議論を呼ぶ結果となった。

◆日本語教師はどう評価するのか?

 今回のNHKのひらがなツイートは、日本語教育の観点で見ても、目線を落としたいい試みで、ましてや外国人を馬鹿にしたものでは一切ない。

 総務省が今年7月に発表した2019年1月1日時点の人口動態調査によると、国内の外国人の人口は、過去最多の266万7199人。

 一方、厚生労働省が発表した2018年10月現在の外国人労働者数は146万人で、そのうちの72%以上がアジア圏出身者だ。

 また、その半数近くが特定技能や技能実習生、留学生アルバイトであることに鑑みると、英語が分からずとも「ひらがなレベルの日本語なら分かる」とする外国人が大きな割合を占めることが考えられるのだ。

 また、日本で使用される「ひらがな」「カタカナ」「漢字」のうち、最初に学ぶのはひらがな。

 学習意欲のまだあるうちに学べることも、高い習得率の理由の1つだが、さらには、存在意義が曖昧なカタカナ、複雑な書き順、当て字読みなどトリッキーさ満載の漢字とは違い、ひらがなは日本語の文字の中でも最も「素直」。

 そのため、日本語を途中で挫折してしまった外国人でも、一通り「読むことはできる」という場合が多いのである。

 しかし、一概に「ひらがなだから外国人にやさしい」というわけでもない。

 今回のNHKのツイートについて、現役の日本語教師11人に話を聞いたところ、「文章はより短文にして漢字を使用し、その上部、またはカッコでふりがなを振ったほうがいい」という意見が相次いだ。

 理由は次の通りだ。

◆ひらがなが読めるといって、文意を理解するわけではない

1.文字と文のレベルのギャップ

 回答のあった日本語教師のほとんどが指摘したのが「ひらがなと文のレベルのギャップ」だ。

「ひらがなで発信することはいいことだが、レベルが合っていない」、

「ひらがな配信をする気配りや発想は評価できるが、平仮名しか読めない人が、この文を理解できるかは、大きく疑問」

「文字を読む力」と「読解力」は違う。文字の読み方が分かっても、「文の意味」を理解できなければ、災害時においてはその効果は薄い。

 今回のNHKのツイートで見ると、ひらがなしか読めないほどのレベルの外国人が、「あふれる」や「くずれる」、「〜かもしれない」、「〜そうです」などの単語や文法を知っていることはほとんどない。

 差し迫った状況下、ひらがなレベルの日本語能力で伝えられる情報は、ごく限られてしまうのである。

2.誤訳が生じる

 同音異義語の多い日本語の場合、ひらがなにすると誤訳の発生率が高くなる。

 日本語は、我々が思う以上に難しい。日本人ならば、文脈や手前の助詞で容易に読めるひらがな文でも、日本語弱者の外国人の場合、大いに混乱することがある。

「だんぼーる は きのう いっしょ に いった ところ に あります(行った・言った)」、

「といれ は 1かい です (1階・1回)」

などがいい例だ。

 また、外国人が漢字を苦手とする一方、翻訳機やアプリはひらがな文に弱く、こちらも誤訳する確率が高くなる。

 実際、今回のNHKのひらがな文を、複数の英語・韓国語サイトで訳してみたところ、やはり誤訳が大変多く、日英訳では、「あめ」を「飴(candy)」、「ゆうがたから」の「たから」の部分を「宝(treasure)と訳したり、日韓訳でも「かわ」を「皮(??)、「かわ や(川や)」は「トイレ:厠(???)」と訳されていた。

◆ひらがなが良いと言う外国人も

 それでも今回のNHKのツイートには、「よんでください」の案内の下にリンク(NEWS WEB EASY)が貼られてあり、そこへ飛ぶと、ふりがな付きの漢字の文章とイラストが掲載されていた。

 さらにはスローテンポで流れる音声や、難しい単語には、説明がポップアップするようにまでなっており、外国人にとっては大変有意義な情報になったと言える。

 このサイトを読んだ日本語中上級レベルのベトナム人の元教え子は、「絵があってすごく読みやすい」、初中級のカナダ人の友人は、「危険が差し迫っている際はやはり英語版を見るが、避難した後にじっくり読むにはいい」と話していた。

 また、現役教師からは、こんな指摘も聞かれた。

「自分の上級クラスの人たちは、当日、スマホにいきなり送られてきた警報や速報に驚いたとのこと。彼らは、その内容を理解できる日本語力をもっており問題なしでしたが、これらの内容は、初級の人たちにとっては全く理解できない日本人向けで、『やさしい』版は添えられていなかったようです」

 外国人が年々増加する中、今後、こうしたメディアからの発信だけに限らず、我々の日々の生活においても、外国人とコミュニケーションを取るべき機会は増えてくるだろう。

 実際、街中では、外国人に「分かる?」「買った?」「ない」「行こう」などというカジュアルな言葉を使って案内しようとする人を見る。

 言葉を短くし、端的に話せば彼らが理解しやすくなるだろうと、敢えてそう話している人もいるだろうが、これはむしろ逆で、初級の日本語学習者には、敬体(ですます調)で話した方が通じやすい。

 現在の日本語教育では、動詞の形の変化が少ない「分かりますか?」「買いましたか?」「ありません」「行きましょう」といった敬体をベースに日本語が教えられていることが多いからだ。

 巷では、「日本に来たなら日本語くらい理解しろ」といった声もよく聞くが、今回の台風やNHKのひらがな発信をきっかけに、「外国人への日本語での伝え方」を一度考えてみるのも、1つの減災につながるのかもしれない。

<取材・文/橋本愛喜>

【橋本愛喜】

フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。日本語教育やセミナーを通じて得た60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。

関連記事(外部サイト)