横行するフリーランスへのハラスメント。時代に追いついていない法整備という現実

横行するフリーランスへのハラスメント。時代に追いついていない法整備という現実

横行するフリーランスへのハラスメント。時代に追いついていない法整備という現実の画像

◆「ホテルでレイプされた」というケースも

 日本俳優連合、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)フリーランス連絡会、プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会の3団体は今年9月、「フリーランス・芸能関係者のハラスメント実態アンケート」の結果を発表した。調査は、2019年7月16〜8月26日に、個人事業主、法人経営者、副業従事者などを対象に実施した。

 同調査の結果によれば、全体の72.5%が、パワハラ、セクハラ、マタハラ、SOGIハラ(個々人が持つ性的思考や性自認に関して、差別や嫌がらせをすること)などの、何らかのハラスメントを受けたと回答した。有効回答者数1218人中、882人が「ある」と答えたのだ。また自由記述回答として、様々な体験談が寄せられた。

「取引先に私的な交際を迫られ、それでも仕事の関係者なのでやんわりとお断りしましたところ、逆上され毎日ひどいメールを送り付けられた。こちらも応戦せざるを得なくなると、色んな理由を付けてお金を支払ってくれなかった。」(女性40代、広報)

「性的な関係を迫られてお断りしたら、知らないうちに周りに『あいつは女癖が悪い』と噂を流され、結果仕事を振られなくなった」(男性30代、声優)

「打ち合わせと称して、ホテルに呼び出されてレイプされた。その後、数ヶ月の軟禁。公私ともにDV・連日のレイプでボロボロに」(女性40代、映像制作技術者)

 このような事例がある現代の日本、法的な制度は完備されているのだろうか? 東京都港区にあるベリーべスト法律事務所で労働問題を中心に手掛けている松井剛弁護士に話を聞いてみた。

◆業務委託契約の穴 時代の流れに追いつけていない行政がある

 最初に、松井弁護士に調査結果を見てもらい、所感を述べてもらった。

「フリーランスの方は、基本的には契約相手と対等な関係とされています。労働契約を締結している使用者と労働者と違って、契約交渉なども対等ですべきだという前提があります。

 もっとも、フリーランスの方の中には、仕事を得るためには多少悪い条件でも契約しなければならないという方もいて、現実的には力関係に差があることが多々あります。フリーランスでも、ある一つの客先に依存しているという状況であれば、契約の打切りは実質的には解雇に等しくなってしまうでしょう。そのようなことから、強い立場の人が、それを利用してハラスメント行為に及ぶことがあると思います」

 フリーランスに対するハラスメント行為に対して、法的整備ができていない理由は、契約形態にあると松井弁護士は話す。フリーランスの人が会社から仕事の依頼を受けるときは、労働契約ではなく業務委託契約を結ぶことになる。企業に雇用されるわけではないため、対等な立場で業務の依頼を受けるのだ。

 松井弁護士は、「業務委託契約は、発注者からいつでも解除することができる」と話す。契約を切った理由は、どこかに書かれるわけではないため、明確にはならない。(※委任契約は、基本的にいつでも解除可能。請負契約の場合は、納品物を収める前であれば受託者に損害を保証することで解除可能。)

 たとえ、ハラスメントがあって契約を切られたと弁護士事務所に駆け込んでも、「ハラスメントがあったのかの立証」や「ハラスメントによって契約を解除されたことの証明」をどの程度できるか検証しなければならない。証明できないとなると、ただの契約解除にしか過ぎなくなるため、違法行為とはいえなくなるのだ。

「行政や国会が法律等の整備を怠っているというより、時代の流れに追いつききれていないのでは」

 こうした制度の穴は、働き方が多様化してきたから生まれたもの。フリーランスという存在はあったが、その言葉自体は昨今台頭してきたもので、過去においては多くの人がやむなく泣き寝入りしたり、されるがままであったのだ。

 実際、今年5月にも、いわゆる「女性活躍・ハラスメント規制法」が成立したが、雇用されていないフリーランスは対象外とされた。附帯決議(衆参議員の委員会が法案を可決するときに、委員会の意思表明として行う決議のこと)では、フリーランスや就職活動中の学生に対するハラスメント対策を講じるとされたものの、法整備は“まだこれから”といったところなのだ。

◆何がハラスメントに当たるのか理解しておくことが必要

「パワハラやセクハラといった言葉はみなが知っている。しかし、自身がパワハラやセクハラの加害者になってしまったときに、どういうリスクがあるのか、どういう扱いを受けるのかを、自分の防衛として知っておくべき。

民法上の不法行為ということで損害賠償請求をされる恐れや、場合によっては刑事責任を追及される恐れもありますが、それを知らないということは、自分のリスクを正しく把握できていないということです。被害者も自分が被害にあったときには、法的にどういう主張をすることができるのかを知っておくと良いと思います」

 松井弁護士は、会社側とフリーランス側といった双方の法的リテラシーを高めることを訴える。立場の強い側は、知ることでハラスメント行為自体の軽減に繋がるし、被害を受ける側はハラスメント行為を立証できれば、民法上の不法行為として、相手に損害賠償請求を行うことができる。

 自分が今置かれている状況に、法律がどのように適用されていくのかを知っていることが鍵となっていく。法律家に相談を受けるときには、事が起きた後になるため、制度が整備されていない現代の日本では、自分の知識を最初の防衛戦として活用することが必須となる。

「パワハラとかセクハラという言葉は多くの方が知っていますが、世間の多くの人からすると『最近パワハラ厳しくなってきたね』という程度の感覚で、実際にパワハラがあったときに法律上どのような請求ができるのか、リスクを負うのかということをきちんと把握できていないように思われます」

◆財界にとって、「使い捨てしやすい」フリーランス

「気になる点は、経済界がパワハラ規制の法制化に反対しているようであること。訴訟リスクなどが理由とされていますが、会社側の立場としてはフリーランスを使いにくくなるということもあるのかもしれません。現在の日本の労働法では、労働契約を締結した従業員を解雇することは難しい。しかし、フリーランスとの契約を解除することにはそれほどの困難は伴いません。会社側の立場に立って思いを浮かべてみたときに、外注することの何が良いって、『契約を切りやすい』っていうことではないでしょうか」 

 今の日本の労働法では、不完全な箇所もあるが、まだまだ正規労働者は保護されており、不当解雇であれば雇用主である会社側を訴えることもできる。

 業務委託契約では、最低賃金や労働時間の縛りがないため、都合の良い存在として”使われる”ケースが生まれてしまう。先述したように、委任契約では発注者側はいつでも解除できる。これを解雇と同じ基準で取り締まることになれば、会社側としてはフリーランスの使い勝手が悪くなる。雇用したほうがいいといった話になり、フリーランスの需要を減らすことにも繋がる。

 1970年ごろにできた終身雇用制度や新卒一括採用制度といった従来の日本雇用の枠組みが、令和になった今でも日本文化に根付いており、雇用者を守る法律は整備されていてもフリーランスといった新しい業務形態には対応できていないのだ。

「解雇の有効性は厳しく判断される一方で、フリーランスに対する保護は追いついていません。最初に申し上げた通り、『そこは対等な関係であるべきでしょ』とか『あなたの営業努力が足りないんじゃないの?』という考えが根底にあるのかも。実際には力関係に差があるという現実をきちんと見つめて、法整備を検討していく必要があります」

<取材協力/松井剛>

早稲田大学大学院法務研究科修了。共著に『財産分与や戸籍・親権の解決策がきちんとわかる 離婚すると決めたら読む本』(日本実業出版社)がある。

<取材・文/板垣聡旨>

【板垣聡旨】

学生時代から取材活動を行い、ライター歴は5年目に突入。新卒1年目でフリーランスのライターをしている24歳。ミレニアル世代の社会問題に興味を持ち、新興メディアからオールドメディアといった幅広い媒体に、記事の寄稿・取材協力を行っている。

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