「ほとんど喋らないのに売る」営業マンが口を開くとき、何をどう切り出すのか?

「ほとんど喋らないのに売る」営業マンが口を開くとき、何をどう切り出すのか?

bee / PIXTA(ピクスタ)

◆「ほとんど喋らない、相方も口下手」なのに売り上げる営業マン

 みなさん、こんにちは。微表情研究者の清水建二です。本日は、微表情の実務世界―営業マン編パートUをお送りしたいと思います。

 前回のおさらいです。某嗜好品を取り扱う会社で営業をするT・Yさん(30代・男性)。彼は営業のときに「ほとんど自分から喋らない」というスタイルで、相棒も「人見知りだから喋れない」という人なのになぜか高売り上げを誇る営業マンでした。

 そんな彼は何をしていたのか? まず、二人一組での営業時、T・Yさんはお客さんの微表情・動作から、お客さんの「買う」「買わない」「悩む」をリスト化し、様々な角度からご自身の判断の答え合わせをする様子をお話ししてくれました。

 このリストが正確になるまで具体的な営業トークは始めないようです。また、T・Yさんは前回「僕は営業が嫌いな営業マンだ。」とおっしゃいました。その意味が今回明らかとなります。

 いよいよ、T・Yさんの口が開きます。お客さんが「買う」反応をした商品をお客さんの右側に、お客さんの「買わない」は左端に、「悩む」は正面に置き、営業トーク開始です。

◆営業が嫌いな営業マンの営業トークとは?

「『悩む!』商品の中でも最も動作が乖離した反応のものを指差して、『この商品についてどう思われますか?』と質問します。そこから深堀りをしていきますが、『買わない!』商品を利用した展開をしていきます。

 例えば、

僕:この商品についてどう思われますか?

客:いいよね〜

僕:どの辺がいいと思いますか?

客:○○の部分のラインがいいよね〜

僕:ラインがいいですよね〜。他には?

客:あと、全体的なバランスがいいと思う

僕:バランスですか……。へんなこと聞きますけどバランスがいいというのはどういうことなのでしょうか。例えばこの商品(『買わない!』リストに入れた商品)と比べてどうでしょうか

客:それはね……。

 と一つ一つ、訊いていきます。

(営業の)相方が『そんなこともわからないの?』のような軽蔑のまなざしを僕に向けてくれると尚良いのです。そうすることでお客さん側にも優越感が生まれることがあるからです」

◆客にプレゼンさせることで商品への愛着を持たせる

 このように「悩む」商品が「買わない」商品に比べて、相対的にさらに良い商品になり、「買う」リスト入りしていた商品だけでなく、「悩む」リスト入りの商品も購入してもらえる可能性が高まるとのことです。

 さらに「買わない」リスト入りの商品が、「買う」リストに入ることもあるようです。

「ちなみに、お客さんに商品を誰かにプレゼンしてもらうことでその商品に愛着が湧いて購入動機に傾くことがあります。プレゼンする商品に愛着が湧くことで『買わない!』リストの商品が『買う!』リスト入りしたりすることがあるのです。」

 T・Yさんの微表情観察、非言語観察、そして質問を用いた商品の提示の仕方、その一つ一つのどれもがとても高度であることがわかります。それを実に自然に使いこなされている様子が伺えます。まさに科学的知見を体得している、という言葉がピッタリでしょう。

◆「いらないなら買わなくてもいい」スタンス

 最後にT・Yさんの営業にかける想いを語って下さいました。

「お客さんが望まないものを買ってほしくないのです。苦情や次回の商談で警戒されるからです。お客さんの表情から感情を推察し、心に寄り添って欲しいものを気持ちよく買ってもらう。それが100円であろうが100万円であろうが、気持ちは変わりません。自分で決めて買って欲しいのです。僕からは決して『買ってほしい』というアプローチはしません。逆に『いらないなら買わなくてもいい』スタンスを取り続けます。そういう意味で僕は営業嫌いな営業マンなのです」

◆相手の心が向かう方向に意識を向け、同じ想いで、Wantを探す

 実は弊社の研修で営業担当向けの研修を行うことがあります。顧客となる企業さんにはある傾向があります。

 それはホスピタリティー意識が極限まで高い、あるいは高額商品を扱う企業さんです。「観察の小さな差が大きな差をもたらす」と考え、「もはや普通の営業スキル研修は完璧」「名人営業マンの暗黙知を科学的に解き明かした研修」を望まれる企業さんに、微表情を始めとする非言語観察研修は人気です。

 T・Yさんの言葉にありますが、微表情を用いた営業手法は心理誘導ではありません。

 いたずらに、こちらの思うままに、「相手を動かす」のではありません。相手の心が向かう方向に意識を向け、同じ想いで、Wantを探す。こうした営為が、目先だけの取引ではなく、信頼関係のある長期的な取引に通じるのだと思います。

<文/清水建二>

【清水建二】

株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。

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