「買うか借りるか」。物件を取り上げることを生業にする不動産執行人はその質問にどう答えるか?<不動産執行人は見た43>

「買うか借りるか」。物件を取り上げることを生業にする不動産執行人はその質問にどう答えるか?<不動産執行人は見た43>

Ryozo / PIXTA(ピクスタ)

◆不動産執行人が「答えづらい」質問

「災害も多いですし、フットワークの軽い賃貸のほうがいいですよね?それとも無理して家を買ったほうがいいですか?」

 このどちらも支持できない二択質問を最近よく問われる。

 以前にもこの“賃貸vs持ち家”というテーマに触れたことはあるのだが、それでも賃貸派は賃貸暮らしを肯定する意見や理由を求めているらしい。

 もしそうであるならば、差し押さえ・不動産執行の現場に携わるものから「賃貸のほうがいいよ」という答えはまず出てこないと思われるため、賃貸オーナーや不動産投資家、不動産屋を当たったほうが良い。

 というのも我々は何の落ち度もなく賃貸物件で暮らす賃借人から、物件を取り上げるという部分を担うことも多く、彼らの陥る身動きの取れない状況を目の当たりにしているからだ――。

 差し押さえ・不動産執行から発生する賃借人の追い出しという事例、その大半は収益物件のオーナー(つまり大家)が出す不渡り(債務不履行)を主原因とする。

 よって賃借人に全く落ち度はなく、家賃滞納も無い。

 ある日突然身に覚えのない書面が届き、無視していようが我々がやってくる。

 全く心当たりのない書類を無視してしまう気持ちもわからないではないが、そのような場合にも強制解錠でやってくる。

 そして説明に納得しようがしまいが数ヶ月以内の立ち退きを求められることになる。

◆ほとんど無一文の賃借人はどうなるのか

 稀に新たなオーナー(競売落札者)が家賃の継続的な支払いを条件にそのまま住んでも良いという契約を結ぶこともあるが、大半はそううまくいかない。

 立ち退きを求められたものの中には、転勤で遠方から引っ越してきたばかりの一家、引きこもり女性、数人で暮らす外国人といった印象深い人々もいたのだが、現場で多く出くわす賃借人、それは高齢者だ。

 こうなってしまうと状況は芳しく無い。高齢者、特に後期高齢者が次なる賃貸物件を探すこと、賃借契約を結ぶことは難しく、次なる生活の拠点が見出せない状況に陥ってしまうのだ。

 これらは物件オーナーが独り身高齢者に部屋を貸した際に発生する確率が高まる“孤独死”による原状復帰の手間や費用、入居者離れから身を守るための措置。一概に「酷すぎる」と責め立てるものでもない。

 また、不動産執行とは少々離れるが、執行には「建物明け渡し」というものもある。

 これは賃貸物件での賃料未払いから発生する、賃借人に出ていってもらうための措置を指す。

 不動産執行の現場では、少なくとも債務者が「不動産」という財産を持っているのに対し、建物明け渡しの現場では賃借人が全く財産を持っていないというケースが目立つ。

 そうなるとどのようなことが起きるのか。

 賃借人の「自殺」だ。

◆賃貸を突然追い出されるのは死を意味する

 応答がないため室内に立ち入ると死んでいた、呼び鈴を鳴らすとガタンと物音がしたため慌てて室内に入ると首をくくっていた、突然部屋に立て籠もったかと思えば自害していた。

 ケースは様々だが彼らの選択肢は「死」と直結しており、この比率は他業務に比べ「死」と近い位置にある不動産執行と比較しても圧倒的に多い。

・引っ越しが趣味だから

・気楽だから

・近所付き合いが苦手だから

・持ち家はコストパフォマンスが悪いから

 賃貸の理由は様々だが、何らかの理由で「家賃を捻出できない」「賃貸物件を追い出される」「賃貸物件が借りられない」という状況に陥る可能性から目を背けるべきではないだろう。

「災害も多いですし、フットワークの軽い賃貸のほうがいいですか? それとも無理して家を買ったほうがいいですか?」

 冒頭の質問に対し双方オススメできないとしたのは、後者が“無理して家を買ったほうが”とあるからだ。背伸びせず手の届く範囲から小さな物件を探し出す方が賢明だろう。

 昨今の不動産バブルもピークを過ぎ、これからは長期下降トレンドに入ることが目に見えている。現に首都圏でも少々利便性に乏しい地域から不動産の価値は下落の方向へと動きはじめている。

「下落しているなら買うべきではないのでは」との発想もわからないではないが、不動産価値がどこまで下がろうとも、自分で住み続ける分には有益のままだ。

 不動産を購入する前には、最適な購入タイミングを見定めたい気持ち、最良の物件にめぐり逢いたい気持ちが必要以上に強い。

◆すべての面で満足できる不動産などは存在しない

 ところが流動的な市場に於いてどちらも満足できるポイントなど到来する可能性は極めて低く、タイミングを待ち続けても“買い時”は訪れないまま、ズルズルと賃料だけが垂れ流されていくことになる。

 全ての部分で100%満足できる不動産はまずない。どこか1点でも誇れる部分があるならばそれで十分、そのタイミングで最良の選択であったと自信を持つべきだろう。

「住めば都」という素晴らしい言葉もある。この言葉は世界中に似たようなものがある以上、万国共通の教訓的価値観と言えるのではないだろうか。

 今から四半世紀ほど前には「フリーターって新しい生き方だよね」という考え方が横行した。

 現在ではそんな言葉に踊らされた氷河期フリーターたちが定職や貯蓄を持てず、社会システムを脅かす存在となりつつある。

「賃貸暮らしって新しい生き方だよね」

 この言葉が後の世で同じような扱いとなっていなければよいのだが。

<文/ニポポ>

【ニポポ】

ニポポ(from トンガリキッズ)●2005年、トンガリキッズのメンバーとしてスーパーマリオブラザーズ楽曲をフィーチャーした「B-dash!」のスマッシュヒットで40万枚以上のセールスとプラチナディスクを受賞。また、北朝鮮やカルト教団施設などの潜入ルポ、昭和グッズ、珍品コレクションを披露するイベント、週刊誌やWeb媒体での執筆活動、動画配信でも精力的に活動中。

Twitter:@tongarikids

オフィシャルブログ:団塊ジュニアランド!

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