アイスランドが10年連続で男女格差「世界最小」の理由

アイスランドが10年連続で男女格差「世界最小」の理由

ブリュンヒルドゥル・ヘイダル・オグ・オゥマルスドッティルさん

◆10年連続、ジェンダーギャップ指数ランキング1位の国

 世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数ランキングをご存知だろうか。経済、教育、健康、政治の4つの分野のデータから作成されるこの指数は、各国における男女格差を測る指標として、注目されている。このジェンダーギャップ指数ランキングにおいて、10年連続で1位を誇っているのが、アイスランドだ。日本は、149カ国中110位(2018年)という低位で推移している。

 10月14日から16日にかけて、朝日新聞社主催「朝日地球会議2019」が開催された。「ひらかれた社会へ 多様性がはぐくむ持続可能な未来」をテーマに掲げ、3日間で多くのプログラム・講演が実施された中、16日にはアイスランド女性権利協会事務局長であるブリュンヒルドゥル・ヘイダル・オグ・オゥマルスドッティルさんが登壇。

 アイスランドのジェンダー格差是正の歴史について講演するとともに、「ジェンダー格差『世界最小』のアイスランドに学ぶ」と題し、朝日新聞社会部記者の三島あずささんと対談を行った。ジェンダー格差が著しい日本が、アイスランドから学ぶべきこととは。

◆格差が縮小するきっかけになったストライキとリーマンショック

 アイスランドは、はじめからジェンダー格差が小さい国であったわけではない。19世紀後半から20世紀中盤にかけては、女性の選挙権や、議員として国政へ参加する権利獲得に向けて緩やかに歩みを進める段階であったという。

 アイスランドにおけるジェンダー格差を縮めた大きな転換点は、2つあったという。一つは、1975年の、女性によるストライキである。アイスランドの成人女性の90%が参加したというこのストライキでは、女性が男性との同一賃金を求めて、家事労働や職場の一切から離れた。混乱する家庭や職場において、社会における女性の存在感を示したという。その5年後には、女性初の大統領を選出することとなる。

 2つ目として挙げられたのは、2008年のリーマンショックを発端とする金融危機だった。通貨が暴落し財政が破綻する中、アイスランドの女性たちは声をあげたという。「銀行のトップにも、規制当局のトップにも、女性がいなかった。有権者は、新しいものを求めていた」とブリュンヒルドゥルさんは話す。

 有権者の既存の価値観が大きく揺さぶられることとなった金融危機の後、2009年には初めて女性首相が誕生することとなった。ちなみに、首相となったヨハナ・シグルザルドッティルさんは同性愛者であり、LGBTQとして世界初の首相でもあった。

◆男性に有利につくられた法律を書き換えていく

 現在、アイスランドの国会議員の43%を女性が占めている。ブリュンヒルドゥルさんは、ジェンダー格差是正に最も必要なのは「女性による政治への参画」であると話す。

「女性が平等な参政権を得るまで、アイスランドの法律の制定は男性が行ってきたこととなる。つまりそれは、男性にとって有利となる法律がほとんどであるということ。アイスランドでは、女性の議員が増えることによって、それらの法律を次々に書き換えていった。積極的に政治に関わり女性が権力を行使することによって、議会が変わる。法律が変わる。誰もがメリットを享受できるように、書き換わっていくのです」

 ジェンダー格差を是正していく過程では、男性から「逆差別だ」という声があがることもある。アイスランドでは、男性からの反発はなかったのか。

「最初は反発があった。ただ、現在ではそういった声は少ない。何故なら、ジェンダー平等というのは男性にとっても大きなメリットになるから」

 アイスランドでは有給の育休期間として、男性、女性それぞれに3ヶ月ずつと、それに加え男女どちらが取得しても良いとされる3ヶ月を設けているが、男性が自身に付与された3ヶ月の育児休暇を放棄したところで、その分が女性に追加されるわけではないという。この制度によって、男性も含め、育休の権利を放棄する人は大幅に減ったという。

「金融危機後、育休期間を減らすか否かという議論がなされた時もあったが、主にNoという声をあげたのは男性だった」とブリュンヒルドゥルさんは話す。「男女の同一賃金を達成したからといって、男性の賃金が下がるというわけではない。むしろ、世帯としての所得が上がるということ。若い世代は、そういったことを理解しているからこそ、男女問わずフェミニストが多い。ジェンダー平等を求めている世代は、既に誕生している」

◆性暴力問題は「道半ば」

「ジェンダー格差」には、収入の格差以外にも様々な格差がある。セクハラや性暴力の問題に関しては、アイスランドも道半ばだという。

 2008年から2009年にかけて警察に通報された性暴力事件は189件だったにも関わらず、検察に回されたのは88件、有罪になったのは23件のみだったという。一方、性暴力に関するセンターには、400件を超えるカウンセリングを必要とする事案が報告されている。「性暴力は、ほとんど罰せられない犯罪だと言っていい」とブリュンヒルドゥルさんは語気を強める。

「性暴力に関しては、この5年ほどでオープンに議論することができるようになってきた。積極的に事件を精査するケースも増えてきている」

 女性権利協会では、隠れた性被害を明らかにすべく、回答に2時間も要する詳細なアンケートを実施。アイスランド女性の20%が回答し、それによれば25%の女性が何らかの性的な暴力を受けたことがあると報告したという。「アンケートを通じて聞くことで、初めて明らかになった。セクシスト(性差別主義者)は内在しており、世界共通の課題である」と語る。

◆「若い人を、テーブルにつかせてください」

 アイスランドの事例を聞くと、政治への参加然り、性暴力問題然り、根源的な問題は日本と大差はないと感じる。アイスランドの急速な進化の背景には、女性が主体となりながらも男性をも巻き込んだ草の根運動と、変化を恐れなかった国民の前向きな姿勢が垣間見える。

 アイスランドは、人口約35万人の小さな国だ。「日本には、アイスランドと比べ物にならないほどの人的資源があるはず。世界から学びながらも、他の国のロールモデルにならなければならない」と話すブリュンヒルドゥルさん。日本の若い世代へのメッセージとして「とにかく、当事者として参加することが大事」とし、「若い人に、発言の機会を与えること。若い人を、テーブルにつかせること。議論に参加させることが大事」と、力強く聴講者に訴えかけた。

<取材・文/汐凪ひかり>

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